ミューズ (バンド)

概要

ミューズ（Muse）は、1994年にイングランド南西部のデヴォン州ティンマスで結成された、イギリスを代表するロックバンドです。ボーカルとギターを担当するマシュー・ベラミー、ベースのクリス・ウォルステンホルム、ドラムのドミニク・ハワードの3人によって構成されています。彼らはグラミー賞を2度受賞するなど世界的な成功を収めており、その全世界トータルセールスは2700万枚を超えています。壮大なサウンドスケープ、実験的な音楽性、そして熱狂的なライブパフォーマンスで知られ、現代ロックシーンにおいて非常に重要な存在となっています。

結成からデビュー

バンドの始まりは、マシュー、クリス、ドミニクの3人が学生時代にティンマスで別々のバンド活動を行っていたことに遡ります。ドミニクのバンドにギタリストとしてマシューが加わり、その後ベーシストのクリスが参加する形で現在のトリオ編成が固まりました。当初は「Gothic Plague」という名でファンク寄りのロックを演奏していましたが、次第にゴシックやグラムロックの要素を取り入れ、1994年には「Rocket Baby Dolls」と改名。地元開催のバンドコンテストでの優勝を機にプロとしての道を歩むことを決意し、同時にティンマスを離れてバンド名を新たに「ミューズ」としました。

その後数年間、ロンドンやマンチェスターを中心にライブ活動を展開。1998年、マネジメント企業の招きでニューヨークやロサンゼルスで行った小規模なギグが評価され、インディーズレーベルから2枚のEPを発表します。これがイギリスのインディーズ音楽メディアで注目を集め、ワーナー・ミュージック・グループ傘下のレーベル、マヴェリックとの契約へと繋がりました。

1999年、ジョン・レッキーのプロデュースにより待望のデビューアルバム『ショウビズ』をリリース。プロデューサーが過去に手がけたレディオヘッドとの類似性が指摘されることもありましたが、全英アルバムチャートで29位を記録し、NMEアワーズの新人賞を受賞するなど、バンドは確かな一歩を踏み出しました。

成功と進化（2000年代）

2000年秋から始まったセカンドアルバムの制作過程で、ミューズは独自の音楽スタイルを確立していきます。シンセサイザーを積極的に導入し、ベースにはエフェクトを駆使して音を太く、重厚に。ギターサウンドも多重録音で重ね合わせることで、唯一無二のサウンドスケープを描き出しました。その成果である2ndアルバム『オリジン・オブ・シンメトリー』は2001年に発表され、全英チャートで3位を記録。

続く2003年の3rdアルバム『アブソルーション』では、前作で培ったスタイルをさらに発展させ、壮大なスケール感を持つ「エピック・ロック」と称されるサウンドを展開しました。このアルバムは発売初週から前作の倍以上のセールスを記録し、全英アルバムチャートでバンド初の1位を獲得。イギリスを含むヨーロッパでミリオンセラーを達成したほか、初めてチャートインしたアメリカでもゴールドディスクを獲得するなど、全世界で300万枚を超える歴史的な大ヒットとなりました。同作はブリット・アワードでも主要部門にノミネートされるなど、バンドは世界的ブレイクを果たします。

アルバムの成功と並行して、ミューズはライブバンドとしての評価も飛躍的に高めます。2004年にはヨーロッパ最大級のグラストンベリー・フェスティバルでヘッドライナーを務め、圧倒的なパフォーマンスを披露。このライブは成功を収め、後に映像作品化されましたが、その裏ではドラムのドミニクの父親が会場で急逝するという悲しい出来事もありました。世界ツアー中にはクリスが一時負傷するも、サポートメンバーを加えてツアーを続行。困難を乗り越えながら、2005年にはブリット・アワードとNMEアワードで「最優秀ライブ・バンド」に選ばれるなど、そのライブ力は高く評価されました。

2006年発表の4thアルバム『ブラック・ホールズ・アンド・レヴァレイションズ』では、先行シングル「スーパー・マッシヴ・ブラックホール」でダンスミュージックの要素を取り入れるなど、音楽性の幅を広げました。また、イラク戦争など初めて政治的なテーマにも言及するなど、メンバー自身が「異色作」と語る意欲作となり、初登場全英1位を獲得。同年にはレディング＆リーズ・フェスティバルでもヘッドライナーを務め、UKフェスティヴァル・アワード最優秀ヘッドライン・アクトを受賞しました。

