メガロポリスのフィロポイメン
フィロポイメン（紀元前253年 - 紀元前183年）は、アルカディア地方の都市メガロポリス出身の政治家・将軍です。彼はアカイア同盟の指導者として八度にわたり将軍（ストラテゴス）の地位に就き、同盟を率いてペロポネソス半島における影響力を飛躍的に拡大させました。ローマ人からは、彼を最後に古代ギリシアには見るべき人物が現れなかったとの観点から、「最後のギリシア人」と称賛されました。
フィロポイメンは幼くして父クラウギスを亡くし、父の旧友であるクレアンドロスに養育されました。学問においては、民主制を奉じるアカデメイア派の哲学者エクデモスとデモファネスから教育を受け、民主主義の精神を深く叩き込まれます。彼は紀元前4世紀のテーバイの名将エパメイノンダスを自身の模範とし、その高潔な人柄にならい、禁欲的な生活を送り、国家への献身を誓いました。しかし、その性格は攻撃的で戦いを好み、さらに激情家でもあったため、エパメイノンダスのような温和さを完全に模倣することはできませんでした。
クレオメネス戦争中の紀元前223年、スパルタ王クレオメネス3世によって故郷メガロポリスが占領されます。この時、フィロポイメンは激しく抵抗して時間を稼ぎ、多くの市民がメッセニアへ避難するのを助けました。当時30歳だった彼は、馬を失い、負傷を負いながらも奮戦しました。クレオメネスはメガロポリスの市民に対し、アカイア同盟を離脱してスパルタに味方すれば都市を返還するという条件を提示しますが、フィロポイメンはこれを断固として拒否し、クレオメネスを非難しました。このため、メガロポリスは略奪・破壊されました。
翌紀元前222年のセラシアの戦いでは、アカイアの市民部隊を率いて参戦。マケドニア王アンティゴノス3世率いる連合軍の一部として配置された彼は、早まって攻撃を仕掛け窮地に陥った隣接するイリュリア人部隊を見て、指揮官にその危機を訴えます。しかし、若輩と見なされ聞き入れられなかったため、自らの判断で敵陣へ突撃し、これが戦局を打開する決定打となりました。この功績により彼の名は広く知られるようになり、アンティゴノスからも仕官の誘いを受けますが、これを断りました。
紀元前221年、フィロポイメンは傭兵隊長としてクレタ島へ渡り、戦いの中で軍事経験を積みます。10年後に帰国すると、アカイア同盟の騎兵隊長に任命されました。当時のアカイア騎兵は士気が低く弱体でしたが、彼はこれを精鋭部隊へと鍛え上げました。同時期にはラリソス川の戦いでアイトリア・エリス連合軍を破り、敵将デモファントスを自ら討ち取るという武功を立て、その名声はギリシア全土に轟きました。彼はまた、アカイア軍の歩兵装備にも改革を施します。従来の短い槍と軽量の楕円盾は接近戦に不利でしたが、彼は長槍と丸盾からなるファランクス戦術に適した装備へと変更し、軍の戦闘能力を向上させました。
紀元前207年、スパルタの僭主マカニダスがマンティネイアを攻撃した際、フィロポイメンはアカイア軍を率いてこれを迎え撃ち、マンティネイアの戦いでマカニダスを一騎討ちの末に討ち取って勝利しました。
マカニダスの死後、スパルタを支配したナビスもまた勢力拡大を目指します。第一次マケドニア戦争後、ナビスはアカイア同盟と敵対。紀元前201年にメッセネを奇襲占領すると、フィロポイメンは総司令官に救援を進言しますが容れられず、自ら市民を率いて急行。これを知ったナビスは撤退しました。
紀元前199年に将軍職を終えると再びクレタへ渡りますが、ナビスとの戦争中であったこの行動は故郷メガロポリス市民の不興を買い、追放の危機に瀕しますが無罪となり帰国します。紀元前193年に再び将軍となった彼はスパルタと海戦を行いますが不慣れなため敗北。しかし、陸上では敵陣を焼き払うなどの活躍を見せました。また、ナビスの待ち伏せを受けた際には、巧みな陣形変更でこれを撃破しました。
紀元前192年、ローマと講和していたナビスが招いたアイトリア兵に暗殺されると、フィロポイメンはこの機を逃さずスパルタへ進軍し、スパルタをアカイア同盟に加入させました。スパルタ市民は彼にナビスの館を贈ろうとしましたが、彼は清廉さを示してこれを固辞しました。
しかし、ローマの力が強まる中での彼の態度は硬化します。フィロポイメンの次の将軍がスパルタ攻撃を企てた際、彼はローマとの関係を考慮してこれを諫めますが聞き入れられませんでした。怒ったフィロポイメンは単身スパルタへ赴き、ローマ軍と共に来たアカイアの将軍に対して城門を閉ざすという強硬な態度に出ました。
