マルク・マリー・ド・ロ
マルク・マリー・ド・ロ（Marc Marie de Rotz, 1840年3月26日 - 1914年11月7日）は、19世紀後半にカトリック・パリ外国宣教会の宣教師として来日したフランス人司祭です。彼は、長崎県西彼杵郡外海地方（現在の長崎市外海地区）を中心に、キリスト教の布教活動と並行して、貧困に苦しむ人々の救済に生涯を捧げました。
1840年、フランス北西部のノルマンディー地方、カルヴァドス県ヴォシュロール村で、ナポレオンの血を引く貴族の家に生まれました。幼少期から厳格な教育を受け、オルレアンの聖十字架学院、オルレアン神学校を経てパリ外国宣教会神学校に入学しましたが、病気のため一時退学。その後、バュー大神学校で学び、1865年に司祭に叙階されました。1867年にパリ外国宣教会に入会し、1868年6月、日本に派遣されました。
ド・ロは、長崎での宣教活動の後、1871年に横浜へ移り、日本初の石版印刷を始めました。その後、1873年に長崎に戻り、浦上四番崩れで流刑に処されていた信徒たちが釈放されたのを機に、印刷物の発行を再開しました。1874年には、伊王島で発生した赤痢が浦上地区にも蔓延した際、自ら薬箱を携え、患者の家々を回って治療と予防に尽力しました。
1878年、出津教会の主任司祭に着任すると、ド・ロは外海地区の貧困状況を目の当たりにします。この地域では、カトリックに復帰した信者やカクレキリシタンが多く住んでおり、特に海難事故で働き手を失った家族の生活は困窮を極めていました。そこでド・ロは、1880年に孤児院を開設し、1883年には救助院（黒崎村女子救助院）を設立し、授産活動を開始しました。修道女として入った婦人たちは、ド・ロの指導のもと、織物、編み物、素麺、マカロニ、パン、醤油などを製造しました。これらの製品は、外国人居留地や国内で販売され、地域の経済的自立を支えました。1886年には、住民を伝染病から守るため「ド・ロ診療所」を開設し、医療面からも地域社会に貢献しました。
ド・ロは、貴族の出身でありながら、私財を惜しみなく社会福祉事業に投じました。フランスで培った農業、印刷、医療、土木、建築、工業、養蚕業など、幅広い分野の知識と技術を外海の人々に教え、「ド・ロさま」と親しまれました。彼は、貧困者や未亡人を積極的に雇用し、西洋式の機織りや日本初のマカロニ製造工場を設立するなど、地域の経済発展にも大きく貢献しました。また、フランスから持ち込んだ農耕具や、当時としては珍しかったドリルや滑車などを活用し、地域の人々に新たな技術を伝えました。
ド・ロが設計・建築に携わった教会堂は、ゴシック様式を踏襲しつつも、日本の伝統文化を尊重した独特の建築様式が特徴です。引き戸を取り入れたり、木造建築ならではの柱と梁の配置に工夫を凝らしたりするなど、日本の職人技術を生かした建築物は、当時の厳しい環境下で実現したとは思えないほど見事なものです。1875年に建設した長崎公教神学校（旧羅典神学校）の校舎は、1972年に国の重要文化財に指定され、その歴史的価値が認められています。また、ド・ロが設計・指導した出津教会堂、大野教会堂、旧羅典神学校、旧大司教館、そして社会福祉事業に関連する遺跡は、ユネスコの世界遺産（文化遺産）暫定リストにも登録されています。
ド・ロの功績は、単に宗教活動にとどまらず、社会福祉、産業振興、文化交流など多岐にわたります。彼の伝えた製麺技術は一旦途絶えたものの、近年では「ド・ロ様そうめん」として復活し、地域の名産品となっています。
1914年11月6日、大浦天主堂司教館の建築現場で足場から転落したことが原因で持病が悪化し、翌11月7日に生涯を閉じました。彼の遺骸は、生前、愛した出津の地に埋葬されました。
ド・ロの功績を伝える施設として、ド・ロ神父記念館、旧羅典神学校、旧カトリック長崎大司教館があります。また、道の駅夕陽が丘そとめでは、特産品として「ド・ロ様そうめん」が販売されています。ド・ロは著書として『聖年祝日 校刻』や、中村近藏編の『産業上に付て佛國宣教師ド・ロ氏の口述筆記』を残しています。
ド・ロの生涯や活動について、数多くの書籍が出版されています。片岡弥吉氏の『ある明治の福祉像 ド・ロ神父の生涯』や『ド・ロ神父―世界遺産 出津の福祉像』、矢野道子氏の『ド・ロ神父黒革の日日録』などが代表的です。また、近年の研究では、中村和子氏による『ド・ロ神父の埋もれていた12通の手紙 : 禁教令解除後の宣教の苦難』が出版され、新たな視点からド・ロの活動が検証されています。
