上丸子 (川崎市)

上丸子（かみまるこ）

神奈川県川崎市中原区に位置する上丸子は、現在では住居表示が未実施であり、その全域が日本電気（NEC）玉川事業場の敷地となっている特殊な地域です。かつては独立した地域でしたが、周辺の町が分立した結果、現在はその大半が工場敷地となり、住民は0人となっています。

地理

上丸子は、南武線と東海道新幹線・横須賀線に挟まれた場所に位置し、全域がNEC玉川事業場の敷地です。北端から東端にかけては南武線を挟んで上丸子山王町に、南端は下沼部、西端は新丸子東に接しています。これらの町域はすべて中原区に属しており、上丸子は市境や区境には接していません。

歴史

中世以前

この地には、かつて古墳が築造されており、鉄剣や埴輪も出土していましたが、大正時代に多摩川の堤防工事のため撤去されました。
「丸子」という地名は古く、『吾妻鏡』にも武蔵国丸子庄として登場します。南北朝時代には丸子庄が三千院から護良親王へ譲渡されるなど、領主が変遷しました。
室町時代には「丸子保」と呼ばれ、円覚寺文書には「武蔵国丸子保平間郷」が同寺に寄進された記録が残っており、丸子保が平間までを含む広大な地域であったことが伺えます。
戦国時代には、太田道灌が「丸子城」に篭ったと伝えられていますが、地形的な観点や他の史料から、実際には丸子に陣を敷いた程度と解釈されています。また、この地を訪れた聖護院門跡の道興が歌を詠んだ記録も残っています。
『小田原衆所領役帳』には「千葉殿 20貫文 小机上丸子」とあり、この頃には後北条氏の支配下にあり、「上丸子」と分かれていたことがわかります。1589年には、川成りをめぐって世田谷領沼目郷と争いになりましたが、北条氏直の裁定により上丸子側の主張が認められました。その後、北条氏は小田原征伐により滅亡し、徳川氏の支配下に入りました。

江戸時代

江戸時代の上丸子は、旗本の斎藤氏領と日枝神社領がありましたが、後に斎藤氏は領地替えとなり、上丸子は天領となりました。農地としては水田が多く、村高は時代とともに変化しました。中原街道が整備された後は、多摩川の渡し場として重要な役割を果たし、村の収入源となりましたが、多摩川の氾濫による負担も大きかったようです。また、当地からは江戸へ年貢米を送る船も出ていましたが、大田南畝の『調布日記』には「寒村の風」と記されています。

明治以降

明治以降、当地は神奈川県に属し、行政上、上丸子村、中原村、中原町、川崎市と変遷しました。明治時代には多摩川での鮎漁や砂利採取が盛んで、大正時代には桃の生産も行われていました。
多摩川の洪水対策として、大正時代に大規模な堤防工事が行われ、集落の移転や古墳の撤去、養蚕の廃止など、大きな変化がありました。1935年には丸子橋が開通し、交通の便が向上しました。
戦時中には日本電気などの軍需産業が進出し、川崎大空襲の標的となりましたが、戦後は復興を遂げました。1943年と1957年に、上丸子から多くの町が分立しましたが、NECの工場敷地部分は新しい町名が設定されず、現在に至っています。

地名の由来

「丸子」という地名は、「丸子部（まりこべ）」という部民が暮らしていたことに由来するとされています。マリコの地名は東国に分布していますが、丸子部がどのような職能集団であったかは諸説あります。中世には「丸子郷」として上中下の区分はされていませんでしたが、戦国時代には「上丸子」と分かれた記述が見られます。
かつては「鞠子」や「毬子」とも表記され、「まりこ」と読まれていましたが、近世には「まるこ」という読みが一般的になり、新丸子駅の開業とともに、「まるこ」という読みが定着しました。

沿革

• - 1180年（治承4年）：『吾妻鏡』に「武蔵国丸子庄」と記述。
• - 1325年（正中2年）：丸子庄が護良親王に譲られる。
• - 1486年（文明18年）：道興が当地を通過。
• - 1559年（永禄2年）：『小田原衆所領役帳』に「千葉殿 20貫文 小机上丸子」と記載。
• - 1589年（天正17年）：川成りをめぐり沼目郷と争論となる。
• - 1608年（慶長13年）：中原街道が整備される。
• - 1697年（元禄10年）：斎藤氏の転封により天領となる。
• - 1765年（明和2年）：甘藷の苗が配られるも芽吹かず、肥料商人の野村文左衛門が八百八橋を架ける。
• - 1808年（文化4年）：大田南畝が視察に訪れる。
• - 1868年（明治元年）：明治維新により神奈川県所属となる。
• - 1874年（明治7年）：大区小区制により第4大区第7小区に属する。
• - 1889年（明治22年）：町村制施行により中原村の大字となる。
• - 1917年（大正6年）：電灯が引かれる。
• - 1918年（大正7年）：多摩川堤防の工事が始まる。
• - 1925年（大正14年）：新設合併で中原町が成立。
• - 1926年（大正15年）：東京横浜電鉄が開通し、新丸子駅が設置される。
• - 1928年（昭和3年）：上水道が引かれる。
• - 1929年（昭和4年）：品鶴線が開通。
• - 1933年（昭和8年）：中原町が川崎市に編入され、川崎市上丸子となる。
• - 1935年（昭和10年）：丸子橋が開通。
• - 1936年（昭和11年）：日本電気の工場が設置される。
• - 1943年（昭和18年）：上丸子天神町、上丸子八幡町、新丸子町、新丸子東、丸子通が分立。
• - 1945年（昭和20年）：川崎大空襲の被害を受ける。
• - 1957年（昭和32年）：上丸子山王町が分立し、「上丸子」として残るのは工場敷地内のみとなる。
• - 1972年（昭和47年）：川崎市が政令指定都市に移行し、川崎市中原区上丸子となる。

交通

南武線が当地の北東端を通り、向河原駅が最寄り駅です。また、西端を通る品鶴線には武蔵小杉駅が隣接しています。東海道新幹線は当地を通過しますが、駅はありません。

施設

• - NEC玉川事業場

公立の小中学校の学区は、川崎市立上丸子小学校と川崎市立中原中学校ですが、現在、当地に住民は登録されていません。

その他

• - 郵便番号：211-0003（中原郵便局管轄）

警察

町内の警察管轄区域については、詳細な情報が提供されていません。

参考文献

• - 『川崎の町名』日本地名研究所 編、川崎市、1995年。
• - 『川崎地名辞典（上）』日本地名研究所 編、川崎市、2004年。
• - 『角川日本地名大辞典 14 神奈川県』角川書店、1984年。
• - 新中原誌刊行会『川崎 新中原誌』有隣堂、1977年。
• - 「上丸子村」『新編武蔵風土記稿』 巻ノ64橘樹郡ノ7、内務省地理局、1884年6月。

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