ライオン野口
ライオン野口は、本名を野口 進（のぐち すすむ）といい、1908年6月2日に東京市本郷区根津（現在の東京都文京区）に生まれました。1961年5月8日に没しましたが、生年については1907年説も存在します。彼は日本のプロボクサーとして活躍し、大日本拳闘会に所属して1927年と1928年に日本ウェルター級チャンピオンの座に輝きました。
幼少期から東京都上野周辺では大変な腕白者として知られていました。尋常小学校を卒業した後、勤めていた問屋の主人に勧められたのが草相撲の世界でした。当時、様々な形態の相撲興行が存在する中で、野口は「宮の森」の四股名で根津神社を拠点とする草相撲の横綱として名を馳せました。地元の名士として相撲で生計を立てる道もありましたが、彼の喧嘩っ早さは治まらず、上野を離れて横浜港に身を隠すこととなります。そこで彼は「柔拳試合」という異種格闘技に触れ、外国人水夫たちとの実戦を重ねたと言われています。
1924年11月16日、野口はフィリピンのライト級ボクサー、ファイティング・チゴラと12回戦を行い、引き分けに終わりました。プロデビュー戦で外国人選手と国際戦を行うこと自体は当時もあり得ましたが、いきなり最長の12回を戦い抜いたことは異例であり、さらに1週間後には別のフィリピン人選手キーコと10回戦を行い、こちらも引き分けとなりました。
その後、田辺宗英が会長を務める帝国拳闘会拳道社（現在の帝拳ボクシングジム）が設立されると、野口も数名の選手とともにこれに参加します。しかし、資金難から道場が閉鎖されたため、神戸に本拠を置く大日本拳闘会へと移籍することになります。野口は、嘉納健治による東京のボクシング選手の大量引き抜きで移籍した一人とする説が有力ですが、長男である野口修氏の著書によれば、柔拳の経験があった縁で嘉納氏に勧誘されたのが移籍のきっかけだったとされています。
1927年6月5日、野口はアメリカのヤング・ジャクソンを3ラウンドKOで破り、日本ウェルター級王座を獲得しました。
そのファイトスタイルは、元力士の経歴を思わせる前進一辺倒の典型的なファイター型でした。ガードを固めるよりも相手を打ち倒すことを重視する好戦的なスタイルですが、単に闇雲にパンチを振るうだけではなく、一定の技術に基づいたものだったと伝えられています。
1929年8月11日未明、野口は友人の喧嘩に加勢し、複数のタクシー運転手を日本刀で斬りつけるという事件を起こしました。被害者の一人は手首を切断する重傷を負いました。この剣術は嘉納氏の道場で身につけたものとされ、被害に遭った運転手たちは口を揃えて「剣術師範の腕前だった」と証言したといいます。
この刃傷沙汰により約1年7ヶ月服役した後、野口はボクシング界に復帰します。再びウェルター級のトップ選手として、国内のライバル選手を次々と破り、国際戦でも実績を積み重ねていきました。1931年6月には、井上準之助邸宅への爆破テロ事件への関与が疑われましたが、この時は数日間の収監後、服役することなく釈放され、競技に復帰しています。
現役晩年となった1933年6月に甲子園で開催された日仏対抗戦では、フランスのキキ・ラファエルと対戦し引き分けました。この興行は1万5千人の観衆を集める盛況でした。
1933年10月10日に現役を引退した後は、愛国社の同人となり、同年11月21日にはロンドン軍縮会議への抗議として、当時の民政党総裁・若槻禮次郎を襲撃する事件を起こします。これは未遂に終わり、懲役7年の判決を受けますが、控訴審で5年に減刑されました。実働9年間のボクシングキャリアでの通算成績は56戦35勝7敗14分でした。
出所後、刑務所内で知り合った児玉誉士夫の伝手を頼り上海へ渡り、野口興行部を設立しました。ここではディック・ミネや淡谷のり子といった著名な歌手を招聘し、軍人を慰問するための興行を手掛けました。
戦後、日本へ引き揚げた後は、知人の誘いで愛媛県新居浜市に家族と移住し、当地でボクシングを教えました。この地で当時13歳だった三迫仁志と出会い、後に彼を連れて東京へ戻ります。目黒雅叙園前に野口ボクシングジム（通称：目黒ジム）を設立し、多くの門下生を育てました。当時、目黒雅叙園内で起きていた創業家・細川家の相続争いにも関与していたとされ、野口ジムの敷地は、このお家騒動を収めた功績に対する報酬として雅叙園側から寄付されたものだったとも言われています。
野口は岩田愛之助門下の国士でもありましたが、その人物像には風変わりな逸話が多く残されています。長野ハル氏によると、利権や金銭儲けの話を聞くと「身体が汚れる」として銭湯にこもったため、都内の銭湯事情に詳しかったといった話が伝えられています。
特に壮絶なのはその最期です。次男の恭が日本ボクシング史上初の親子二代にわたる日本王者となったことを祝し、医師から止められていた大量の飲酒を行いました。血を吐きながらも飲み続け、ついには吐いた血を用いて壁に「恭、チャンピオン、万歳」と書き記し、息絶えたと伝えられています。
家族としては、長男にキックボクシング創始者の野口修氏、次男に元日本フライ級チャンピオンの野口恭氏がいます。現在の野口ボクシングジム会長、野口勝氏は孫にあたります。主な門下生には、金平正紀氏、三迫仁志氏、海老原博幸氏といった名ボクサーたちがいます。また、新居浜時代には映画監督の西原儀一氏も野口に師事していました。
