七座山

七座山（ななくらやま）

秋田県能代市二ツ井町に位置する七座山は、7つの峰々の総称です。きみまち阪自然公園の対岸にそびえ立ち、最高峰の権現座を望む七座神社が鎮座する、古くから信仰の対象とされてきた山です。権現座と松座には三角点が設置されています。

地理・植生

七座山は二ツ井町のほぼ中央を南北に縦断する連山で、「座」とは岩石の多い険しい場所を意味します。阿仁川と藤琴川がそれぞれ七座神社上流と七座山北方で米代川に合流しています。

東側の稜線には凝灰岩の大岸壁と天然秋田杉の美林が広がります。この天然秋田杉林は、久保田藩時代に御直山として保護され、秋田杉を中心にブナ、イタヤカエデ、ミズナラ、トチノキ、カツラなどの広葉樹を含む天然林となっています。御直山に指定されたのは、米代川沿いに位置し、緊急時に木材を迅速に搬出できる地の利があったためです。

七座山は東西で植生が大きく異なります。西側稜線は日本海からの涼風の影響を受け、アカミノイヌツゲやウラジオヨウラクなどが生育しています。かつて草刈山であった西側斜面は、昭和30年代から植林が進められました。一方、東側の混成林は広葉樹の種類が豊富で、クロビイタヤやエゾヒノキ、アワブキ、キバナハシリドコロ、クルマバツクバネソウなどの珍しい植物が生育しています。標高100m内外からブナが多数分布し、低林帯ブナ林として貴重な存在です。シケチシダは分布の北限とされています。天然杉は平均樹齢200年程度、広葉樹は80～180年程度の樹齢です。

歴史

原生林として保護されている七座山ですが、1774年と1785年には杉が1200本あまり伐採された記録も残っています。明治時代に入るまでは神社奉行の保護を受け、信仰の対象として伐採が禁止されました。明治30年以降は保安林に編入され、保護管理が徹底されています。

江戸時代には後直山として、失火や違法伐採の責任は地元の村が負うこととされたため、村では内山守を置いて監視に専念しました。その一方で、村には木材の払い下げなどの恩恵もありました。

古くから七座山一帯は修行の場として信仰を集め、1764年には般若院英泉によって天神7代が鎮座する聖地であると比定されました。その後、七座山は紀行文などに数多くの絵図や記録が残されていますが、記録によって座名が異なっています。

1788年、古川古松軒は七座神社を訪れ、『東遊雑記』に「七座山はサルが多数生息する山で、この日も数十匹のサルが現れて人々を驚かせた。恐ろしい様子だった。案内人はこの山には狒々も住んでいると言っていたが、それは定かではない」と記述しています。

1955年10月19日には二ツ井町を中心とする二ツ井地震(M5.9)が発生し、七座連山の一つの赤座山頂上から白煙が吹き上がる現象が確認されました。調査の結果、噴火は認められませんでしたが、七座山周辺で地割れや落石が確認されています。この地震の震源地は七座山の南方周辺で、震源は浅いものであったとされています。

1977年（昭和52年）には、秋田魁新報社の新観光秋田三十景の9位に『原生林の七座山』が選出されています。

岩屋と獅子頭

権現座の東斜面には岩屋があり、円仁（慈覚大師）作と伝わる獅子頭が安置されています。江戸時代にはこの獅子頭は「権現様」と呼ばれ、庶民の信仰の対象となっており、現在でも脳卒中の神として信仰されています。江戸時代の紀行家、菅江真澄によって絵として記録されていますが、現在の獅子頭は風化が進み、菅江真澄の絵図とは大きく異なり、特に右目が削られていると言われています。権現の岩屋の中には火を焚いた跡があります。

近くには「井戸ッコ」と呼ばれる湧水があり、七座神社の祭神の一つである「天津神」として信仰されています。雨乞いの際には、井戸ッコの水を全部くみ取り、権現様に祈って集落に戻ると雨が降ると伝えられています。また、暴風雨の時には白い絵馬、干ばつの時には黒い絵馬を七座神社に奉納したとされています。

