向島百花園

向島百花園：江戸情緒と四季の花々が彩る庭園

向島百花園は、東京都墨田区東向島に位置する都立庭園で、江戸時代に造られた花園を起源としています。早春の梅、秋の萩など、四季折々の草花が楽しめる場所として、多くの人々に親しまれています。隅田川七福神の発祥の地の一つでもあり、歴史的にも文化的にも重要な場所です。

歴史

向島の地

かつて、この地は隅田川の東岸に位置し、「向島」と呼ばれていました。江戸城から見て川向かいにあったことがその名の由来とされています。この地域には、「牛島」「寺島」「洲崎」「請地」「柳島」など、歴史の古い地名が残っています。

多賀屋敷

向島百花園の土地は、江戸時代には武蔵国葛飾郡寺島村に属していました。この地は、幕臣多賀氏の所領で、「多賀屋敷」と呼ばれていました。多賀氏は、近江国多賀荘を領していた京極家の一族で、徳川秀忠の旗本として活躍しました。多賀屋敷は、裕福な旗本が自費で買い取った私有地でした。

梅屋敷

文化年間（1804年 - 1818年）に入ると、佐原鞠塢（さはらきくう）という人物が、多賀氏の屋敷跡に一町歩の土地を入手し、造園を始めました。佐原鞠塢は、仙台出身の骨董商で、文化人としても知られていました。この地には、梅の木が多く植えられ、「梅屋敷」と呼ばれていました。梅屋敷は、文人や町民から多くの梅の木が寄贈され、美しい梅林として知られるようになりました。

百花園へ

その後、梅屋敷は、詩歌にゆかりのある草本類が多数栽培されるようになり、四季を通じて花を楽しめるようになりました。その結果、1809年頃から「百花園」と呼ばれるようになりました。百花園は、文人墨客のサロンとして利用され、多くの文化人や将軍も訪れました。

明治以降

明治時代に入ると、百花園は民営の公園として歴史を重ねました。明治末期には、周辺地域の近代化や度重なる洪水により、園地が荒廃しました。しかし、大正13年には「史跡名勝」の標識を得て、昭和8年には国の「名勝」に指定されました。その後、所有者の寄贈により、百花園は東京市に譲渡され、公営の公園となりました。

昭和20年の東京大空襲により、百花園は全焼し、建物や植物が失われましたが、地元有志によって復旧活動が行われ、昭和24年に再開園を果たしました。そして、昭和53年に再び国の史跡および名勝に指定され、保護措置がとられました。

主な見どころ

向島百花園には、様々な見どころがあります。

花の棚: 4月上旬頃にはミツバアケビやクズ、5月上旬にはフジの花が楽しめます。
つる物棚: 7月頃に開花し、8・9月にはヒョウタン、ヘチマ、ヘビウリなどが棚に実ります。
池と水辺の花: ハナショウブやハンゲショウなど、水辺ならではの花が楽しめます。
野鳥・昆虫: ウグイス、シジュウカラ、メジロなどの野鳥が訪れ、スズムシ、コオロギ、マツムシなどの音色も楽しめます。
萩のトンネル: 9月下旬には、ハギがトンネルのように仕立てられます。
春の七草・献上七草籠: 江戸時代より続く春の七草を植えた竹籠が楽しめます。
文人達の足跡: 園内には、文人たちの扁額や句碑が点在しています。
碑: 園内には多くの句碑や石柱があり、文人墨客たちの足跡をたどれます。

利用情報

開園時間: 午前9時～午後5時（入園は午後4時30分まで）
休園日: 年末年始（12月29日～1月3日）
入園料: 一般 150円（団体120円）、65歳以上 70円（団体50円）、小学生以下無料、中学生（都内在住・在学）無料、身体不自由者 無料
無料公開日: みどりの日（5月4日）、都民の日（10月1日）
無料庭園ガイド: 土・日曜日（午前11時、午後2時）

年中行事

向島百花園では、四季折々の行事が開催されています。

1月: 七草籠、隅田川七福神めぐり
2月・3月: 梅まつり
7月・8月: 大輪朝顔展
8月: 虫ききの会
9月: 萩まつり、月見の会（中秋の名月頃）
12月: 春の七草籠

花暦

季節ごとに様々な花が咲き誇ります。

1月: スイセン
2月: スイセン、フクジュソウ、ウメ
3月: スイセン、ウメ、キブシ、ミツマタ、カタクリ、サクラ、イカリソウ
4月: ミツマタ、カタクリ、サクラ、イカリソウ、ヒトリシズカ、アヤメ、フジ、エビネ
5月: アヤメ、フジ、エビネ、コンニャク
6月: ホタルブクロ、ハナショウブ、アジサイ
7月: ハンゲショウ、ミソハギ、トウゴウギク、ミヤギノハギ、ナデシコ、キキョウ、オミナエシ
8月: トウゴウギク、ホオズキ、ミヤギノハギ、ナデシコ、キキョウ、オミナエシ、ナンバンギセル、キンミズヒキ
9月: トウゴウギク、ミヤギノハギ、ナデシコ、キキョウ、オミナエシ、ナンバンギセル、キンミズヒキ、ワレモコウ、ゲンノショウコ、ホトトギス、サクラタデ、ヒガンバナ
10月: カラタチバナ、ナデシコ、キキョウ、オミナエシ、キンミズヒキ、ワレモコウ、ゲンノショウコ、ホトトギス、サクラタデ、ヒガンバナ
11月: カラタチバナ、モミジ、ナデシコ、キキョウ、オミナエシ
12月: カラタチバナ、モミジ

交通案内

鉄道: 東武伊勢崎線（東武スカイツリーライン） 東向島駅より徒歩約8分、京成押上線 京成曳舟駅より徒歩約13分
路線バス: 都営バス亀戸⇔日暮里（里22） 百花園前より徒歩約3分
駐車場: 無し

参考文献

清水晴風『東京名物百人一首』清水晴風、1907年
山本純美・東京にふる里をつくる会『墨田区の歴史』名著出版、1978年
前島康彦『向島百花園』（初版）郷学舎、1981年
東京都墨田区広報室『史跡あちこち』（第6版）東京都墨田区広報室、1982年
前島康彦『向島百花園』（改訂版）東京都公園協会、1994年
財団法人東京都公園協会『江戸の花屋敷 百花園学入門』財団法人東京都公園協会、2008年


向島百花園は、江戸時代の花園の面影を残す貴重な庭園です。歴史と文化、そして四季折々の自然を心ゆくまでお楽しみください。

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