幼少期から東京都上野周辺では大変な腕白者として知られていました。尋常小学校を卒業した後、勤めていた問屋の主人に勧められたのが草相撲の世界でした。当時、様々な形態の相撲興行が存在する中で、野口は「宮の森」の四股名で根津神社を拠点とする草相撲の横綱として名を馳せました。地元の名士として相撲で生計を立てる道もありましたが、彼の喧嘩っ早さは治まらず、上野を離れて横浜港に身を隠すこととなります。そこで彼は「柔拳試合」という異種格闘技に触れ、外国人水夫たちとの実戦を重ねたと言われています。
1924年11月16日、野口はフィリピンのライト級ボクサー、ファイティング・チゴラと12回戦を行い、引き分けに終わりました。プロデビュー戦で外国人選手と国際戦を行うこと自体は当時もあり得ましたが、いきなり最長の12回を戦い抜いたことは異例であり、さらに1週間後には別のフィリピン人選手キーコと10回戦を行い、こちらも引き分けとなりました。
その後、田辺宗英が会長を務める帝国拳闘会拳道社（現在の帝拳ボクシングジム）が設立されると、野口も数名の選手とともにこれに参加します。しかし、資金難から道場が閉鎖されたため、神戸に本拠を置く大日本拳闘会へと移籍することになります。野口は、嘉納健治による東京のボクシング選手の大量引き抜きで移籍した一人とする説が有力ですが、長男である野口修氏の著書によれば、柔拳の経験があった縁で嘉納氏に勧誘されたのが移籍のきっかけだったとされています。
1927年6月5日、野口はアメリカのヤング・ジャクソンを3ラウンドKOで破り、日本ウェルター級王座を獲得しました。
そのファイトスタイルは、元力士の経歴を思わせる前進一辺倒の典型的なファイター型でした。ガードを固めるよりも相手を打ち倒すことを重視する好戦的なスタイルですが、単に闇雲にパンチを振るうだけではなく、一定の技術に基づいたものだったと伝えられています。
1929年8月11日未明、野口は友人の喧嘩に加勢し、複数のタクシー運転手を日本刀で斬りつけるという事件を起こしました。被害者の一人は手首を切断する重傷を負いました。この剣術は嘉納氏の道場で身につけたものとされ、被害に遭った運転手たちは口を揃えて「剣術師範の腕前だった」と証言したといいます。
この刃傷沙汰により約1年7ヶ月服役した後、野口はボクシング界に復帰します。再びウェルター級のトップ選手として、国内のライバル選手を次々と破り、国際戦でも実績を積み重ねていきました。1931年6月には、井上準之助邸宅への爆破テロ事件への関与が疑われましたが、この時は数日間の収監後、服役することなく釈放され、競技に復帰しています。
現役晩年となった1933年6月に甲子園で開催された日仏対抗戦では、フランスのキキ・ラファエルと対戦し引き分けました。この興行は1万5千人の観衆を集める盛況でした。
1933年10月10日に現役を引退した後は、愛国社の同人となり、同年11月21日にはロンドン軍縮会議への抗議として、当時の民政党総裁・若槻禮次郎を襲撃する事件を起こします。これは未遂に終わり、懲役7年の判決を受けますが、控訴審で5年に減刑されました。実働9年間のボクシングキャリアでの通算成績は56戦35勝7敗14分でした。
出所後、刑務所内で知り合った児玉誉士夫の伝手を頼り上海へ渡り、野口興行部を設立しました。ここではディック・ミネや淡谷のり子といった著名な歌手を招聘し、軍人を慰問するための興行を手掛けました。
戦後、日本へ引き揚げた後は、知人の誘いで愛媛県新居浜市に家族と移住し、当地でボクシングを教えました。この地で当時13歳だった三迫仁志と出会い、後に彼を連れて東京へ戻ります。目黒雅叙園前に野口ボクシングジム（通称：目黒ジム）を設立し、多くの門下生を育てました。当時、目黒雅叙園内で起きていた創業家・細川家の相続争いにも関与していたとされ、野口ジムの敷地は、このお家騒動を収めた功績に対する報酬として雅叙園側から寄付されたものだったとも言われています。
野口は岩田愛之助門下の国士でもありましたが、その人物像には風変わりな逸話が多く残されています。長野ハル氏によると、利権や金銭儲けの話を聞くと「身体が汚れる」として銭湯にこもったため、都内の銭湯事情に詳しかったといった話が伝えられています。
特に壮絶なのはその最期です。次男の恭が日本ボクシング史上初の親子二代にわたる日本王者となったことを祝し、医師から止められていた大量の飲酒を行いました。血を吐きながらも飲み続け、ついには吐いた血を用いて壁に「恭、チャンピオン、万歳」と書き記し、息絶えたと伝えられています。
家族としては、長男にキックボクシング創始者の野口修氏、次男に元日本フライ級チャンピオンの野口恭氏がいます。現在の野口ボクシングジム会長、野口勝氏は孫にあたります。主な門下生には、金平正紀氏、三迫仁志氏、海老原博幸氏といった名ボクサーたちがいます。また、新居浜時代には映画監督の西原儀一氏も野口に師事していました。
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