交響曲 (矢代秋雄)

矢代秋雄 交響曲

この交響曲は、1956年にパリ留学から帰国した矢代秋雄が、日本フィルハーモニー交響楽団の委嘱によって作曲されました。スコアには「日本フィルのために」と記され、大原総一郎氏に献呈されています。作曲は1958年1月から5月にかけて行われ、同年6月9日に渡邉暁雄の指揮、日本フィルハーモニー交響楽団によって初演されました。

この作品の特徴として、セザール・フランクの交響曲に見られる循環主題の手法が用いられている点が挙げられます。また、作曲家自身が「遅筆の私としては大変な強行軍だった」と語るように、短期間で集中的に作曲されました。しかし、それは同時に、作曲家が長年温めてきた構想が具現化された瞬間でもありました。

演奏時間・作曲時期・初演

演奏時間：約35分
作曲時期：1958年
初演：1958年6月9日、渡邉暁雄指揮、日本フィルハーモニー交響楽団

編成

木管楽器: ピッコロ1（第3フルート持ち替え）、フルート2（1番奏者は第2ピッコロに持ち替え、2番奏者はバスフルートに持ち替え）、オーボエ2、コーラングレ1、クラリネット2、バスクラリネット1（第3クラリネット持ち替え）、ファゴット2、コントラファゴット1
金管楽器: ホルン4、トランペット3、トロンボーン2、バストロンボーン1、チューバ1
打楽器: ティンパニ、打楽器6名（トムトム（大・中・小）、スネアドラム、タンバリン、バスドラム、ウッドブロック、合わせシンバル、吊りシンバル、タムタム（大）、グロッケンシュピール、シロフォン、ヴィブラフォン、チューブラベル）
その他: チェレスタ（ピアノ持ち替え）、ハープ2
弦楽器: 弦五部

構成

第1楽章 Prélude: Adagio - Moderato

冒頭のAdagioは、矢代がパリ留学時代に書きかけのオスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」のための序曲を転用したとされています。Moderatoの主部では、全曲を統一する動機であるH-F-Fisの3音が、トロンボーンとチューバ、弱音器をつけたホルンとトランペット、ハープと低弦によって提示されます。この動機は、クラリネットの三度の重奏と絡み合いながら展開し、クライマックスを迎えます。その後、シンバルの強打とともにAdagioが戻り、さらに盛り上がった後に、和声的な第3動機が提示されます。再びModeratoで第1動機、第2動機が現れ、静かに楽章を終えます。

第2楽章 Scherzo: Vivace

三部形式のスケルツォで、初演時から話題となった楽章です。1950年頃に人気を博した獅子文六の小説「自由学校」に登場する神楽の太鼓のリズムに触発された作曲者は、「テンヤ、テンヤ、テンテンヤ、テンヤ」という独特のリズムパターンを全曲にわたって使用しました。このリズムは、6/8拍子と（2/8+6/8）拍子の組み合わせで構成されています。ただし、小説『自由学校』には、矢代が用いたリズム形そのものは登場しません。

第3楽章 Lento

2つの主題による5つの自由な変奏曲で構成されています。作曲者は、この楽章について「部分的にはバッハ以前のコラール変奏曲の形式をとったところがある」と述べています。各変奏は切れ目なく連続して演奏され、主題には第1楽章の第1動機に含まれる増4度音程が随所に見られます。第4変奏では、第1楽章の第2主題の動機が再現されます。

第4楽章 Adagio - Allegro energico

序奏とソナタ形式で構成されています。序奏では、冒頭に現れた第1動機がコントラファゴットとバスクラリネットによって提示され、続いて第2主題、そして第1主題がゆったりとしたテンポで現れます。これらのテーマは、第1楽章の統一動機の音程的な特徴を備えています。Allegroに入ると、ソナタ形式に則った音楽が展開し、活気に満ちた展開部ではフガートが多用されます。F#音のペダルトーンを経て再現部に至り、クライマックスを迎えます。最後に、第1楽章の和声的な第3動機が高らかに奏でられ、Prestissimoのコーダで曲は終結します。

参考文献

* 矢代秋雄『交響曲』フルスコア　音楽之友社刊　ISBN 978-4-276-91900-6

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