但馬国分寺

但馬国分寺とは

但馬国分寺は、兵庫県豊岡市日高町国分寺に位置する浄土宗の寺院で、山号を護国山と称します。この寺院は、奈良時代に聖武天皇の詔によって日本各地に建立された国分寺のうち、但馬国国分僧寺の後継寺院にあたります。この記事では、現在の寺院だけでなく、古代の寺院跡である但馬国分寺跡（国の史跡）と、但馬国分尼寺跡（史跡指定なし）についても解説します。

概要

但馬国分寺は、豊岡市南部の円山川が形成する国府平野にあります。この地は、かつて古代の但馬国の中心地であり、国分寺の創建以前から重要な場所でした。現在の境内は、創建時の国分寺跡と重なっており、北へ約1キロメートル離れた場所には、国分尼寺跡も存在します。また、国分寺跡の近くには、平安時代以降の国府の遺構とされる祢布ヶ森遺跡があり、古代の但馬国における政治と文化の中心地であったことがうかがえます。

古代の国分寺跡は、昭和48年（1973年）から発掘調査が行われており、その遺構は平成2年（1990年）に国の史跡として指定されました。これまでの数十回に及ぶ発掘調査の中で、特に昭和52年（1977年）の第5次調査では、全国の国分寺跡で初めて木簡が出土し、平成28年（2016年）の第34次調査では、主要な伽藍以外で回廊が発見されるなど、重要な発見が相次いでいます。

歴史

古代

但馬国分寺の創建時期は正確には分かっていませんが、天平13年（741年）の国分寺建立の詔の頃に創建されたと考えられています。『続日本紀』には、天平勝宝8歳（756年）に、聖武天皇の一周忌御斎会のために、但馬国を含む26ヶ国へ下賜が行われたという記録があり、この頃には国分寺が完成していたと推測されます。また、考古学的な調査では、国分寺跡の井戸に使われた木材の伐採年が763年であることが判明しています。

神護景雲年間（767年から770年）のものと推定される木簡には、寺の人員配置や施設・組織の一部が記録されており、醤殿、三綱炊屋、朔御倉、西倉、北倉、鋳所、院内、官坐といった部署が存在したことが分かります。また、別の木簡からは、但馬国内の各郡から労働力が徴発されていた様子もうかがえます。宝亀8年（777年）には、国分寺の塔が落雷で被害を受けたという記録も残っています。貞観4年（862年）には、但馬権守の豊井王から幡が施入されました。延長5年（927年）に成立した『延喜式』には、但馬国の国分寺料として稲2万束が割り当てられていたことが記されています。

全国の多くの国分寺が平安時代以降に衰退する中、但馬国分寺がどのような変遷を辿ったかについては、詳しい記録が残っていません。

中世

弘安8年（1285年）の『但馬国大田文』には、「国分寺」という記述が見られ、法勝寺の末寺で、寺領は寺田34町20分（歩）であったと記されています。文書によると、国分寺領は法勝寺を本家とする荘園となっており、建武5年（1338年）には光厳上皇の院宣によって「法勝寺領但馬国分寺」が白河中将に安堵されました。また、観応2年（1351年）には、地頭の伊達朝綱が南北朝の戦いで「国分寺」に参陣しました。明徳2年（1391年）には奈良の西大寺の末寺となり、永禄3年（1560年）には国分寺の土地の一部が日光院に寄進されました。天正8年（1580年）には、羽柴秀長による但馬征伐の際に、国分寺城の大坪又四郎が討たれ、国分寺も焼亡したと伝えられています。

近世

近世前期の国分寺の変遷については、詳しい記録が残っていません。延享4年（1747年）の記録には、但馬国分寺に関する言い伝えが記録されており、宝暦9年（1759年）には釈迦如来像が京都から移され、再興が図られました。宝暦13年（1[[763年]]）には、堂を再建するための勧進が行われました。文化11年（1814年）には伊能忠敬がこの地を訪れ、『測量日記』に国分寺跡と尼寺跡に関する記録を残しています。

近代以降

昭和48年（1973年）に発掘調査が開始され、平成2年（1990年）に国史跡に指定されました。平成17年（2005年）には、但馬国府・国分寺に関するガイダンス施設である但馬国府・国分寺館（豊岡市立歴史博物館）が開館しました。