法華の岩屋は、権現の岩屋から徒歩で南へ約10分の場所に位置します。岩屋の上部には蜂の巣状の穴が多数形成されており、内部には「鬼子母神」と刻まれた石碑などがあり、かつて修験の場として利用されたと考えられています。

七座山を信仰していたのは、七座山から東側の北秋田郡の地区の人々で、二ツ井町とは言語や信仰が異なっていたと言われています。

天神荘と山神社

七座山の東麓には、かつて天神荘（旧合川営林署）がありました。1932年に天神貯木場の事務所および宿泊施設として建設され、1963年に事務所が廃止された後は福利厚生施設として利用されました。1993年に閉鎖されるまで、成子内親王や北白川房子、高松宮宣仁親王、美空ひばり、大坂志郎、辰巳柳太郎などの著名人も宿泊しました。1997年には秋田杉をふんだんに使った近代遺産として国の登録有形文化財に登録されましたが、その後水害によって被害を受け、2008年に取り壊されました。

天神荘跡地から南に少し登った場所には、山神社があります。1930年に七座営林署と天神貯木場の新設工事にあたり、工事と作業の安全を祈願して建立されました。山神社はコンクリート造りで、内部には佐々木素運作の大山津見神の像が安置されています。天神荘跡地から北に少し登った場所には宝物庫がありましたが、現在は廃墟となっています。

天神貯木場と埋没遺跡

天神貯木場は、七座山の東部山麓に開設された七座営林署の貯木場です。開設は昭和6年で、面積は6.18haでした。当時、関東大震災の復旧などから木材需要が大幅に伸びていたため、良質優良材の宝庫であった小阿仁川流域の森林の利用活用を目指して開設されました。本格的な作業は昭和7年から開始されましたが、同年に発生した大洪水により丸太の大部分が流出したため、かさ上げ工事が行われました。昭和22～25年頃の最盛期には、120人から200人の職員、従業員が働き、「東洋一の大貯木場」と称されました。その後、生産量の減少と陸運の発達により役割を終え、現在では少量の木材を貯木する場所となっています。

また、天神貯木場から能代港まで丸太を筏に組み、輸送する筏流しが戦前から戦後にかけて行われていましたが、道路や陸橋の整備、トラックの性能向上により、昭和39年に姿を消しました。

昭和7年から8年のかさ上げ工事の際、七座山の東麓、米代川の川岸から200m離れた水田から3.6m～5.7mの埋没住居跡が3棟発見されました。発掘現場は米代川から5mほど高い場所にあり、家屋は土間と床間が区別され、釘は使用されていませんでした。屋内には臼や手杵、素焼きの瓶、曲げ物などがあり、「アイヌ人の遺跡」と見なされました。これは後に発掘された胡桃館遺跡と同様、平安時代初期の十和田火山大噴火によるシラス洪水で土中に埋没した家屋であると考えられています。

街道の松並木

七座山の麓には、羽州街道の一部として利用されていたルート沿いに松並木が残っています。このルートは、米代川を舟で渡り、松並木のある場所から小繋集落の対岸まで歩き、そこから再び舟で小繋に渡るというものでした。1881年の明治天皇の東北巡幸に際し、藤琴川に橋が架けられたことで、このルートの必要性はなくなりました。

登山

七座山は縦横に登山道が整備されており、低山ながら山頂を目指すコースから、ピークを縦走するコースまで、多彩なコースを選択することができます。箕座には展望台が設けられており、雄大な景色を望むことができます。七座神社の川向かいの登山口から約20分で展望台まで登ることができます。ただし、このコースは途中に行き止まりとなっている場所があり、そこにはかつて天神荘の宝物庫がありました。天神荘に宿泊した人は、この宝物庫と山神社を案内されたとされています。

天神荘跡地から権現様と法華の岩屋を通り、山頂を通って展望台に至るルートは約1時間程度です。

毎年正月には、「二ツ井山の会」主催の七座山元旦登山が行われていましたが、現在は行われていません。

参考文献

高岩山・七座山とその周辺、二ツ井町史稿 No.18、二ツ井町教育委員会
二ツ井町史編纂委員会『二ツ井町史』、1977年、p.362 - 七座山の植物

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