ロバータ・ピータース

ロバータ・ピータース（Roberta Peters）は、1930年5月4日にニューヨーク市ブロンクス区に生まれ、2017年1月18日にその生涯を閉じた、20世紀を代表するアメリカ出身のソプラノ歌手です。

13歳という若さで声楽の道を志した彼女は、著名なテノール歌手ジャン・ピアースにその才能を見出され、ウィリアム・ハーマンに師事して本格的な研鑽を積みました。類まれな才能は早くから開花し、19歳の時には世界最高峰のオペラハウスの一つであるメトロポリタン歌劇場のオーディションに挑戦し、見事合格を勝ち取ります。

そして翌年、20歳になったばかりの1950年11月17日、メトロポリタン歌劇場の舞台で、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲の歌劇《ドン・ジョヴァンニ》に登場する快活な村娘ツェルリーナ役を歌い、オペラ歌手としての記念すべきデビューを飾りました。このデビューはセンセーショナルな成功を収め、彼女は瞬く間に歌劇場に欠かせない存在となります。

デビュー以来、ロバータ・ピータースは実に35年もの長きにわたり、メトロポリタン歌劇場との出演契約を保持し続けました。これは劇場の歴史においても特筆すべきキャリアの長さであり、彼女がいかに安定した高い技術と人気を誇っていたかを物語っています。その間、彼女はメトロポリタン歌劇場を拠点としながら、シカゴ、サンフランシスコ、シンシナティといったアメリカ各地の主要な歌劇場にも頻繁に客演し、国内での名声を不動のものとしました。

国際的な舞台にも早くから進出し、その活動範囲はアメリカ大陸に留まりませんでした。1951年には、指揮者トーマス・ビーチャムの下、マイケル・ウィリアム・バルフの歌劇《ボヘミアの少女》に参加するため、ロンドンのコヴェントガーデン王立歌劇場に初登場。1950年代半ばには、イタリアの主要都市にある歌劇場や、ウィーン国立歌劇場、さらにはオーストリアの世界的な音楽祭であるザルツブルク音楽祭にも出演し、ヨーロッパ全土でその輝かしい名声を確立しました。1972年にはモスクワのボリショイ劇場にも客演を果たし、遠くロシアの聴衆をも魅了するなど、文字通り国際的なキャリアを展開しました。

彼女のレパートリーは幅広く、特にコロラトゥーラやリリック・コロラトゥーラ系の役で高い評価を得ました。軽やかで正確なテクニック、澄み切った美しい声、そして愛らしい舞台姿は多くの人々を魅了し、数々の名演を残しています。

彼女が特に得意とし、繰り返し演じた役には以下のようなものがあります。

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
《ドン・ジョヴァンニ》 ツェルリーナ
《魔笛》 夜の女王
《フィガロの結婚》 バルバリーナ、スザンナ
《コジ・ファン・トゥッテ》 デスピーナ
ジョアキーノ・ロッシーニ
《セビリアの理髪師》 ロジーナ
ジュゼッペ・ヴェルディ
《リゴレット》 ジルダ
《仮面舞踏会》 オスカル
《ファルスタッフ》 ナンネッタ
ジャコモ・プッチーニ
《ジャンニ・スキッキ》 ラウレッタ
リヒャルト・シュトラウス
《ばらの騎士》 ゾフィー
《アラベラ》 フィアカーミリ
リヒャルト・ワーグナー
《タンホイザー》 羊飼い
ヨハン・シュトラウス2世
《こうもり》 アデーレ
クリストフ・ヴィリバルト・グルック
《オルフェオとエウリディーチェ》 愛の神
ジャック・オッフェンバック
《ホフマン物語》 オランピア
ガエターノ・ドニゼッティ
《ドン・パスクワーレ》 ノリーナ
《ランメルモールのルチア》 ルチア
《愛の妙薬》 アディーナ
《夢遊病の女》 アミーナ
リヒャルト・シュトラウス
《ナクソス島のアリアドネ》 ツェルビネッタ
ジャン・カルロ・メノッティ
《最後の野蛮人》 キティ
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
* 《フィデリオ》 マルツェリーネ

ロバータ・ピータースは、その卓越した技術と魅力的なパフォーマンスにより、特にメトロポリタン歌劇場の黄金期を支えたソプラノの一人として、オペラの歴史にその名を刻んでいます。彼女の録音は現在も多くのファンに愛され続けています。

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