交響曲第7番 (ショスタコーヴィチ)

交響曲第7番ハ長調作品60「レニングラード」

ドミートリイ・ショスタコーヴィチが作曲したこの交響曲は、1942年3月29日に「プラウダ」紙で発表されたことから「レニングラード」という通称で知られています。彼の作品の中でも特に有名で人気が高く、演奏時間も最長の部類に入ります。

作曲の背景

第二次世界大戦中、ナチス・ドイツ軍に包囲されたレニングラードで作曲されました。この作品は戦争をテーマにしており、その音楽は非常に壮大です。初演当時から、共産圏だけでなく非共産圏でも高く評価されました。しかし、ソ連のプロパガンダ色が強いという批判もあり、「壮大なる愚作」と評されることもありました。1970年代後半に発表された「ショスタコーヴィチの証言」で、この作品が「スターリンによって破壊され、ヒトラーによってとどめを刺された」レニングラードを意味すると解釈されるようになってから、評価が見直され始めました。

作曲者の言葉

作品完成直後、作曲者の隣人であったフローラ・リトヴィノワは、ショスタコーヴィチが「私はこの交響曲を、わが祖国を愛するレニングラード市民たちの英雄的な闘争に捧げたい」と語ったと回想しています。また、1941年9月17日のラジオ放送で、ショスタコーヴィチは「人類の偉大な天才ウラジーミル・イリイチ・レーニンに捧げる」と述べ、作品への熱い想いを語りました。さらに、「この町で普段と変わることなく日常生活が営まれていることをお伝えしたい」とも語りましたが、その当時レニングラードではすでに飢餓が始まっていました。

作曲の過程

作曲は1941年8月頃から開始され、12月17日に完成しました。ただし、第1楽章はそれ以前から着手されていたという証言もあります。当初、ショスタコーヴィチはダヴィデの詩篇に基づく楽曲を構想していましたが、7月19日にこれを放棄し、交響曲第7番の一部となる曲を書き始めました。当初は単楽章で、最後は合唱で終わる予定でしたが、最終的には4楽章構成となりました。

初演

世界初演

1942年 3月5日、クイビシェフでサムイル・サモスード指揮、ボリショイ劇場管弦楽団によって初演されました。ソビエト政府はこれを国家的なイベントと捉え、プロパガンダとして利用しました。初演後、楽譜は「国家機密」扱いとされ、マイクロフィルムに収められた後、連合国側へ運ばれました。

国外初演

1942年 6月22日、ロンドンのプロムスでヘンリー・ウッド指揮、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団によりイギリス初演、同年7月19日には、アメリカでアルトゥーロ・トスカニーニ指揮、NBC交響楽団により初演されました。このアメリカ初演はラジオで全世界に中継され、アメリカ国内で翌年にかけて62回も演奏されました。

レニングラード初演

1942年8月9日、カール・エリアスベルク指揮、レニングラード放送交響楽団によって行われました。この初演は、ドイツ軍の侵入予定日に行われましたが、ソ連軍の砲撃によって演奏中もシャンデリアが揺れるなど、壮絶な状況下での演奏となりました。演奏者不足のため、前線から音楽家が呼び戻されるという出来事もありました。

日本初演

1950年 5月17日、上田仁指揮、東宝交響楽団によって日比谷公会堂にて行われました。

楽器編成

木管楽器：ピッコロ1、フルート2、オーボエ2、コーラングレ1、E♭管クラリネット1、クラリネット2、バスクラリネット1、ファゴット2、コントラファゴット1
金管楽器：ホルン8、トランペット6、トロンボーン6、チューバ1
打楽器：ティンパニ、トライアングル、タンバリン、小太鼓、シンバル、大太鼓、タムタム、シロフォン
その他：ピアノ、ハープ2
弦楽器：第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス

楽曲構成

演奏時間は約75分。各楽章には副題がありましたが、作曲者自身によって廃案とされました。

第1楽章：Allegretto（「戦争」）

特殊なソナタ形式で、生命力に満ちた第1主題「人間の主題」と、澄み切った第2主題「平和な生活の主題」が対比されます。展開部では、小太鼓のリズムに乗って「戦争の主題」が繰り返され、暴力的な侵攻が描かれます。再現部では、葬送行進曲となり、戦争の犠牲者を悼みます。コーダでは再び「戦争の主題」が現れますが、その活動的なリズムは第4楽章の勝利を予感させます。「戦争の主題」は、ムソルグスキーのオペラやレハールのオペレッタからの引用であるという説もあります。

第2楽章：Moderato. Poco allegretto（「回想」）

スケルツォ形式で、哀愁を帯びた木管の主題が印象的です。戦闘の激しさを表すような金管の咆哮の後、再現部では悲しげな表情に戻り、静かに終わります。

第3楽章：Adagio（「祖国の大地」）

叙情的なアダージョで、コラール主題が奏でられた後、陽気な旋律が現れます。中間部では大地を疾走するような音楽が続き、バロック様式で祖国愛が表現されます。

第4楽章：Allegro non troppo（「勝利」）

勝利のフィナーレで、第3楽章から切れ目なく続きます。序奏の同音連打はモールス信号の「V」（Victory）を表し、曲中で執拗に登場します。第1部では重要なモチーフが展開し、第2部ではサラバンド調の音楽が戦争の犠牲者を弔います。第3部では、基本モチーフが重厚に展開し、クライマックスで第1楽章の第1主題が全楽器で打ち立てられます。

評価

バルトークは、ショスタコーヴィチの作品を「国家の奴隷にまでなって作曲するものは、馬鹿」と批判しましたが、一方で自身の作品に「戦争の主題」を引用するなど、複雑な感情を持っていたようです。現在では、ショスタコーヴィチがこの作品で、ナチスだけでなくソ連政府の暴力も告発しているという説が有力になりつつあります。そのため、この作品は歴史的な記念碑的作品として再評価されています。

他ジャンルでの使用

この作品は、映画「レニングラード攻防戦」のBGMや、アリナミンVのテレビCMで使用されました。

この曲を録音した主な指揮者

エフゲニー・ムラヴィンスキー、ウラディーミル・フェドセーエフ、ユーリ・アーロノヴィチ、アレクサンドル・ドミトリエフ、マクシム・ショスタコーヴィチ、ドミトリー・キタエンコ、セミョン・ビシュコフ、ヴァシリー・ペトレンコなどがいます。