十円硬貨

十円硬貨について

十円硬貨は、日本国政府が発行する額面10円の硬貨であり、「十円玉」「十円貨」「十円貨幣」とも呼ばれます。明治時代には金貨として、戦後には青銅貨として発行されてきました。現在、私たちが日常的に使用しているのは青銅貨の2種類のみです。

概要

十円硬貨は、その歴史の中で、本位貨幣としての金貨2種と、補助貨幣としての青銅貨2種が発行されてきました。

本位貨幣

旧十円金貨

1871年（明治4年）に制定された新貨条例により、貨幣単位が「円」と定められ、金本位制が導入されました。この時、本位貨幣の一つとして十円金貨（旧十円金貨）が定められました。しかし、準備金不足から実質的には銀本位制となりました。その後、日清戦争の賠償金を基に、1897年（明治30年）に貨幣法が施行され、改めて金本位制が確立されました。

新十円金貨

この時、金平価が半減され、新十円金貨が定められました。旧十円金貨は額面の2倍の20円として通用しました。これらの金貨は、無制限に通用する強制通用力が付与されていました。1942年（昭和17年）に日本銀行法で金兌換が廃止されましたが、貨幣法の規定に基づき、10円または20円として通用する金貨として存続し、1988年（昭和63年）に通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律によって失効しました。

臨時補助貨幣

1938年（昭和13年）に制定された臨時通貨法は、銭単位の臨時補助貨幣を規定していましたが、戦後も存続し、インフレに伴い円単位の貨種が追加されました。1950年（昭和25年）の改正で10円の貨種が追加され、十円洋銀貨の発行が準備されました。しかし、朝鮮戦争の影響でニッケルが高騰し、発行は中止されました。

十円青銅貨（ギザ有）

ニッケルの代替として青銅が使用され、1951年（昭和26年）12月から十円青銅貨（ギザ有）の造幣が開始され、1953年（昭和28年）から発行されました。

十円青銅貨（ギザ無）

1959年（昭和34年）からは、縁のギザを無くした十円青銅貨（ギザ無）が発行されています。これらの青銅貨は、臨時通貨法の下で発行されましたが、1988年（昭和63年）4月の通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律施行後は「貨幣」とみなされています。2種類の青銅貨は法定通貨として有効ですが、十円青銅貨（ギザ有）は自動販売機で使用できない場合があります。また、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律に基づき、一度の取引で強制通用力を持つのは20枚（200円）までです。

十円青銅貨の詳細

十円青銅貨は、1951年（昭和26年）から製造され、1953年（昭和28年）から1958年（昭和33年）にかけて発行されたギザ有のものと、1959年（昭和34年）以降に発行されているギザ無しの2種類があります。どちらも法定通貨として有効です。

デザイン

表面には、京都府宇治市にある平等院鳳凰堂が描かれ、「日本国」と「十円」の文字、唐草模様があしらわれています。裏面には「10」と製造年、常盤木がデザインされています。この硬貨の平等院鳳凰堂は、発行当初高額硬貨であったため、偽造防止を目的として、当時検討されていた五十円硬貨のデザインが流用されました。

製造コスト

一円硬貨や五円硬貨と同様に、硬貨に使われる金属の価値は額面よりも低いです。しかし、製造コストは額面以上であり、政府による貨幣発行益が赤字になる硬貨の一つです。

麻袋

造幣局で製造され、日本銀行に納入される際、十円硬貨は1袋に4000枚（金額4万円、正味重量18kg）が詰められます。

歴史

十円青銅貨の仕様の変遷は以下の通りです。

素材: 銅95%、亜鉛4-3%、スズ1-2%の青銅
量目: 4.5g
直径: 23.5mm
図柄: 平等院鳳凰堂、常盤木

これらの仕様は2種類とも同じです。

十円青銅貨（ギザ有）

1953年（昭和28年）1月5日に臨時補助貨幣として発行されました。十円洋銀貨の発行が中止されたため、洋銀の代替として青銅が使用されました。当時、予定されていた50円銀貨のデザインを流用しています。1951年（昭和26年）から1958年（昭和33年）にかけて製造された十円硬貨の縁にはギザがあり、「ギザ十」と呼ばれています。

