内田一臣

内田一臣：激動の時代を駆け抜けた軍人

内田一臣（うちだ かずとみ、1915年6月8日 - 2001年7月5日）は、大正から平成にかけての激動の時代を生き抜いた、日本の海軍軍人であり、海上自衛官です。海軍兵学校を卒業後、第二次上海事変での武勲、太平洋戦争での経験を経て、戦後は海上自衛隊の創設と発展に尽力しました。第8代海上幕僚長を務め、自衛隊の防衛力整備に大きく貢献した人物です。

若き日の海軍軍人

岡山県出身の内田は、旧制津山中学を経て海軍兵学校に入校。1936年3月に卒業し、海軍少尉候補生として遠洋航海に参加しました。アメリカ各地を巡る中で、国際的な視野を養いました。

1937年8月、軽巡洋艦「川内」乗組みの海軍少尉であった内田は、第二次上海事変に遭遇します。同艦の乗員で急遽編成された臨時陸戦隊の小隊長として、激戦地で指揮を執りました。この際、中華民国陸軍の師団本部を殲滅し、師団長を戦死させるという大きな戦果を挙げ、その功績により金鵄勲章を授与されました。この功績は、若き内田の武勇を示す象徴的な出来事と言えるでしょう。

その後、太平洋戦争では戦艦「大和」乗組員としてミッドウェー海戦に参加。砲術関係の任に就きますが、海戦では砲弾を撃つ機会はなく、横須賀の海軍砲術学校で終戦を迎えます。

戦後の転身と海上自衛隊での活躍

終戦後は復員業務に従事し、一旦は岡山の実家で農業を始めますが、自身には合わないと感じ、新制中学校の英語教師に応募します。採用が決まった矢先、海軍時代の先輩から海上警備隊（海上自衛隊の前身）の採用試験を受けないかと誘われ、再び海での生活を志します。

教師の職を辞し入隊した海上警備隊での最初の配置は、意外にも砲術の教官でした。その後、戦後初の国産潜水艦建造計画、戦後初の国産護衛艦建造計画に参画し、海上自衛隊の装備近代化に大きく貢献しました。

1962年4月からはアメリカ海軍大学校に留学し、国際的な視野と知識を深めました。帰国後は、第3護衛隊群司令、海上幕僚監部防衛部長、護衛艦隊司令官などの要職を歴任し、1969年7月には第8代海上幕僚長に就任します。

海上幕僚長としての重責

海上幕僚長在任中は、第4次防衛力整備計画において、海上自衛隊が要望する水上装備の整備が認められず、当時の防衛庁長官中曽根康弘に対し、その必要性を最後まで説得しました。その結果、次期防衛力整備計画から正式に整備が取り上げられることになり、内田の強い意志と交渉力が示されました。

内田ドクトリンと海上自衛隊の役割

退官後は、防衛研修所戦史部調査員として戦史の編纂・研究に従事し、公刊戦史「大本営海軍部　大東亜戦争開戦経緯」を執筆しました。

内田は、戦後日本における海上自衛隊の役割を深く追求しました。その結果として生まれたのが、「内田ドクトリン」です。これは、日米の役割分担を明確化し、日本が掃海と対潜水艦戦を担い、アメリカが空母打撃群を主体とする攻撃能力を提供し合うという構想です。このドクトリンは、その後の日本の防衛政策に大きな影響を与えました。

その生涯

内田一臣は、軍人としての卓越した能力に加え、自衛隊の幹部として、組織をまとめ、国家の防衛を担いました。彼の生涯は、激動の時代における日本の防衛の歴史そのものと言えるでしょう。2001年7月5日、呼吸不全のため86歳で生涯を閉じましたが、彼の功績は今もなお、日本の防衛政策に大きな影響を与え続けています。

年譜

1932年（昭和7年）4月：海軍兵学校入校
1936年（昭和11年）3月：海軍兵学校卒業（第63期）
1937年（昭和12年）4月：海軍少尉任官、軽巡洋艦「川内」乗組
1937年（昭和12年）8月：第二次上海事変に参加。
1937年（昭和12年）12月1日：駆逐艦「夕暮」乗組
1938年（昭和13年）3月28日：伊号第四潜水艦乗組
1938年（昭和13年）11月5日：呂号第五十八潜水艦乗組
1938年（昭和13年）11月15日：海軍中尉に進級
1939年（昭和14年）5月15日：磐手乗組
1939年（昭和14年）12月18日：戦艦「榛名」分隊長
1940年（昭和15年）11月15日：海軍大尉に進級
1941年（昭和16年）9月1日：呉鎮守府附
1941年（昭和16年）9月5日：戦艦「大和」分隊長
1942年（昭和17年）6月：ミッドウェー海戦に参加
1943年（昭和18年）6月15日：海軍砲術学校高等科学生
1944年（昭和19年）5月1日：海軍少佐に進級
1944年（昭和19年）6月15日：横須賀海軍砲術学校教官兼研究部部員
1944年（昭和19年）8月25日：兼補海軍技術研究所部員
1945年（昭和20年）7月10日：兼補横須賀海軍砲術学校副官横須賀第一警備隊参謀
1945年（昭和20年）8月15日：海軍少佐で終戦を迎える
1945年（昭和20年）9月6日：横須賀鎮守府出仕
1945年（昭和20年）11月1日：予備役に編入
1946年（昭和21年）3月25日：充員召集、第二復員省人事局局員
1947年（昭和22年）11月：公職追放仮指定
1952年（昭和27年）7月：海上警備隊に入隊（3等海上警備正）
1953年（昭和28年）8月16日：2等警備正
1956年（昭和31年）2月：警備艦「けやき」艦長
1957年（昭和32年）8月16日：1等海佐に昇任
1957年（昭和32年）12月16日：海上幕僚監部防衛部防衛課勤務
1959年（昭和34年）1月16日：海上幕僚監部防衛部防衛課業務班長
1960年（昭和35年）1月5日：海上幕僚監部総務部人事課長
1963年（昭和38年）9月10日：第3護衛隊群司令に就任
1964年（昭和39年）7月6日：海将補に昇任
1964年（昭和39年）7月16日：海上幕僚監部調査部長
1966年（昭和41年）1月16日：海上幕僚監部防衛部長
1967年（昭和42年）7月1日：海将に昇任
1968年（昭和43年）1月1日：第7代 護衛艦隊司令官に就任
1969年（昭和44年）7月1日：第8代 海上幕僚長に就任
1972年（昭和47年）3月16日：退官。その後は防衛研修所戦史部調査員として勤務の傍ら、財団法人水交会第7代会長を務める。
1985年（昭和60年）11月3日：勲二等瑞宝章受章
2001年（平成13年）7月5日：呼吸不全のため防衛医科大学校病院で逝去（享年86）、叙・正四位。

栄典

金鵄勲章 - 1937年（昭和12年）
レジオン・オブ・メリット・コマンダー - 1973年（昭和48年）3月
勲二等瑞宝章 - 1985年（昭和60年）11月3日

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