ヴァイオリン協奏曲 (ベルク)

アルバン・ベルク《ヴァイオリン協奏曲》

アルバン・ベルクの《ヴァイオリン協奏曲》は、1935年8月11日に完成された、彼の最も有名な作品の一つです。「ある天使の思い出に」（Dem Andenken eines Engels）という献辞が副題のように用いられることもあります。

作曲の背景

1935年2月、ヴァイオリニストのルイス・クラスナーがベルクにヴァイオリン協奏曲を依頼しました。当時ベルクはオペラ《ルル》の作曲に取り組んでいましたが、4月22日にアルマ・マーラーの娘マノン・グロピウスが18歳で急逝したことを受け、ベルクは協奏曲をマノンに捧げることを決意しました。彼はこの作品を「今までこれほど熱心に働いたことはない」と語るほど集中的に作曲し、7月にショートスコア、8月にはオーケストレーションを完成させました。しかし、ベルクは作曲中に自身の死を予感しており、この協奏曲が最後の完成作となりました。彼は1935年12月24日に亡くなり、生前にこの曲の実演を聴くことはありませんでした。

初演

《ヴァイオリン協奏曲》は、1936年4月19日にバルセロナで開催された国際現代音楽協会で初演されました。独奏はルイス・クラスナー、当初指揮はアントン・ウェーベルンが予定されていましたが、ヘルマン・シェルヘンが代役を務めました。その後、同年5月1日にロンドンで非公開演奏、12月9日にはBBC定期演奏会で公開初演が行われました。日本では、1959年3月30日に日比谷公会堂で初演されました。

楽器編成

独奏ヴァイオリンに加え、フルート（ピッコロ持ち替え）、オーボエ（コーラングレ持ち替え）、アルトサクソフォーン（第3クラリネット持ち替え）、クラリネット、バスクラリネット、ファゴット、コントラファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーン、バスチューバ、ティンパニ、打楽器、ハープ、そして弦五部からなる大規模なオーケストラによって演奏されます。

楽曲構成

演奏時間は約25～30分で、2つの楽章から構成されます。

第1楽章「アンダンテ」: マノンの音楽的肖像を描写しています。三部形式で構成され、スケルツォ調の「アレグレット」が続きます。後半はスケルツォを中心にシンメトリックな構成を持ち、終盤にはケルンテン地方の民謡が引用されています。
第2楽章「アレグロ」: マノンの闘病生活と死、そして昇天を表しています。前半は激しい「アレグロ」で、独奏ヴァイオリンの技巧的なパッセージが続きます。後半は「アダージョ」となり、コラールが奏でられた後、民謡の回想を経て静かに曲を閉じます。

音楽的特徴

ベルクのこの作品は、恩師シェーンベルクから受け継いだ十二音技法を基盤としていますが、より自由な様式が用いられています。無調性でありながら、調的な中心を感じさせる点が特徴的です。これは、民謡やバッハのコラールを引用していることにも起因しますが、基礎音列が短三和音と長三和音の交替から成り立っていることにもよります。音列の最後の4音は全音音階で構成されており、この音列によって無調性と調性の葛藤が基礎づけられています。

音列の最初の3音はト短調、次の3音はニ長調、その次がイ短調、さらにその次がホ長調の分散和音を形成しており、調性的な要素が強く意識されています。また、音列はヴァイオリンの開放弦を順に含んでおり、作品の冒頭にその動きが現れます。

特に注目すべきは、音列の最後の4音がコラール「もう十分です」の冒頭句に一致している点です。ベルクはこれを、バッハのカンタータ第60番から引用し、クラリネットの合奏に演奏させています。このコラールは、作品全体のクライマックスで重要な役割を果たしています。

《ヴァイオリン協奏曲》は、ベルクの深い悲しみと、音楽家としての成熟が結実した傑作と言えるでしょう。

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