但馬国分寺跡

僧寺跡

僧寺跡は、現在の国分寺の近くに位置しています。寺域は1町半（約160メートル）四方と、全国的には中規模です。伽藍は、南から南門、中門、金堂が南北一直線に配置され、中門左右から出た回廊が金堂左右に取り付いています。また、金堂の西には塔が配置されています。

発掘調査によって判明した主な遺構は以下の通りです。

金堂: 本尊を祀る建物で、基壇は東西約21メートル、南北は不明です。基礎は掘込地業によって築かれています。
塔: 釈迦の遺骨（舎利）を納めた七重塔で、金堂の西約55メートルに位置します。基壇は約16メートル四方で、乱石積で造られています。中央には階段が残っています。礎石は、心礎を含めて2個が元の位置に残っています。
中門: 金堂の南約35メートルに位置しています。

主要な伽藍としては、他に講堂、鐘楼、経蔵などの存在が推定されていますが、詳しいことは分かっていません。伊能忠敬の『測量日記』には、文化11年（1814年）時点で伽藍の礎石が3個存在していたと記されています。現在、塔の礎石2個が僧寺跡に、南大門の礎石1個が但馬国分寺の境内に残っているほか、場所が不明な礎石が周辺に伝わっています。

金堂の東側からは回廊を持つ建物が見つかっており、これは全国の国分寺跡で初めての発見です。この建物は「院」と墨書された土器が出土していることから、大衆院跡と推定されています。また、寺域を区画する築地塀や雨落溝の跡も見つかっており、この溝からは36点の木簡が出土しました。寺域内では、4基の井戸が確認されています。そのうち1つは、大規模なもので、井戸の部材であるヒノキの伐採年が763年であることが判明しています。この井戸からは、瓦、土器、釣瓶、鑰、木簡などの多くの出土品が発見されています。

但馬国分尼寺跡

尼寺跡は、僧寺跡の北約1キロメートルの地点に位置すると推定されています。現在は、礎石が2個残るのみで、伽藍の詳しいことは分かっていません。伊能忠敬の『測量日記』には、文化11年（1814年）時点で7個の礎石が存在していたと記されています。現在、尼寺跡には2個の礎石が残り、その他に周辺の法華寺の境内に、場所が不明な礎石が伝わっています。なお、この法華寺は、但馬国分尼寺の後継と伝えられています。

文化財

国の史跡

但馬国分寺跡: 平成2年（1990年）12月26日に指定され、その後、範囲が追加指定されています。

豊岡市指定文化財

薬師如来像（彫刻）: 平安時代の特徴を持つ彫刻で、後世に多くの修理が加えられています。
風鐸（考古資料）: 豊岡市が所有しています。
木簡36点（考古資料）: 豊岡市が所有しています。

現地情報

所在地

現国分寺: 兵庫県豊岡市日高町国分寺734
国分寺跡: 兵庫県豊岡市日高町国分寺
伝国分尼寺跡: 兵庫県豊岡市日高町水上・山本

交通アクセス

鉄道: JR西日本山陰本線江原駅から徒歩約5分

関連施設

但馬国府・国分寺館（豊岡市立歴史博物館）: 但馬国分寺跡からの出土品などを展示しています。

周辺

祢布ヶ森遺跡: 但馬国の後期国府推定地です。
国分寺城跡: 国分寺跡の北方の山上に残る中世山城跡です。

参考文献

史跡説明板（豊岡市教育委員会設置板、旧日高町教育委員会設置板）
『日本歴史地名大系 29-1 兵庫県の地名 I』平凡社、1999年
大庭脩『木簡　古代からのメッセｰジ』、大修館書店、1998年
中世諸国一宮制研究会編『中世諸国一宮制の基礎的研究』岩田書院、2000年
『国府・国分寺の謎を探る -但馬国府・国分寺館 展示図録-』但馬国府・国分寺館、2006年
「但馬国分寺跡」『国指定史跡ガイド』講談社

外部リンク

但馬国分寺跡・国分尼寺 - 公益財団法人たんしん地域振興基金「但馬の百科事典」
但馬国分寺跡 - 国指定文化財等データベース（文化庁）

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