南河原 (川崎市)

南河原（みなみかわら、みなみがわら）

かつて神奈川県川崎市に存在した大字、南河原。
現在の川崎市幸区の南端に位置し、東海道本線が南東端を通過していました。
多摩川の氾濫原に広がり、外縁部は自然堤防の微高地、その他は低湿地という地形でした。

小字

南河原には、以下のような小字が存在しました。

甲居村耕地: 現在の都町、南幸町の一部。
乙居村耕地: 現在の幸町、中幸町、神明町、河原町の一部。
丁居村耕地: 現在の幸町、中幸町の一部。
戊大宮耕地: 現在の大宮町の大部分と、中幸町、柳町の一部。
庚大宮耕地: 現在の南幸町の一部。
辛荻場耕地: 現在の南幸町、柳町の一部。
壬荻場耕地: 現在の南幸町の一部。
癸居村耕地: 現在の南幸町の一部。

歴史

中世以前の南河原の歴史は明らかではありません。

江戸時代

江戸時代、南河原は天領でした。村高は時代によって変動し、『武蔵田園簿』では478石8斗余り、『元禄郷帳』では644石5斗余り、『天保郷帳』や幕末の『旧高旧領取調帳』では649石余りでした。
『新編武蔵風土記稿』によると、民家は90軒。用水は二ヶ領用水から分流した南河原用水を利用していました。また、1694年以降は川崎宿の定助郷を務め、幕末には御用金の取り立ても行われました。
多摩川の屈曲部に位置するため、水害対策として田中丘隅によって強固な堤防が築かれました。また、女躰神社は、洪水を鎮めるために命を賭した女性の霊を祀っています。

明治以降

明治維新以降、南河原は神奈川県に属し、行政上は南河原村→御幸村→川崎市と変遷しました。明治末期から駅周辺には工場が設置され始めましたが、それ以外は湿田や沼地が広がる農村地帯でした。明治中期以降には、果樹園も作られました。川崎市の成立後、耕地整理によっていくつかの町が分立し、1964年には残った地域も消滅しました。戦後には、湿田や沼地も埋め立てられ、住宅街へと変化しました。

工業化

京浜工業地帯の発展とともに、川崎市も工業化が進みましたが、その先駆けとなったのが南河原でした。

1905年に設立された横浜製糖は、多摩川の水運と川崎駅からの鉄道という交通の便の良さ、地元の有力者である石井泰助が土地を安価で提供したこと、近隣の発電所から電力を確保できたことなど、好条件が揃い、1908年に工場を操業開始しました。横浜製糖は後に明治製糖に吸収されましたが、当地の工場は拡充を続けました。1925年には、系列の明治製菓も隣接地に工場を建設しました。

また、東京電気（後の東芝）も、ゼネラル・エレクトリックとの提携に伴い、工場新設の必要がありました。上記のような好条件に加え、東京電気の経営陣が、大師電気鉄道の設立にも関与していたことから、南河原周辺の事情に詳しかったこともあり、やはり石井泰助が土地を安価で提供し、1908年に工場が操業を開始しました。1911年の多摩川の氾濫で被害を受けましたが、加瀬山の土を盛ることで対策しました。1913年には電球工場が完成し、東京電気の本社も当地に移転しました。

再開発

昭和後期以降、宅地化や工場再配置促進法などの影響で、工場が転出し、跡地は再開発されていきました。

明治製糖の工場は1980年に千葉市に移転し、跡地はかわさきテクノピアとなりました。この再開発に関連して、川崎市助役へリクルートコスモスの未公開株が譲渡されていたことが発覚し、リクルート事件が明るみに出ました。また、隣接する明治製菓の跡地はソリッドスクエアとなり、2000年に閉鎖した東芝堀川町工場の跡地はラゾーナ川崎となりました。さらに、堀川町工場に隣接した柳町事業所も2003年にキヤノンに売却され、同社の川崎事業所となっています。

地名の由来

『新編武蔵風土記稿』では、南河原はもともと河原で、対岸の八幡塚村からの移住者が開墾したため、多摩川の南側にある河原として「南河原」と呼ばれるようになったとされています。

一方で、『川崎誌考』では、戦国期以前は多摩川が南河原の南を通っていたとして、八幡塚の南側にある河原という意味合いだとしています。

沿革

1611年：二ヶ領用水が完成し、当地も潤される。
1694年：川崎宿の定助郷となる。
1868年：明治維新。当地は神奈川県に所属となる。
1874年：大区小区制により、第4大区第5小区に属する。
1889年：町村制施行に伴い、御幸村が成立。南河原はその大字となる。
1908年：横浜製糖、東京電気の工場が操業を開始。
1921年：電灯がともる。
1922年：水道が引かれる。
1923年：関東大震災で被害を受ける。
1924年：御幸村、川崎町、大師町が合併して川崎市を新設。耕地整理により堀川町が分立。
1927年：矢向駅 - 川崎河岸駅間の貨物線が開通。
1928年：一部が神明町、河原町に編入される。
1933年：耕地整理により、幸町、中幸町、南幸町、柳町、大宮町が分立。一部が堀川町に編入される。
1938年：耕地整理により、都町が分立。一部が神明町に編入される。
1964年：土地区画整理事業により、南河原の残部を含む領域に駅前本町が設置され、南河原は消滅。

「南河原」の名を残すもの

行政地名としての南河原は1964年に消滅しましたが、現在でも「南河原」の名を冠する施設が残っています。

川崎市立南河原保育園（河原町）
川崎市立南河原小学校（都町）
川崎市役所こども本部南河原小学校わくわくプラザ（都町）
川崎市立南河原中学校（中幸町）
川崎市南河原郵便局（南幸町）
川崎市立南河原公園・南河原こども文化センター（都町）
川崎南河原銀座商店街（中幸町）
川崎市消防局幸消防署南河原出張所（南幸町）
川崎市役所健康福祉局南河原老人いこいの家（南幸町）

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