2007年には2年連続でブリット・アワード「最優秀ライブ・バンド」を受賞。改修されたばかりのロンドンのウェンブリー・スタジアムでの2日間公演は即完売、約16万人を動員し、その模様はライブアルバム『ハープ』としてリリースされました。同年は世界ツアーを展開し、マディソン・スクエア・ガーデンや日本のフジロックフェスティバルにも出演するなど、精力的な活動を続けました。

2008年はライブ活動を抑え、イタリアで次作の制作に着手。オーケストラを取り入れた、より長尺でプログレッシブなサウンドを目指していることが明かされました。そして2009年9月にリリースされた5thアルバム『ザ・レジスタンス』は、バンド初のセルフプロデュース作品。クイーンを彷彿とさせる楽曲、シンセポップ、中近東風のメロディー、オーケストラ組曲など、多彩な要素を取り込んだ実験的かつ壮大な作品となりました。故郷ティンマスでの凱旋公演も成功させ、イギリスの音楽誌『Q』からは「現在活躍する世界最高のライブ・バンド」に選出されるなど、その評価は揺るぎないものとなりました。

グローバルな展開（2010年代以降）

2010年代に入ると、ミューズは世界的な大規模フェスティバルやスタジアムでのヘッドライナーとして活動の規模をさらに拡大させます。『ザ・レジスタンス』に伴うツアーでは日本武道館を含むアリーナ公演を行ったほか、アメリカのコーチェラ、ドイツのロック・アム・リング、イギリスのグラストンベリーなど各地の主要フェスで大トリを務めました。

2012年には、新曲「サヴァイヴァル」がロンドンオリンピックの公式ソングに選ばれ、開会式でのパフォーマンスや聖火リレーへの参加など、音楽の枠を超えた注目を集めました。同年10月には6thアルバム『ザ・セカンド・ロウ〜熱力学第二法則』をリリース。熱力学第二法則に触発されたテーマを持つこのアルバムは、4作連続となる全英1位を記録。また、日本の映像作家である鉄拳のパラパラ漫画「振り子」を「エクソジェネシス」のオフィシャルビデオに採用するなど、異分野とのユニークなコラボレーションも実現しました。2013年には「パニック・ステーション」のミュージックビデオを全編日本で撮影・制作するなど、日本との関わりも深めています。

2015年6月に発売された7thアルバム『ドローンズ』は、敏腕プロデューサー、マット・ラングとの共同制作。この作品は全英で5作連続、かつ2週連続1位を記録しただけでなく、バンドにとって初の全米アルバムチャート1位という快挙を達成。マシュー自身も「僕らのベスト・アルバムだ」と語るほど自信作となり、2016年の第58回グラミー賞では最優秀ロック・アルバム賞を受賞しました。

その後も精力的にライブ活動を行い、2016年にはグラストンベリーで3度目のヘッドライナーを務めるなど、ライブバンドとしての評価を不動のものとしました。2018年には8thアルバム『シミュレーション・セオリー』をリリース。SFやレトロフューチャーをテーマにしたカラフルなサウンドとアートワークが特徴的な作品で、翌2019年には大規模なワールドツアーを実施しました。

2020年代に入っても活動は続き、2021年には2ndアルバム『オリジン・オブ・シンメトリー』の20周年記念リミックスバージョンを発表。2022年8月には9thアルバム『ウィル・オブ・ザ・ピープル』をリリースし、現在も進化を続けています。

日本での人気

ミューズは日本においても高い人気を誇り、デビュー当初から度々来日公演を行っています。サマーソニックやフジロックフェスティバルといった国内最大の音楽フェスには何度もヘッドライナーとして出演。日本武道館やさいたまスーパーアリーナ、横浜アリーナなど、アリーナ規模での公演も数多く成功させています。また、テレビ番組への出演や、前述の鉄拳とのコラボレーション、日本を舞台にしたミュージックビデオ制作など、日本のファンにとって親しみやすい活動も行ってきました。

壮大で実験的なサウンド、ジャンルにとらわれない多様性、そして何よりも圧倒的なライブパフォーマンスで世界中のリスナーを魅了し続けるミューズ。彼らの探求心とエネルギーは、今後もロックシーンに新たな衝撃を与え続けることでしょう。

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