十七歳の地図 (曲)

十七歳の地図（じゅうななさいのちず）

日本のシンガーソングライター、尾崎豊の2枚目のシングルとして、1984年3月21日にCBSソニーからリリースされました。彼のファーストアルバム『十七歳の地図』（1983年）からのリカットシングルであり、作詞・作曲は尾崎自身が手掛け、プロデュースは須藤晃が担当しています。楽曲タイトルは、プロデューサーの須藤が中上健次の小説『十九歳の地図』から着想を得て名付けたものです。

制作背景

この楽曲の誕生には、プロデューサー須藤晃のエピソードが深く関わっています。須藤は、会社からの帰り道、歩道橋の上から夕陽を見て涙が止まらなくなった経験を尾崎に語りました。多忙な仕事や家庭生活の中で、二度と青春に戻れない年齢になったと感じたという彼の言葉に触発され、尾崎はこの曲を制作。完成したデモテープを聴いた須藤は、その出来栄えに強い衝撃を受け、これが尾崎のファーストアルバムの本格的なレコーディングを開始する決定打となりました。

デビューアルバム『十七歳の地図』と先行シングル「15の夜」で世に出た尾崎は、1984年初頭に小規模なシークレットライブを経験。聴衆がわずか数人という状況も経て、3月15日には青山学院高等部を退学したその日に、新宿ルイードで初の単独ライブを開催しました。このライブは定員を大きく超える600人の観客を集め、大成功を収めましたが、尾崎自身は40度近い高熱を押してステージに立っていました。前夜には、自ら通学路の電柱に告知ポスターを貼り、「みんなよくがんばった! 卒業おめでとう!」というメッセージを書き加えたといいます。

楽曲の制作過程

尾崎は1982年のCBSソニーのSDオーディションに合格後、担当となった須藤晃と定期的に面会を重ねていました。須藤は尾崎のデモテープやノートに書かれた歌詞に目を通していましたが、当時の尾崎の詞は人生を達観したかのような大人びたものが多く、須藤が求める17歳の少年らしい「シャープな歌」とは異なっていました。そのため、当初は音楽の話よりも、読書の話や日常会話に留まっていたといいます。須藤は、尾崎がオーディションで演奏した「ダンスホール」の歌詞も大人びていると感じ、尾崎自身の作品ではないとさえ思っていたほどです。

しかし、須藤は中上健次の小説『十九歳の地図』の主人公と尾崎のイメージを重ね合わせ、ファーストアルバムのタイトルを『十七歳の地図』に決定。そして、同名の楽曲制作を尾崎に依頼しました。その際、前述の歩道橋での涙のエピソードを語り聞かせたのです。尾崎は須藤の話を受け止め、「歩道橋に立って夕陽を見ていると、強く生きていかなければと思う。やっていかなければと思う」と応え、サビの歌詞を完成させました。この歌詞を見た須藤は感極まり、「これだよ！この曲だよ」と叫び、本格的なレコーディングへの準備に取り掛かることになります。それまでのデモテープや歌詞カードを取り出し、「じゃ、いよいよやろうよ。どれから始める？」と須藤が問いかけると、尾崎は「えーっ、やっとレコーディングしてくれるんですか」と顔を輝かせたといいます。

1983年8月には、ソニー信濃町スタジオで本作のリズム録りが行われました。編曲は西本明が担当し、これが彼にとって初めての尾崎のレコーディング参加となりました。

音楽性と歌詞

歌詞は、当時青山学院高等部の生徒だった尾崎が、須藤から話を聞いた後、学校帰りに夕日を見に訪れていた渋谷駅前の東邦生命ビルの屋上テラスで街並みを眺めていた時に着想を得たとされています。現在、この屋上テラスには楽曲の一部の歌詞が刻まれた記念碑が設置されています。

この曲の完成に、須藤は改めて尾崎の才能に驚愕しました。それまで自身の経験や知識から尾崎を少し見下していたかもしれないと述懐する須藤は、「十七歳の地図」の歌詞を見たとき、「彼は僕がどんなふうにしてもかなわない何かを持っている」「僕よりももっと鋭いシャープな感性を持っている」と確信し、ひれ伏すような気持ちになったといいます。この楽曲が、須藤にとって尾崎の真の才能を認識するきっかけとなり、「ダンスホール」をはじめとする他の楽曲も全て尾崎自身の作品であると確信するに至りました。編曲の西本明や他の参加ミュージシャンたちも、尾崎の作品、特に「詞がいい」と口を揃えて評価しています。

