ルーマニアの歴史

ルーマニアは、その国名が示す通り、バルカン半島におけるラテン文化圏に位置する国です。しかし、その歴史は周辺のスラヴ民族と同様に、ビザンティン文化やオスマン帝国、ハプスブルク帝国の影響を強く受け、独自の発展を遂げました。冷戦時代には、ニコラエ・チャウシェスクによる共産主義独裁体制が敷かれ、1989年のルーマニア革命によって劇的な変化を経験しました。

古代：ダキア人とローマ化

ルーマニアの地には、旧石器時代から人が定住していました。紀元前2000年頃には、トラキア人から派生したダキア人が居住し、紀元前60年頃には統一国家を形成しました。2世紀初頭、ローマ帝国のトラヤヌス帝はダキア戦争でダキア王デケバルスを破り、ドナウ川以北を属州ダキアとしました。

ローマの属州となると、ローマ人の植民が進み、ダキア人はローマ人と混血し、ローマ化が進みました。これが現代ルーマニア人の直接の祖先となります。また、2世紀から3世紀にかけてキリスト教が普及し、ルーマニアでは聖アンドレがダキアにキリスト教を伝えたとされています。

271年、ローマ帝国はダキアを放棄し、ゲルマン民族の西ゴート族がこの地を支配しました。その後、フン族の西進により西ゴート族はイベリア半島へ移動し、スラヴ民族の移住が進みました。さらに、ブルガール人が1000年頃まで支配しましたが、ローマ人（ラテン民族）の特色は残りました。

中世：ワラキア、トランシルヴァニア、モルダヴィア

10世紀には、各地に小国が成立し、ワラキア、トランシルヴァニア、モルダヴィアの3つの国に集約されていきました。1054年の東西教会分裂の際、ルーマニアの3国は東方教会に組み込まれました。トランシルヴァニアは早くからハンガリー王国の支配下に入り、その後ハプスブルク家の支配を受けました。この地域がルーマニアに復帰したのは、20世紀初頭の1918年です。ワラキアとモルダヴィアは、13世紀にタタール人に征服されましたが、14世紀にはタタール人を退け、ワラキア公国とモルダヴィア公国が成立しました。しかし、周辺国からの脅威にさらされ、1415年にはワラキア公国がオスマン帝国の宗主下に入りました。ワラキアでは、ヴラド・ツェペシュ（串刺し公）がオスマン帝国と戦い、現代のルーマニア人からは英雄として捉えられています。モルダヴィア公国は、シュテファン大公の時代にはオスマン帝国を破ることもありましたが、16世紀には自治を条件にオスマン帝国の支配下に入りました。

近代：独立と「大ルーマニア」の成立

1699年のカルロヴィッツ条約以降、ルーマニアの地はオーストリア帝国とロシア帝国の影響を強く受けるようになりました。1821年には、トゥドル・ウラジミレスクによるワラキア蜂起が起こりましたが、オスマン帝国によって鎮圧されました。19世紀にはロシアが占領しましたが、オスマン帝国の宗主下でワラキアとモルダヴィアの連合公国が成立。1859年にアレクサンドル・ヨアン・クザが両公国の公となり、1861年にルーマニア公国へと統合されました。1866年には、ドイツのホーエンツォレルン＝ジグマリンゲン家からカロル1世が迎えられ、国内の近代化を推進しました。1877年の露土戦争に参戦し、独立を宣言。翌年のサン・ステファノ条約とベルリン会議で列強の承認を受けました。1881年には、カロル1世は国王に即位し、ルーマニア王国が樹立されました。

第一次世界大戦では、1916年に連合国側で参戦し、トランシルヴァニア地方の併合を目指しましたが、首都ブカレストを陥落させられました。休戦後の1918年には、ブコヴィナ、トランシルバニア、ドブロジャ、ベッサラビアを獲得し、「大ルーマニア」を実現させました。

社会主義時代とルーマニア革命

第二次世界大戦では、独ソ不可侵条約を受けてハンガリーがトランシルバニアに進駐、ソ連がベッサラビアとブコヴィナを占領しました。その後、ルーマニアは枢軸国として参戦しましたが、1944年に政変が起こり連合国側に転じました。戦後、ベッサラビアとブコヴィナをソ連に奪われ、1947年には王政が廃止され、ルーマニア人民共和国が成立しました。

1965年には、チャウシェスクが指導者となり、国号をルーマニア社会主義共和国に変更。1974年には大統領に就任し、独裁体制を敷きました。急速な重工業化を目指し、西側からの技術導入で債務を膨張させました。1989年、東欧の民主化の波がルーマニアにも押し寄せ、ルーマニア革命が勃発。チャウシェスク夫妻は処刑され、社会主義体制は崩壊しました。

革命後：民主化とEU加盟

1992年には、イオン・イリエスクが大統領に就任し、民主化が進められました。しかし、高失業率や経済成長の停滞など、課題も多く残されました。2007年には、欧州連合（EU）に加盟しました。

ルーマニアの歴史は、多様な民族と文化が交錯する中で形成されてきました。その複雑な歴史は、現代のルーマニアにも深く影響を与えています。

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