マルク・マリー・ド・ロは、宗教家、社会事業家、技術者として、日本の近代化に貢献した偉大な人物として、その名は後世に語り継がれています。
生い立ちと来日
1840年、フランス北西部のノルマンディー地方、カルヴァドス県ヴォシュロール村で、ナポレオンの血を引く貴族の家に生まれました。幼少期から厳格な教育を受け、オルレアンの聖十字架学院、オルレアン神学校を経てパリ外国宣教会神学校に入学しましたが、病気のため一時退学。その後、バュー大神学校で学び、1865年に司祭に叙階されました。1867年にパリ外国宣教会に入会し、1868年6月、日本に派遣されました。
日本での活動
ド・ロは、長崎での宣教活動の後、1871年に横浜へ移り、日本初の石版印刷を始めました。その後、1873年に長崎に戻り、浦上四番崩れで流刑に処されていた信徒たちが釈放されたのを機に、印刷物の発行を再開しました。1874年には、伊王島で発生した赤痢が浦上地区にも蔓延した際、自ら薬箱を携え、患者の家々を回って治療と予防に尽力しました。
1878年、出津教会の主任司祭に着任すると、ド・ロは外海地区の貧困状況を目の当たりにします。この地域では、カトリックに復帰した信者やカクレキリシタンが多く住んでおり、特に海難事故で働き手を失った家族の生活は困窮を極めていました。そこでド・ロは、1880年に孤児院を開設し、1883年には救助院（黒崎村女子救助院）を設立し、授産活動を開始しました。修道女として入った婦人たちは、ド・ロの指導のもと、織物、編み物、素麺、マカロニ、パン、醤油などを製造しました。これらの製品は、外国人居留地や国内で販売され、地域の経済的自立を支えました。1886年には、住民を伝染病から守るため「ド・ロ診療所」を開設し、医療面からも地域社会に貢献しました。
人物と功績
ド・ロは、貴族の出身でありながら、私財を惜しみなく社会福祉事業に投じました。フランスで培った農業、印刷、医療、土木、建築、工業、養蚕業など、幅広い分野の知識と技術を外海の人々に教え、「ド・ロさま」と親しまれました。彼は、貧困者や未亡人を積極的に雇用し、西洋式の機織りや日本初のマカロニ製造工場を設立するなど、地域の経済発展にも大きく貢献しました。また、フランスから持ち込んだ農耕具や、当時としては珍しかったドリルや滑車などを活用し、地域の人々に新たな技術を伝えました。
ド・ロが設計・建築に携わった教会堂は、ゴシック様式を踏襲しつつも、日本の伝統文化を尊重した独特の建築様式が特徴です。引き戸を取り入れたり、木造建築ならではの柱と梁の配置に工夫を凝らしたりするなど、日本の職人技術を生かした建築物は、当時の厳しい環境下で実現したとは思えないほど見事なものです。1875年に建設した長崎公教神学校（旧羅典神学校）の校舎は、1972年に国の重要文化財に指定され、その歴史的価値が認められています。また、ド・ロが設計・指導した出津教会堂、大野教会堂、旧羅典神学校、旧大司教館、そして社会福祉事業に関連する遺跡は、ユネスコの世界遺産（文化遺産）暫定リストにも登録されています。
ド・ロの功績は、単に宗教活動にとどまらず、社会福祉、産業振興、文化交流など多岐にわたります。彼の伝えた製麺技術は一旦途絶えたものの、近年では「ド・ロ様そうめん」として復活し、地域の名産品となっています。
晩年と死
1914年11月6日、大浦天主堂司教館の建築現場で足場から転落したことが原因で持病が悪化し、翌11月7日に生涯を閉じました。彼の遺骸は、生前、愛した出津の地に埋葬されました。
関連施設と著書
ド・ロの功績を伝える施設として、ド・ロ神父記念館、旧羅典神学校、旧カトリック長崎大司教館があります。また、道の駅夕陽が丘そとめでは、特産品として「ド・ロ様そうめん」が販売されています。ド・ロは著書として『聖年祝日 校刻』や、中村近藏編の『産業上に付て佛國宣教師ド・ロ氏の口述筆記』を残しています。
関連書籍
ド・ロの生涯や活動について、数多くの書籍が出版されています。片岡弥吉氏の『ある明治の福祉像 ド・ロ神父の生涯』や『ド・ロ神父―世界遺産 出津の福祉像』、矢野道子氏の『ド・ロ神父黒革の日日録』などが代表的です。また、近年の研究では、中村和子氏による『ド・ロ神父の埋もれていた12通の手紙 : 禁教令解除後の宣教の苦難』が出版され、新たな視点からド・ロの活動が検証されています。
マルク・マリー・ド・ロは、宗教家、社会事業家、技術者として、日本の近代化に貢献した偉大な人物として、その名は後世に語り継がれています。
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