レビラト婚

レビラト婚（レビレート婚）とは

レビラト婚とは、夫が亡くなった後、その未亡人が故人の兄弟と結婚する慣習を指します。この言葉は、ラテン語で「夫の兄弟」を意味する「levir」に由来します。

類似の慣習として、亡くなった妻の代わりにその姉妹が夫と結婚する「ソロレート婚」があります。

レビラト婚の役割と歴史

レビラト婚は、最初の婚姻によって結ばれた親族集団間の繋がりを維持する役割を担っていました。歴史的には、ユダヤ、パンジャブ、モンゴル、匈奴、チベットなどの民族に見られ、兄弟が寡婦の権利と義務を受け継ぐ場合を含めると、世界中に広く分布しています。

古代ユダヤにおけるレビラト婚

古代ユダヤにおいては、レビラト婚は禁止と義務の両方の側面を持っていました。律法の『レビ記』では、兄弟の妻と性的な関係を持つことは禁じられていましたが、子供がいないまま夫が亡くなった場合には、『申命記』の規定に基づき、夫の兄弟が未亡人と結婚することが義務付けられていました。この慣習は、故人の血統を絶やさないための重要な手段と考えられていました。

中国におけるレビラト婚

中国では、同姓不婚の原則や儒教的な観点から、レビラト婚はタブーとされていました。周辺国のレビラト婚を「蛮族の風習」として嫌い、実の兄弟の妻だけでなく、一門の女性を妻とすることも避けられました。

日本におけるレビラト婚

日本では、「逆縁婚」や「もらい婚」と呼ばれる慣習が存在しました。武家の間でも見られましたが、儒教の価値観が浸透した江戸時代中期以降は、武家社会では避けられる傾向にありました。しかし、庶民の間では受け入れられており、武家社会への配慮から、1875年に逆縁婚は禁止されましたが、その後の民法には禁止規定は盛り込まれませんでした。近代日本においても、戦死した兵士の妻がその兄弟と再婚する事例が見られました。

歴史上の人物の例

レビラト婚は、歴史上の様々な人物に見られます。

ヨーロッパ

古代ギリシアのメントルの妻バルシネは、メントルの死後、メントルの弟メムノンの妻となりました。
イングランド王ヘンリー8世の最初の王妃キャサリン・オブ・アラゴンは、ヘンリーの兄アーサーと死別後にヘンリーと再婚しました。
ポーランド王ヴワディスワフ4世の2番目の王妃ルドヴィーカ・マリア・ゴンザーガは、ヴワディスワフの死後にその異母弟ヤン2世と再婚しました。

中東

ヘロデ大王の息子アレクサンドロスの妻グラフュラは、夫の処刑後、アレクサンドロスの異母弟アルケラオスと再婚しました。

中国

唐の太宗李世民は、弟の妃であった楊氏と関係を持ちました。
金の太祖阿骨打の次男の妃蒲察氏は、その死後に異母兄と再婚しました。

日本

古河公方足利義氏の娘（足利氏姫）は、足利国朝の死後、その弟足利頼氏と再婚しました。
徳川家康の異父妹多劫姫は、最初の夫松平忠正の死後にその弟忠吉と再婚しました。

レビラト婚を扱った作品

レビラト婚は、文学作品や映画の題材としても取り上げられています。

ハムレット: ウィリアム・シェイクスピアの戯曲では、主人公ハムレットの父王の死後、王の弟が王位を簒奪し、ハムレットの母と再婚します。
ホーリー・ウェディング: コメディ映画では、事故死した夫の代わりに、その弟と再婚することになった女性が描かれています。
車井戸はなぜ軋る: 横溝正史の推理小説では、旧家で当主の弟が、生死不明の兄の妻と再婚しようとする様子が描かれています。

参考文献

フラウィウス・ヨセフス 著、秦剛平 訳『ユダヤ古代誌5 新約時代編[XV][XVI][XVII]』筑摩書房、2000年。
フラウィウス・ヨセフス 著、秦剛平 訳『ユダヤ戦記1』筑摩書房、2002年。
椎野若菜「寡婦が男を選ぶとき：ケニア・ルオ村落における代理夫選択の実践」『アフリカ研究』第2001巻第59号、日本アフリカ学会、2001年。

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