十円青銅貨（ギザ無）

1959年（昭和34年）2月16日以降に製造されたものは、縁のギザが平滑に変更されました。昭和34年銘、昭和61年銘、昭和64年銘は発行数が少ないですが、昭和34年銘の未使用状態のものを除いて、プレミアが付くほどではありません。2019年（平成31年/令和元年）は元号が変わった年であり、令和元年銘の十円硬貨は、他の通常硬貨と比較して製造枚数が多くなりました。

流通状況

十円硬貨は、日本の自動販売機で使用できる最小額面の硬貨であり、対面取引や自動販売機、公衆電話などで広く利用されてきました。近年でも、五百円硬貨や百円硬貨と並び、安定して製造され続けています。しかし、キャッシュレス決済の発達により、近年では発行枚数が減少傾向にあります。2023年（令和5年）は、過去と比較して大幅に少ない製造枚数となりましたが、他の少額硬貨と比較して、一般流通用の製造が続けられています。

十円金貨

新貨条例の下で発行された旧十円金貨と、貨幣法の下で発行された新十円金貨があり、いずれも本位貨幣でした。1988年（昭和63年）3月末をもって廃止され、現在はいずれも法定通貨としての効力を持ちません。

旧十円金貨

1871年（明治4年）に発行されました。品位は金90%、銅10%。表面には竜図、裏面には菊紋などがデザインされています。直径は発行当初と1876年（明治9年）以降で若干異なり、1880年（明治13年）に製造が終了しました。1897年（明治30年）以降は額面の2倍の20円として通用しました。

新十円金貨

1897年（明治30年）に発行されました。品位は金90%、銅10%。表面には菊紋、裏面には桐紋などがデザインされています。1910年（明治43年）に製造が終了しました。

未発行貨幣・試鋳貨幣

十円洋銀貨

1950年（昭和25年）に製造されましたが、朝鮮戦争によるニッケル価格の高騰のため発行されませんでした。表面には茶の花、裏面には旧字体の「日本國」がデザインされていました。この硬貨は、現存するものが少なく、非常に価値が高いとされています。

その他

他にも、明治2年、3年銘の試作貨幣や、昭和26年銘の試作青銅貨などが存在します。

変遷

十円硬貨の主な変遷は以下の通りです。

1871年（明治4年）：新貨条例制定、旧十円金貨発行開始。
1875年（明治8年）：旧十円金貨の直径を縮小。
1876年（明治9年）：縮小後の旧十円金貨発行開始。
1880年（明治13年）：旧十円金貨製造終了。
1897年（明治30年）：貨幣法制定、新十円金貨発行開始。
1910年（明治43年）：新十円金貨製造終了。
1950年（昭和25年）：臨時通貨法改正、十円洋銀貨制定（不発行）。
1951年（昭和26年）：十円洋銀貨製造終了、十円青銅貨（ギザ有）製造開始。
1953年（昭和28年）：十円青銅貨（ギザ有）発行開始。
1958年（昭和33年）：十円青銅貨（ギザ有）製造終了。
1959年（昭和34年）：十円青銅貨（ギザ無）発行開始。
1988年（昭和63年）：全ての十円金貨の通用停止。

発行枚数推移

十円硬貨の発行枚数は、高度経済成長期に増加しましたが、近年はキャッシュレス決済の普及により減少傾向にあります。2023年（令和5年）は、過去最少に近い発行枚数となりました。

脚注

独立行政法人造幣局 貨幣に関するデータ 年銘別貨幣製造枚数

参考文献

青山礼志『新訂 貨幣手帳・日本コインの歴史と収集ガイド』ボナンザ、1982年。
久光重平『日本貨幣物語』（初版）毎日新聞社、1976年。
石原幸一郎『日本貨幣収集事典』原点社、2003年。
日本貨幣商協同組合 編『日本の貨幣-収集の手引き-』日本貨幣商協同組合、1998年。
大蔵省造幣局 編『造幣局百年史（資料編）』大蔵省造幣局、1971年。

関連項目

貨幣大試験
十円紙幣

外部リンク

現在発行されている銀行券・貨幣 : 日本銀行
* 10yen.htm'>10円青銅貨幣 : 日本銀行

もう一度検索