紀元前188年、スパルタの敵対行為を理由に、フィロポイメンは苛烈な措置をとります。一部のスパルタ人を処刑（資料により人数に異同あり）し、都市を取り囲む城壁を破壊。領土の一部をメガロポリスに割譲させ、市民3000人を奴隷として売り払いました。多くの人々を追放する一方で、かつて追放されていたアカイア同盟協力的なスパルタ人を呼び戻しました。さらに、スパルタの伝統的なリュクルゴス法制を廃止し、アカイア同盟式の制度や教育を強制しました。
シリア王アンティオコス3世を破った後のギリシアにおけるローマの権威は絶大なものとなっていましたが、フィロポイメンは最後までアカイア同盟がローマに対抗し得ると信じ、追放したスパルタ人の帰国を迫るローマの要求を拒否するなど、反ローマ的な姿勢を貫きました。
70歳に達した紀元前183年頃、メッセネでデイノクラテスを首謀者とする反アカイア同盟の反乱が起こります。アルゴスにいたフィロポイメンは知らせを聞くとすぐにメガロポリスへ急行し、騎兵を率いて出撃しました。エウアンドロス丘付近でデイノクラテス軍と戦い一度は退けるも、敵の援軍が現れたため撤退を試みます。しかし落馬して捕らえられました。
投獄されたフィロポイメンは毒を飲むよう勧められます。その際、彼はアカイア軍のリュコルタス将軍の安否を問い、彼が無事に逃れたと聞くと、「あなたはよい知らせを教えてくれた。我々は全く不幸というわけでもないようだ」と語り、毒を仰いでその生涯を閉じました。
フィロポイメン処刑の報せを受けたアカイア同盟は報復のため出兵。リュコルタス指揮下の軍はメッセニアを攻撃し、デイノクラテスは自殺に追い込まれました。フィロポイメンは火葬され、その遺骨はまるで勝利の凱旋のごとくメガロポリスへと運ばれ、リュコルタスの息子で後に歴史家となるポリュビオスがそれに付き添いました。
フィロポイメンの死後、アカイア同盟はやがてローマの支配下に入ることになります。彼は軍事的な才能と高潔な人柄でアカイア同盟を最盛期に導きましたが、ローマへの強硬な姿勢とスパルタへの苛烈な支配は、その評価を複雑なものとしています。しかし、「最後のギリシア人」として、彼の名声は後世に語り継がれています。
青年期
フィロポイメンは幼くして父クラウギスを亡くし、父の旧友であるクレアンドロスに養育されました。学問においては、民主制を奉じるアカデメイア派の哲学者エクデモスとデモファネスから教育を受け、民主主義の精神を深く叩き込まれます。彼は紀元前4世紀のテーバイの名将エパメイノンダスを自身の模範とし、その高潔な人柄にならい、禁欲的な生活を送り、国家への献身を誓いました。しかし、その性格は攻撃的で戦いを好み、さらに激情家でもあったため、エパメイノンダスのような温和さを完全に模倣することはできませんでした。
クレオメネス戦争での活躍
クレオメネス戦争中の紀元前223年、スパルタ王クレオメネス3世によって故郷メガロポリスが占領されます。この時、フィロポイメンは激しく抵抗して時間を稼ぎ、多くの市民がメッセニアへ避難するのを助けました。当時30歳だった彼は、馬を失い、負傷を負いながらも奮戦しました。クレオメネスはメガロポリスの市民に対し、アカイア同盟を離脱してスパルタに味方すれば都市を返還するという条件を提示しますが、フィロポイメンはこれを断固として拒否し、クレオメネスを非難しました。このため、メガロポリスは略奪・破壊されました。
翌紀元前222年のセラシアの戦いでは、アカイアの市民部隊を率いて参戦。マケドニア王アンティゴノス3世率いる連合軍の一部として配置された彼は、早まって攻撃を仕掛け窮地に陥った隣接するイリュリア人部隊を見て、指揮官にその危機を訴えます。しかし、若輩と見なされ聞き入れられなかったため、自らの判断で敵陣へ突撃し、これが戦局を打開する決定打となりました。この功績により彼の名は広く知られるようになり、アンティゴノスからも仕官の誘いを受けますが、これを断りました。
軍制改革と評価の高まり
