台湾鉄路管理局E1000型電車

台湾鉄路管理局E1000型電車：プッシュプル方式の主力車両

E1000型電車は、台湾鉄路管理局（台鉄）が保有する動力集中方式（プッシュプル方式）の電車です。両端の車両が動力車である点が特徴で、台湾では「推拉式電車」と呼ばれています。本稿では、単に電車と表記します。

この車両は、特急「自強号」として運用されており、プッシュプル方式であることから「PP自強号」とも呼ばれます。

製造メーカーは、動力車と付随車で異なり、南アフリカのユニオン・キャリッジ・アンド・ワゴン（UCW）が動力車64両を、韓国の現代精工（現：現代ロテム）が付随車336両を製造しました。さらに、内装デザインが異なる中間車45両を、唐栄鉄工廠（現：唐栄鉄工廠の子会社である台湾車輌）が製造し、総両数は445両に達しています。これは、単一車種としては台鉄史上最多の形式です。

導入と初期の活躍

1996年、E1000型電車は台湾に初めて導入され、その流線形の外観は、当時の動力分散方式の自強号とは大きく異なり、多くの鉄道ファンの注目を集めました。数か月にわたる集中試運転の後、同年の中秋節休暇には、台北高雄直通列車として運用を開始しました。また、その知名度を高めるために、運行開始後に発行された時刻表の表紙にも何度も登場し、市民の関心を集めました。

編成数が揃うと、台鉄は多くの自強号をE1000型での運行に切り替え、さらに、自強号の増発に対応するため、停車駅の少ない莒光号を自強号に格上げしました。しかし、初期には、運用車両への不慣れや、莒光号格上げ列車のスピードアップが図られなかったため、所要時間が長く、不評を買うこともありました。1996年3月24日のダイヤ改正で、自強号の大増発とダイヤ見直しが行われ、E1000型は自強号の主力車両としての地位を確立しました。

2000年5月3日、宜蘭線電化の完成に伴い、初めて羅東まで入線し、一部のディーゼルカー自強号を置き換えました。この改正で、初めて“PP速”が開始され、良好な条件で最高の能力を発揮できるようになりました。台鉄は、4本の自強号で最高速度130km/hでの運行に挑戦し、台北～高雄間の所要時間を再び4時間以内に短縮しました。2004年9月時点では、最速列車が途中、台中、彰化、台南に停車し、3時間59分で結び、途中、嘉義では同種別の自強号を追い抜いていました。しかし、台湾高速鉄道の開業後は、停車駅が多くなり、現在は一部の列車を除き、4時間50分～5時間程度の所要時間となっています。

運用範囲の拡大と現状

2003年7月4日の北廻線全線電化完成により、電化区間は花蓮まで延長され、さらに2014年6月の台東線電化完成などにより、E1000型の運用範囲は徐々に拡大し、北は基隆から南は潮州、東は台東まで足跡を残しています。南廻線の電化後は、台湾鉄路の主要3路線すべてで運用されていますが、東部幹線では太魯閣号、普悠馬号、ディーゼル車による自強号が主力であるため、本系列は西部幹線での運用が多くなっています。特に、台北－高雄間直通の自強号は、普悠瑪号で運行される南港 - 潮州間運行の最速達列車2往復を除いて、すべてE1000型の運用となっています。

現在、本系列は最大32編成（2両1組のE1000機関車が64両）を編成することができます。西部幹線を中心に運行されており、東部幹線は動力分散式の自強号が主に運行されています。他の3編成は保守・修理用で、1編成は救援車として彰化駅に配置されています。

また、老朽化したEMU300やEMU1200の状態が不安定なため、故障やメンテナンス時に本系列で代走することが多くなっています。以前は代走専用の9両編成や10両編成を組成していましたが、現在は全て定期列車と同じ12両編成となっています。

