三角帽子 (ファリャ)

バレエ音楽『三角帽子』について

『三角帽子』（原題: El sombrero de tres picos）は、スペインの作家ペドロ・アントニオ・デ・アラルコンの短編小説を基に、マヌエル・デ・ファリャが作曲したバレエ音楽、およびその音楽から抜粋された2つの組曲です。この作品は、アンダルシア地方の民話をベースにしており、登場人物である代官が被る特徴的な帽子にちなんで名付けられました。日本語では「三角」と訳されますが、正確には「三つ角」のソンブレロを指します。

作曲の背景

1903年、ファリャと台本作家のカルロス・フェルナンデス・シャウは、王立サン・フェルナンド美術アカデミーのコンクール向けに、アラルコンの小説『三角帽子』を題材に選定しました。しかし、歌劇『はかなき人生』の制作が優先されたため、この企画は一時中断されました。

その後、ファリャは『恋は魔術師』で共同制作を行ったグレゴリオ・マルティネス・シエラと共に、『三角帽子』を基にしたパントマイムを制作することに。作曲中の1916年、バレエ・リュスの主催者セルゲイ・ディアギレフがファリャにバレエ音楽の作曲を依頼しました。ディアギレフは当初、『スペインの庭の夜』のバレエ化を希望しましたが、ファリャはこれに乗り気ではなく、アラルコンの小説を基にした『代官と粉屋の女房』の再構成を提案。ディアギレフはこれを受け入れ、振付にレオニード・マシーン、舞台・衣装デザインにパブロ・ピカソを起用しました。

1917年初頭には作曲がほぼ完了。ディアギレフは即時上演を求めましたが、ファリャとシエラは当初の計画通りパントマイムとしての初演を希望し、同年4月7日にマドリードのエスラバ劇場で初演されました。この時のパントマイム『代官と粉屋の女房』は小編成のオーケストラのために書かれていましたが、初演に立ち会ったディアギレフの助言により、大規模なオーケストラのための編曲と、大幅な曲の追加・カットが行われました。その結果、1919年にバレエ音楽『三角帽子』として完成を迎えました。ディアギレフは初演に力を注ぎ、指揮にエルネスト・アンセルメ、舞台美術にピカソを起用。特にピカソによる舞台デザインは有名です。

バレエの初演

初演日：1919年7月22日、ロンドン・アルハンブラ劇場
バレエ団：バレエ・リュス
上演時間：約40分
台本：グレゴリオ・マルティネス・シエラ
振付・粉屋役：レオニード・マシーン
作曲：マヌエル・デ・ファリャ
指揮：エルネスト・アンセルメ
舞台・衣装デザイン：パブロ・ピカソ
日本初演：1979年

出版

1921年にイギリスのチェスター・ミュージックから出版され、現在に至っています。

構成

全2幕、13曲で構成されています。

編成

ピッコロ、フルート2、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、打楽器5人、ピアノ、チェレスタ、ハープ、弦五部、メゾソプラノ独唱（オフステージ）。

主な登場人物

代官（三角帽子を被っている）
ルーカス（粉屋）
フラスキータ（粉屋の妻）

あらすじ

物語は、ティンパニの力強いリズムで幕を開けます。カスタネットの連打と「オレ！オレ！」という叫び声、メゾソプラノの歌が導入部を形成します。

第一幕
アンダルシアのある町に、働き者の粉屋とその美しい妻が住んでいます。ある日、好色な代官が妻に目をつけ、密かに訪れます。妻は粉屋を隠し、代官の前で情熱的な踊り「ファンダンゴ」を披露しますが、代官をからかった末に倒してしまいます。現れた粉屋は代官を殴り、代官は一旦退散します。

第二幕
夜、村人たちが祭りの中で「セギディリア」を踊る中、粉屋も「ファルーカ」を踊り出します。しかし、代官の罠によって粉屋は無実の罪で逮捕されます。代官は妻を奪おうとしますが、誤って川に落ち、妻に助けられます。しかし逃げられてしまい、代官は粉屋のベッドに潜り込みます。そこへ逃げ帰ってきた粉屋は、代官の服を見て自分の服と交換し、代官の妻のもとへ向かいます。代官は粉屋の服を着て外に出たところを警官に見つかり、村人に袋叩きにされて逃げていきます。最後は、平和を取り戻した粉屋夫婦を中心に、村人たちが踊り明かし、一件落着となります。

初演版（『代官と粉屋の女房』）

小編成オーケストラのために書かれ、打楽器は含まれていません。

編成：フルート1、オーボエ1、クラリネット1、ファゴット1、ホルン1、トランペット1、ピアノ、弦楽五重奏、メゾソプラノ独唱。
初演時は17人で演奏されました。

『三角帽子』への改編

あらすじや2幕構成は同一ですが、『三角帽子』への改編に際し、「序奏」や「粉屋の踊り」などが追加されました。「終幕の踊り」も大幅に拡張されています。また、初演版にあったベートーヴェンの交響曲第1番のパロディなどはカットされています。

『三角帽子』組曲

ファリャは後に、バレエから主要な踊りの音楽を抜粋し、2つの演奏会用組曲を編纂しました。

第1組曲
1. 序奏部
2. 粉屋の女房の踊り(ファンダンゴ)
3. 代官の踊り
4. 粉屋の女房
5. ぶどう

第2組曲
1. 近所の人たちの踊り(セギディーリャ)
2. 粉屋の踊り(ファルーカ)
3. 終幕の踊り(ホタ)

同一の主題を扱った作品

オーストリアの作曲家フーゴ・ヴォルフのオペラ『代官様』や、木下順二の戯曲『赤い陣羽織』などがあります。

備考

アメリカ初演時の舞台・衣装はサルバドール・ダリが担当しました。メゾソプラノ独唱は、オペラ歌手よりもフラメンコ歌手の方が良いとされることもあります。

外部リンク

ピカソによる代官の服のデザイン画
バレエ「三角帽子」の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
バレエ「三角帽子」第１組曲の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
バレエ「三角帽子」第２組曲の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト

参考文献

ファリャ-生涯と作品（音楽之友社、ISBN 4-27-622636-8）
三角帽子（岩波文庫、ISBN 4-00-327233-1）

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