古赤道分布

古赤道分布の概念

古赤道分布（こせきどうぶんぷ）は、著名な植物学者前川文夫により提唱された植物分布の考え方です。これは、隔離分布の現象を古代の赤道の位置と関連付けて理解しようとする理論です。

隔離分布について

通常、生物の分布は隣接した地域でまとまっていることが多いですが、まったく異なる地域にまたがる生物も存在します。このような生物の分布を隔離分布と呼びます。古赤道分布は、特に植物における隔離分布の一つであり、その典型的な例がドクウツギです。

ドクウツギの分布

ドクウツギは日本の本州中部から北部にかけて分布する落葉性の低木であり、その果実は甘い一方で毒を含むため特異な名前が付けられました。この植物はドクウツギ科に属し、実は日本にこの科の植物は一種だけしか見られませんが、世界的には約10種が確認されています。ドクウツギは、以下の地域に広がる特徴を持っています。

• - 日本
• - 台湾
• - 中国・ヒマラヤ
• - フィリピン
• - ニューギニア
• - ニュージーランド
• - チリ南部
• - ボリビア・ペルー・エクアドルからメキシコ南部
• - 地中海西部地域

このように、広範囲に分布しつつも空白地域が存在するのが古赤道分布の特徴です。特に、アジア側では赤道の北に、オセアニアからアメリカ側では赤道の南側に偏っている様子が見られます。

古赤道理論の背景

前川文夫は、この生物の分布の特徴を、大圏円として捉えました。その際、西シベリアで発見された新生代の果実化石をドクウツギ科のものであると考え、ヨーロッパとヒマラヤの地域が他の地域とつながっている可能性を示唆しました。彼は、古赤道分布の範囲が地球を囲む大圏円のような形をしていると見立てました。

この理論的な考察により、古赤道の位置が地球の地軸の変化にともなって変わってきたことが理解されます。例えば、白亜紀から第三紀の間の赤道の位置が、植物の分布を形作る重要な要因だったのです。このように、古赤道沿いの環境で生存する植物は、かつての赤道付近に生息していた可能性が考慮されています。

植物の具体的な例

同じような分布の特徴を持つ植物には、アケビ科の植物（東アジアとチリに分布）やウィンテラ科の植物（東南アジアから南アメリカにかけての広範な地域に分布する）なども挙げられます。さらに、アツモリソウ亜科の植物は主に北半球の温帯地域に分布し、熱帯地方には他の三属が存在します。

また、北アメリカ東部から東アジアに共通の植物も多数存在し、例えばモクレン科やヤッコソウなどが見られます。これらの植物が分布する理由としては、過去の暖かい時代の名残であると考えられてきましたが、前川はこれも古赤道分布の一環とみなしています。

前川の進化観

前川文夫は古赤道分布の提唱にとどまらず、赤道周辺が植物の進化にとって重要であると考えました。特に高地では多様な環境が形成され、その環境が新たな植物群の出現を促進する役割を果たしています。彼の視点では、赤道周辺の特殊な環境が染色体の突然変異を引き起こし、植物の進化に寄与しているとされています。

例えばホモキシロンという化石は、被子植物でありながら裸子植物的な特徴も持つため、彼はこの化石を古赤道沿いで発見されたものとして、被子植物の進化の過程において重要であると位置づけました。

結論

古赤道分布は、植物の隔離的な分布を理解するための重要な理論であり、植物たちの生態や進化に関する多くの示唆を与えてくれます。前川文夫の考えは、環境の変化がどのように植物の生き残りや進化を左右したのかを考える上で、重要な視点を与えています。

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