車両の構成と変遷

E1000型の最大編成は2両の機関車を含めて15両編成ですが、初運用時は11両で、後に12両に変更されました。2002年には6号車に食堂車が組み込まれ、13両編成となりました。食堂車の運営は新東陽が競争入札で応札しましたが、多額の損失を出し、契約は解除されました。しばらく食堂車はそのままになっていましたが、PPD2500型食堂車は入場、改装され、食堂設備が撤去され、貨物室が設けられました。その後、速達郵便車として13号車に連結されました。日本の新幹線便に相当するサービスでしたが、当局が積極的ではなかったため、あまり普及しませんでした。その後、貨物室はさらに2両が自転車積込用車両に転用され、後には再びラックを外し、一部の車両にはシートベルトを付けて障害者用車両としても使用されました。2017年には、PPD2500の20両を親子車に改造し、形式をPPDからPPPに変更しました。

抱える問題点と今後の展望

設計上の問題から、発車時に客車内でもわかるほどの大きな衝撃があり、高速走行時に共振現象を起こしていました。しかし、台鉄機務処が解決策を講じたため、高速時の振動問題はあまり見られなくなっています。

2004年頃から、設計上の問題から故障が頻発し、途中で走行不能になったり、大幅な遅延が発生したりするなど、台鉄は多くの非難を浴びました。運用本数を減らすため、当局は2005年8月からE1000型を4本の定期列車と休日の増発列車から外し、車両の状況が良くない編成には後補機をつけるなどの対策をとりました。

監察院審計部の調査によって、台鉄のE1000型の契約管理上で多くの問題があることが判明しました。現代精工が事業統合でロテムを経て現代ロテムとなった際に、台鉄が必要な措置を取らなかったこと、また補償期間が過ぎた後、補修用部品の製造が止められて、多額の損失を被ったことが明らかになりました。ロテム側は早期に台湾を離れ、関係各社も補償には積極的でなかったため、故障が頻発するようになってようやく問題が発覚しました。主電動機に重大な瑕疵があるというのが故障原因として多く、予備部品がないため、補修も困難となっています。

現在、台鉄の主力車両であるE1000型、EMU500型、EMU600型はすべて旧現代精工→ロテム製であるため、メーカーの補修部門が撤退した今、主力車の将来に不安が出ています。これを受けて、当時の交通部部長である林陵三は、韓国メーカーの入札資格を停止しました。これに対して、韓国政府が調停に乗り出しましたが、和解には至りませんでした。

その後、2006年末からTEMU1000型を導入し、運用が開始されたため、運行車両の数が確保され、再度運用本数が増やされました。

台湾がWTOに加盟し、2012年以降にGPA（政府調達協定）が発効したことから、政府調達による大型入札案件については、韓国勢の入札参加が事実上解禁されることになりました。EMU900型入札公示前に和解が成立し、2018年、現代ロテムはEMU600型以来となるEMU900型520両を受注し、台湾市場に再進出することになりました。

2019年1月、台鉄は日立製作所と本形式の後継車両となるEMU3000型電車を契約したと発表しました。台鉄初となる12両固定編成で、本形式を上回る台鉄史上最大となる50組600両を導入する予定です。

その他

台湾では、E1000型のことをPP車（プッシュプル車の意）と呼んでいますが、その個性的な顔立ちから、土虱（ナマズ）、猪車（豚車）、PP猪など、いくつかの愛称で呼ばれています。

2016年10月からは、1編成が友好鉄道協定を結んでいる東武鉄道の特急車100系「日光詣スペーシア」の塗装に変更され、2016年10月3日から2017年4月17日まで運行されました。

性能諸元

電動車
型式：E1000型
メーカー：UCW（Union Carriage & Wagon Co. (Pty) Ltd，）
電装品：GECアルストム
製造年：1995年
生産数：64両（E1001～E1064）
最高時速：130km/h
動輪配置：Bo-Bo
牽引力：16,735kgw

付随車
メーカー：現代精工
製造年:1995年
PPT1000型：一般客室車200両（PPT1001～PPT1200）
PPH1300型：含優先席車68輛（PPH1301～PPH1368）
PPC1400型：含車掌室車68輛（PPC1401～PPC1468）

増備車
メーカー：唐栄鉄工廠（→台湾車輛）
製造年：2002年
PPT2000型：一般客室車13両（PPT2001～PPT2013）
PPD2500型：食堂合造車32両（PPD2501～PPD2532）後に郵便合造車に改造，親子車に部分改造

改造車
PPP2500型:親子車20両(PPP2501～2520)に改造によってPPD造車

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