北海道 (令制)

北海道の命名と道路の歴史：松浦武四郎と蝦夷地の変遷

1869年、日本地図に新たな地名が刻まれました。「北海道」です。この名称は、それまでの「蝦夷地」という呼称に代わり、近代日本の行政区画として誕生した北海道を象徴するようになりました。その背景には、戊辰戦争（箱館戦争）の終結と、新たな行政機関である開拓使の設置という歴史的転換期がありました。

北海道という名の誕生：松浦武四郎の貢献

北海道という地名は、開拓使の開拓判官であった松浦武四郎の提言が大きく影響しています。松浦は、蝦夷地探検で培った深い知識と経験を活かし、『北海道々国郡名撰定上書』を提出。この書の中で、従来の「蝦夷地」に代わる新たな名称として複数の案を提示しました。

彼は、律令制下の五畿七道にならって「北海道」という名称を提案しました。これは、東海道、西海道、南海道といった既存の名称を踏襲したものであり、蝦夷地を日本列島の一部として位置付ける重要な一歩となりました。松浦の深い蝦夷地への理解と、歴史的経緯を踏まえた命名は、現在の北海道の礎を築いたと言えるでしょう。彼の号を「北海道人」としたことからも、蝦夷地への強い思い入れがうかがえます。

北海道の範囲と行政区画

北海道の範囲は、北海道本島（江戸時代には蝦夷地、北州、十州島などと呼ばれた）と周辺の島々を含みます。明治維新後、北海道は11国86郡からなる広大な行政区画として組織されました。これは、渡島国、後志国、胆振国、日高国、石狩国、天塩国、北見国、十勝国、釧路国、根室国、そして千島国という、歴史的な背景と地理的特徴を反映した分割です。

江戸時代から明治時代初期の道路：蝦夷地の交通網

江戸時代から明治時代初期にかけての北海道の陸上交通は、主に沿岸部を走る道が中心でした。松前藩による「場所」と呼ばれる知行地の開設や、漁場間の移動のために道が整備されていきました。しかし、内陸部は未開の地が多く、交通は不便でした。

明治維新後、開拓使による大規模な道路建設事業が始まり、状況は一変します。これにより、それまで舟などを利用していた場所にも新たな陸路が開かれ、道内各地への通年の移動が可能となりました。

主要道路と開削の歴史

主要な道路整備の例として、太平洋岸と日本海側のルート、そして道南域内と道央付近、道東域内の道路整備を挙げましょう。

太平洋岸: 函館から道東、千島国に至るルートでは、長万部-虻田間道路、室蘭-幌別間、様似山道と猿留山道、ルベシベツ山道、釧路-厚岸間道路、根室-厚別間道路などが整備されました。これらは、悪天候でも通行可能な道として、交易や行政の効率化に貢献しました。

日本海側: 函館から道央、道北の増毛に至るルートでは、太田山道と狩場山道、雷電嶺、余市山道、小樽-銭函間道路、濃昼山道と増毛山道などが開削されました。特に、雷電嶺や余市山道などは、険しい地形の中を通り抜ける困難な工事であったと記録されています。

道南: 道南域内では、福山-上ノ国間山道、木古内山道、鶉山道（大野越）、軍川新道、黒松内越などの整備により、地域間の交通が大きく改善されました。

道央: 道央では、勇払から千歳を経て石狩湾岸に至るルート、そして札幌越新道（千歳新道）の開削により、札幌を中心とした交通網が構築されました。

道北・天塩留萌: 道北・天塩留萌地方では、雨竜越の開削により、石狩川流域と道北を結ぶ重要なルートが完成しました。

道東: 道東では、釧路国から北見国網走に至る網走越、根室国から北見国斜里に至る斜里越などの開削により、広大な道東地方の交通網が整備されていきました。

これらの道路整備は、北海道の開発と発展に大きく貢献しました。また、それら道路建設には、多くの関係者、そして蝦夷の人々の尽力があったことを忘れてはなりません。

明治時代の道路建設

明治時代に入ると、江戸時代の道路を基盤に、本願寺道路や札幌本道などの大規模な道路建設が行われました。これにより、札幌を中心とした道央地方と道南地方のつながりが強化され、北海道全域の交通網が整備されていきました。

北海道の歴史：古代から近代へ

北海道の歴史は古く、飛鳥時代には阿倍比羅夫による遠征が行われ、その後、和人の定住が始まりました。室町時代には道南十二館時代を経て、江戸時代には松前藩の支配下に置かれ、幕末期には箱館戦争を経て、現在の北海道へと発展していきました。

1869年の北海道（11国86郡）の設置、1870年代の本願寺道路や札幌本道の建設、1871年の廃藩置県に伴う館県の設置と消滅、1882年の開拓使廃止と三県（函館県・札幌県・根室県）設置、そして1886年の北海道庁設置と、明治時代は北海道の行政機構と交通網の整備が大きく進展した時代でした。

1947年には、北海道知事による公選制が導入され、地方自治体としての北海道が確立しました。

このように、北海道の歴史と発展は、その地理的条件や歴史的背景と密接に関連しています。そして、その発展を支えたのは、先人たちのたゆまぬ努力と工夫の結晶です。 現在私たちが暮らす北海道の礎は、数々の困難を乗り越えて築き上げられた歴史の上に成り立っていることを忘れてはならないでしょう。

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