ポントの王ミトリダーテ

モーツァルト作曲オペラ『ポントの王ミトリダーテ』

『ポントの王ミトリダーテ』（Mitridate, re di Ponto）K.87(74a)は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲した3幕構成のオペラで、モーツァルトにとって最初のオペラ・セリアです。

概要

1770年、14歳のモーツァルトはボローニャで、ロンバルディア地方総督府長官フィルミアン伯爵から依頼を受け、リブレットを受け取ります。同年9月29日にボローニャで序曲とレチタティーヴォの作曲に着手。10月18日にミラノに到着後、歌手の注文を聞きながら本格的な作曲を進め、12月末に全曲を完成させました。

初演は12月26日、ミラノ宮廷劇場にてモーツァルト自身の指揮で行われ、大成功を収めたと伝えられています。このオペラの成功を機に、モーツァルトはイタリア・オペラの様式を学び、『アルバのアスカニオ』や『ルーチョ・シッラ』などの作曲へと繋げていきました。

登場人物であるミトリダーテは、プルタルコスの『対比列伝』に登場する、ポントスの王ミトリダテス6世（紀元前120年 - 紀元前63年）がモデル。彼はローマ内部の抗争に乗じて小アジア一帯に勢力を拡大し、ローマの東方における覇権に挑戦した人物です。

リブレット

ヴィットーリオ・アマデオ・チーニャ＝サンティのテキストを、ジュゼッペ・パリーニがジャン・ラシーヌの悲劇に基づいて翻訳しました。

配役

ミトリダーテ：ポントの王（テノール）
アスパージア：ミトリダーテの婚約者（ソプラノ）
シーファレ：ミトリダーテの息子（ソプラノ）
ファルナーチェ：ミトリダーテの長男（アルト）
イズメーネ：パルティア王の娘（ソプラノ）
マルツィオ：ローマの護民官（テノール）
アルバーテ：ニンフェアの領主（ソプラノ）

楽器編成

フルート2、オーボエ2、ホルン4、ファゴット2、トランペット2、ヴァイオリン2部、ヴィオラ2部、チェロ、バス、ティンパニ、通奏低音（チェンバロまたはチェロ）

あらすじ

序曲

アレグロ（ニ長調、4分の4拍子）－アンダンテ・グラツィオーソ（イ長調、4分の2拍子）－プレスト（8分の3拍子）の3楽章構成で、典型的なイタリア風序曲（シンフォニア）です。

第1幕

黒海沿岸のポントスの王ミトリダーテは、ローマとの戦役に出陣する際、婚約者のアスパージアを2人の息子、シーファレとファルナーチェに託します。ミトリダーテ戦死の報告が届き、かねてからアスパージアに恋心を抱いていたファルナーチェは、彼女に迫ります。アスパージアは密かに愛を感じていたシーファレに保護を願います。

ファルナーチェがアスパージアを自分のものにしようとしますが、彼女は拒否し、シーファレに助けを求めます。2人が争っていると、ニンフェアの領主アルバーテが現れ、「ミトリダーテは生きており、ニンフェアの港に帰ってきた」と告げます。争いを止め、ミトリダーテを迎えようとする2人。ファルナーチェはミトリダーテを裏切ろうとし、シーファレは父に従う気持ちを捨てません。ローマの護民官マルツィオが登場し、ファルナーチェにローマ側への寝返りを勧めます。

場面は港に移り、ミトリダーテはファルナーチェの花嫁としてイズメーネを連れて帰還します。シーファレとファルナーチェも父を迎えに来ます。イズメーネはファルナーチェとの再会に心を動かされません。ミトリダーテはアルバーテに、自分の戦死の報告を故意に流し、息子たちのアスパージアに対する態度を探っていたことを明かします。アルバーテが2人の王子の態度を報告すると、ミトリダーテはファルナーチェの行為に激怒し、シーファレの態度に安堵します。

第2幕

ファルナーチェとイズメーネのやり取りから始まり、イズメーネはファルナーチェの心変わりを責めますが、彼は冷たいままです。ミトリダーテはイズメーネに、息子であっても容赦しないと語ります。ミトリダーテとアスパージアのやり取りでは、ミトリダーテは許婚がファルナーチェを愛していると思い込みます。アスパージアは初めてシーファレに自分の思いを告白します。ミトリダーテが一同を呼ぶことを知り、アスパージアはシーファレを避けようとします。

場面はミトリダーテの陣営に移ります。ミトリダーテはイズメーネに、ファルナーチェがアスパージアに恋心を抱いているだけでなく、敵国のローマに通じている裏切り者だと告げます。2人の息子を呼びつけ、ローマに対する戦争の続行とローマ攻撃を宣言。しりごみするファルナーチェに対し、シーファレはローマへの攻撃を進んで引き受けます。ローマの護民官マルツィオの出現にミトリダーテは激怒し、マルツィオを追いやります。ファルナーチェは、シーファレこそアスパージアの恋の相手だと暴露します。ミトリダーテは驚愕し、シーファレを隠してアスパージアに罠を仕掛けます。アスパージアは罠に気づかず、愛しているのはシーファレだと告白してしまいます。事実を知ったミトリダーテは復讐を誓い、アスパージアとシーファレは互いに死を望み、自殺を考えます。

第3幕

架空の庭園にミトリダーテが現れ、イズメーネに付き添われたアスパージアが登場します。ミトリダーテは裏切った息子たちを殺す決意を述べます。イズメーネはミトリダーテを諭し、アスパージアはシーファレの消息を尋ねます。ミトリダーテはアスパージアに妃になってほしいと請いますが、拒否されます。ミトリダーテがアスパージアを生贄にしようとしたとき、アルバーテがローマ軍の上陸とミトリダーテ軍の敗走を報告します。アスパージアの元に毒の入った杯が届けられますが、飲み干そうとした瞬間、シーファレが現れて止めます。シーファレはミトリダーテと共に戦うと言い、アスパージアを託して去ります。

場面はニンフェアの城壁の塔内部に移り、ファルナーチェが鎖で繋がれています。マルツィオがローマ兵と共に現れ、ファルナーチェを解放しますが、ファルナーチェは良心の呵責に苦しみます。

再び場面はニンフェアの王宮の大広間に変わり、負傷したミトリダーテが運ばれてきます。シーファレとアルバーテが付き添っています。ミトリダーテは自分の死を覚悟し、シーファレの忠誠心を喜びます。アスパージアが現れると、ミトリダーテは彼女をシーファレに委ねます。ファルナーチェとイズメーネも現れ、イズメーネはファルナーチェがローマ軍を撃破し、軍艦に火を放ったと告げます。ミトリダーテは彼を許し、シーファレとアスパージア、ファルナーチェとイズメーネは結ばれ、ミトリダーテは息絶えます。ポントスをはじめとする東方の国々は、ローマに屈服することなく戦い続けることを誓います。

録音

クリストフ・ルセ指揮、レ・タラン・リリク（CD）
レオポルト・ハーガー指揮、ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団（CD）
ポール・ダニエル指揮、コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団（DVD）
ニコラウス・アーノンクール指揮、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス（DVD）
マルク・ミンコフスキ指揮、レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル（DVD）

外部リンク

ポントの王ミトリダーテの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)

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