三条実行

三条実行（さんじょう さねゆき）は、平安時代後期の公卿であり、三条家の始祖として知られています。藤原公実を父に持ち、その次男として生まれました。彼の生涯は、朝廷内での複雑な人間関係と権力闘争に彩られていました。

実行は、鳥羽天皇の中宮である待賢門院の異母兄という特別な立場にありました。この関係から、彼は弟の徳大寺実能とともに崇徳上皇に近侍し、崇徳上皇の側近として活動しました。このため、近衛天皇の国母である美福門院とその一派とは対立関係となり、政治的な駆け引きの中で重要な役割を果たすことになりました。しかし、その一方で、実行は美福門院の従兄弟でもある嫡男の公教を鳥羽法皇の側近として送り込むなど、両勢力との間でバランスを取りながら三条家の影響力を維持しようと努めました。

保延6年（1140年）の左近衛大将の人事では、崇徳天皇の推薦により実行が候補に挙がりました。しかし、治天の君であった鳥羽法皇の意向により、源雅定が任命されることになりました。それでも、久安5年（1149年）には、崇徳上皇や藤原頼長の支援を受けて右大臣に昇進し、内大臣に昇進した源雅定を追い抜いて面目を保ちました。翌年には従一位・太政大臣に叙任され、位人臣を極めることになります。しかし、これは名誉職としての意味合いが強いものでした。

久寿2年（1155年）に藤原頼長が失脚すると、実行は崇徳上皇から離反しました。翌年の鳥羽法皇の崩御を機に勃発した保元の乱には巻き込まれることなく、その後も三条家の家格を維持しました。この実行の後裔が、清華家の一つとして繁栄した三条家です。

保元2年（1157年）には上表して致仕し、永暦元年（1160年）には出家して蓮覚と号しました。応保2年（1162年）に83歳で亡くなっています。実行は、その生涯の中で多くの官職を歴任しました。彼の官歴を見ると、従五位下から始まり、最終的には太政大臣にまで昇りつめたことがわかります。また、彼は文学にも造詣が深く、天治元年（1124年）に鳥羽上皇が高野山へ行幸した際の記録である『高野御幸記』を著しています。これは、当時の貴族の生活や文化を知る上で貴重な資料となっています。

『古事談』には、藤原実衡と牛車を争ったという逸話が残されています。摂関家に代々伝わる「ひたまゆ」という特別な毛車を巡って、実行と実衡が同時に参議に任ぜられた際、実行が実衡よりも先にこの毛車を手に入れようとしたという話です。実行は、雑色を使って実衡の車を奪い取り、その毛車を自分のものにしました。さらに、実行の子である公教の葬儀でこの毛車を使用することが決まった際、実行はそれを拒否し、代わりに別の毛車を使わせたとされています。この逸話は、実行の強引な一面と、彼が特別な毛車に対してどのような考えを持っていたのかを伝えています。

実行の家系は、父が藤原公実、母は藤原基貞の娘です。妻は藤原顕季の三女で、彼らの間には三条公教、三条公行、三条公宗などの男子がいました。また、鳥羽院の女房となった娘もおり、実行の血筋は後世にまでつながっていきました。

実行は、その生涯を通して、政治的な駆け引きと文化的な活動の両面で大きな足跡を残しました。彼の存在は、平安時代後期の貴族社会を理解する上で欠かせない要素の一つと言えるでしょう。

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