編曲にあたっては、ブルース・スプリングスティーンの「明日なき暴走」がイメージとして伝えられました。当初はカントリーロックのような曲調であったと須藤は語っており、レコーディング時には尾崎が勢い余って歌い出しを1オクターヴ高いキーで歌い始めたため、サビでキーを下げることになったというエピソードも残っています。

リリースと展開

本作は、ファーストアルバム『十七歳の地図』のロングセールスを狙い、シングルカットとして企画されました。さらに、3月15日の新宿ルイードでの初単独ライブ、そしてその後のライブツアーを後押しする目的も含まれていました。シングルに選ばれたのは、ラジオ放送などを通じてより多くの人々に楽曲を届け、アルバムやライブへの関心を高めるためでした。

シングルバージョンは、アルバムバージョンとは異なるミックスで収録されています。尾崎自身の声によるハーモニーが加えられるなど、当時のラジオ放送に適した、よりポップな雰囲気にアレンジされています。このシングルバージョンは、後のCD-BOX『TEENBEAT BOX』（1995年）内の『RARE TRACKS』で初めてCD化されました。ちなみに、B面曲の「OH MY LITTLE GIRL」は、1994年にテレビドラマのタイアップとして改めてシングルカットされ、ミリオンセラーを記録しています。

ミュージック・ビデオ

本作では、尾崎にとってキャリア初となるミュージック・ビデオ（PV）が制作されました。佐藤輝が監督を務め、蝶や蜂といった昆虫の映像、砂丘に佇む尾崎、そして1984年3月15日の新宿ルイードでのデビューライブのモノクロ映像で構成されています。昆虫の映像撮影では、尾崎の上半身に蜂蜜を塗って虫を貼り付けるという演出がありましたが、虫が苦手だった尾崎は何も言わずに撮影に応じたといいます。また、砂丘での撮影は静岡県の中田島砂丘で行われ、強いアークライトが使用されました。尾崎はライトを直視しないよう注意されていましたが、カメラの位置の関係で光が目に入り、炎症を起こして救急車で運ばれるアクシデントもありましたが、大事には至りませんでした。このPVは、1980年代半ばに増加していた深夜のPV紹介番組で放送される機会が多く、当時のソニー所属アーティストの映像戦略の一端を担いました。このPVは、後にビデオ作品『6 PIECES OF STORY』（1986年）に収録されています。

「十七歳の地図」は、尾崎の生前のライブにおいて、ほぼ欠かさず演奏される定番曲となり、彼の代表曲の一つとして多くのファンに愛され続けています。175Rなど、後年のアーティストによるカバーも生まれています。

収録アルバム

スタジオ音源（アルバムバージョン）:
『十七歳の地図』（1983年）
『13/71 - THE BEST SELECTION|13_71 - THE BEST SELECTION』（2004年）
『SATURDAY 〜ROCK'N'ROLL BEST OF YUTAKA OZAKI』（2008年）
『ALL TIME BEST』（2013年）
スタジオ音源（シングルバージョン）:
『TEENBEAT BOX』（1995年）
『ARTERY & VEIN : THE VERY BEST OF YUTAKA OZAKI』（1999年）
ライブ音源:
シングル「DRIVING ALL NIGHT」B面（「SEVENTEEN'S MAP'85」として、1985年大阪球場）
『LAST TEENAGE APPEARANCE』（1987年、1985年代々木オリンピックプール第一体育館）
『約束の日 Vol.1』（1993年、1991年代々木オリンピックプール第一体育館 ※生前最後のライブ）
『MISSING BOY』（1997年、1985年代々木オリンピックプール第一体育館）
『OSAKA STADIUM on August 25th in 1985 Vol.2』（1998年、1985年大阪球場）
* 『LIVE CORE LIMITED VERSION YUTAKA OZAKI IN TOKYO DOME 1988/9/12』（2013年、1988年東京ドーム）

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