紀元前221年、フィロポイメンは傭兵隊長としてクレタ島へ渡り、戦いの中で軍事経験を積みます。10年後に帰国すると、アカイア同盟の騎兵隊長に任命されました。当時のアカイア騎兵は士気が低く弱体でしたが、彼はこれを精鋭部隊へと鍛え上げました。同時期にはラリソス川の戦いでアイトリア・エリス連合軍を破り、敵将デモファントスを自ら討ち取るという武功を立て、その名声はギリシア全土に轟きました。彼はまた、アカイア軍の歩兵装備にも改革を施します。従来の短い槍と軽量の楕円盾は接近戦に不利でしたが、彼は長槍と丸盾からなるファランクス戦術に適した装備へと変更し、軍の戦闘能力を向上させました。
スパルタとの抗争と服従
紀元前207年、スパルタの僭主マカニダスがマンティネイアを攻撃した際、フィロポイメンはアカイア軍を率いてこれを迎え撃ち、マンティネイアの戦いでマカニダスを一騎討ちの末に討ち取って勝利しました。
マカニダスの死後、スパルタを支配したナビスもまた勢力拡大を目指します。第一次マケドニア戦争後、ナビスはアカイア同盟と敵対。紀元前201年にメッセネを奇襲占領すると、フィロポイメンは総司令官に救援を進言しますが容れられず、自ら市民を率いて急行。これを知ったナビスは撤退しました。
紀元前199年に将軍職を終えると再びクレタへ渡りますが、ナビスとの戦争中であったこの行動は故郷メガロポリス市民の不興を買い、追放の危機に瀕しますが無罪となり帰国します。紀元前193年に再び将軍となった彼はスパルタと海戦を行いますが不慣れなため敗北。しかし、陸上では敵陣を焼き払うなどの活躍を見せました。また、ナビスの待ち伏せを受けた際には、巧みな陣形変更でこれを撃破しました。
紀元前192年、ローマと講和していたナビスが招いたアイトリア兵に暗殺されると、フィロポイメンはこの機を逃さずスパルタへ進軍し、スパルタをアカイア同盟に加入させました。スパルタ市民は彼にナビスの館を贈ろうとしましたが、彼は清廉さを示してこれを固辞しました。
しかし、ローマの力が強まる中での彼の態度は硬化します。フィロポイメンの次の将軍がスパルタ攻撃を企てた際、彼はローマとの関係を考慮してこれを諫めますが聞き入れられませんでした。怒ったフィロポイメンは単身スパルタへ赴き、ローマ軍と共に来たアカイアの将軍に対して城門を閉ざすという強硬な態度に出ました。
紀元前188年、スパルタの敵対行為を理由に、フィロポイメンは苛烈な措置をとります。一部のスパルタ人を処刑（資料により人数に異同あり）し、都市を取り囲む城壁を破壊。領土の一部をメガロポリスに割譲させ、市民3000人を奴隷として売り払いました。多くの人々を追放する一方で、かつて追放されていたアカイア同盟協力的なスパルタ人を呼び戻しました。さらに、スパルタの伝統的なリュクルゴス法制を廃止し、アカイア同盟式の制度や教育を強制しました。
晩年と最期
シリア王アンティオコス3世を破った後のギリシアにおけるローマの権威は絶大なものとなっていましたが、フィロポイメンは最後までアカイア同盟がローマに対抗し得ると信じ、追放したスパルタ人の帰国を迫るローマの要求を拒否するなど、反ローマ的な姿勢を貫きました。
70歳に達した紀元前183年頃、メッセネでデイノクラテスを首謀者とする反アカイア同盟の反乱が起こります。アルゴスにいたフィロポイメンは知らせを聞くとすぐにメガロポリスへ急行し、騎兵を率いて出撃しました。エウアンドロス丘付近でデイノクラテス軍と戦い一度は退けるも、敵の援軍が現れたため撤退を試みます。しかし落馬して捕らえられました。
投獄されたフィロポイメンは毒を飲むよう勧められます。その際、彼はアカイア軍のリュコルタス将軍の安否を問い、彼が無事に逃れたと聞くと、「あなたはよい知らせを教えてくれた。我々は全く不幸というわけでもないようだ」と語り、毒を仰いでその生涯を閉じました。
フィロポイメン処刑の報せを受けたアカイア同盟は報復のため出兵。リュコルタス指揮下の軍はメッセニアを攻撃し、デイノクラテスは自殺に追い込まれました。フィロポイメンは火葬され、その遺骨はまるで勝利の凱旋のごとくメガロポリスへと運ばれ、リュコルタスの息子で後に歴史家となるポリュビオスがそれに付き添いました。
フィロポイメンの死後、アカイア同盟はやがてローマの支配下に入ることになります。彼は軍事的な才能と高潔な人柄でアカイア同盟を最盛期に導きましたが、ローマへの強硬な姿勢とスパルタへの苛烈な支配は、その評価を複雑なものとしています。しかし、「最後のギリシア人」として、彼の名声は後世に語り継がれています。
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