呉線

呉線：瀬戸内海を彩るローカル線の旅

呉線は、広島県三原市の三原駅から安芸郡海田町の海田市駅を結ぶ、西日本旅客鉄道（JR西日本）の幹線鉄道路線です。この路線は、瀬戸内海に沿って走り、美しい海岸線の風景を楽しむことができることから、「瀬戸内さざなみ線」という愛称でも親しまれています。ただし、旅客案内では「呉線」として統一されています。

概要

呉線は、かつて東洋一の軍港として栄えた呉市を経由し、瀬戸内海沿いを走る路線です。運行系統としては、西部の列車はすべて広島駅まで乗り入れており、沿線地域と広島市を結ぶ重要な役割を担っています。かつては、内陸を走る山陽本線のバイパス路線としての役割も果たしていました。山陽本線には「瀬野八」と呼ばれる急勾配区間があり、呉線はその迂回路として利用されてきたのです。しかし、山陽新[[幹線]]の開業により優等列車の運行が減少し、沿線の都市化が進んだことから、現在では通勤・通学輸送が中心となっています。

全線が単線であるものの、輸送量は多く、沿線には開業当時から存在する行き違い可能な駅が多数あります。特に、主要駅である呉駅は、JR西日本の単線区間の中で最も乗降人員が多い駅として知られています。

戦前・戦中には、沿線に軍事施設が多かったため、要塞地帯に指定されていました。そのため、車窓から景色が見えないように目隠しが設けられたり、列車内の窓を閉めるように指示されたりした時代もありました。一方で、要人輸送の需要も高く、戦時下の二等車連結廃止措置の中でも、呉線内では連結が認められていたという歴史もあります。

広駅 - 海田市駅間は、「広島シティネットワーク」の一部として、広島市近郊の路線としての役割を担っています。一方、三原駅 - 広駅間は「瀬戸内さざなみ線」の愛称を持ち、観光路線としての側面も持っています。特に、安芸幸崎駅 - 忠海駅間では、瀬戸内海の美しい景色を車窓から一望することができます。

特徴的な運行

歴史的な経緯から、呉線は山陽本線との間に経路特定区間が設定されています。三原駅 - 海田市駅間を呉線経由で乗車した場合（87.0km）の運賃・料金は、山陽本線経由（65.0km）で計算されます。また、片道101km以上の乗車券であれば、どちらの経路でも途中下車が可能です。

1978年以降、呉線を経由する優等列車は姿を消しましたが、山陽本線が事故や工事で不通になった際には、寝台列車が迂回して呉線を通ったことがあります。また、現在でも一部の団体臨時列車（主に「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」）が呉線を経由することがあります。

かつては、優等列車だけでなく、荷物列車や貨物列車の一部も呉線を経由していましたが、行き違い設備の有効長の問題や、全線単線であることから多くの列車を設定することができず、現在はすべて廃止されています。

呉線は全線が広島支社の管轄であり、IC乗車カード「ICOCA」が利用可能です。2014年には、広島駅を起点とした呉線の運転系統として、広島駅 - 広駅間で黄色のラインカラーと路線記号「Y」が導入されました。これは、瀬戸内海沿いを走る路線を、水面に反射する太陽光のイメージで表現したものです。ラインカラーと路線記号は、仁方駅以東の呉線全区間に適用されています。

また、呉線には日本で一番短いトンネルである川尻トンネル（全長8.7メートル）があります。

広駅 - 広島駅間の2019年度のラッシュ時の混雑率は87%となっており、通勤・通学時間帯には多くの利用客で賑わいます。

路線データ

管轄（事業種別）: 西日本旅客鉄道（第一種鉄道事業者）
路線距離（営業キロ）: 87.0km
軌間: 1067mm
規格: 甲線
駅数: 28（起終点駅含む。呉線所属駅のみに限定すると26駅）
複線区間: なし（全線単線）
電化区間: 全線（直流1500V）
閉塞方式: 単線自動閉塞式
保安装置:
三原駅 - 広駅間：ATS-SW
広駅 - 海田市駅間：D-TAS及びATS-SW
最高速度: 95km/h
* 運転指令所: 中国総合指令所広島指令所

運行形態

1935年の全線開通以来、戦中・戦後の一時期を除き、1978年まで山陽本線の優等列車の一部や、1986年まで荷物列車の一部が呉線を経由していましたが、現在では快速・普通列車のみが運転されています。

2003年10月1日からは、三原駅 - 広駅間のほぼすべての列車でワンマン運転が開始されたため、広駅で運転系統が分かれています。朝夕には広駅で列車番号を変えて直通する列車も運行されています。運行区間としては、糸崎駅・三原駅 - 広駅間、広駅 - 広島駅・岩国駅・あき亀山駅間が多くなっています。

呉駅 - 広島駅間には、快速「安芸路ライナー」および「通勤ライナー」が設定されています。2019年のダイヤ改正以降、ワンマン列車でもすべての駅で全てのドアから乗降できるようになっています。

海田市駅側では、すべての列車が山陽本線の広島駅に直通し、一部の列車は広島駅を越えて山陽本線で徳山駅まで、可部線であき亀山駅まで乗り入れています。

山陽本線の広島駅方面については、JR発足後も長らく下関駅まで乗り入れていましたが、227系の運行が開始された2015年3月14日以降は山口県内の乗り入れ区間が大幅に短縮されました。2015年3月13日までは広駅 - 下関駅間の直通列車が1日1往復運転されていましたが、翌14日のダイヤ改正で岩国駅で系統分割されたため、呉線から下関駅までの乗り入れはなくなりました。現在、呉線からの最長乗り入れ区間は徳山駅までとなっています。2022年3月12日改正以降は大半の列車が広島シティネットワーク西端の岩国駅までの乗り入れとなっています。岩国以西と直通するのは平日夕方の快速「安芸路ライナー」広発南岩国行き1本、平日朝の広発由宇行き1本、および全日朝の徳山駅発広行きのみとなっています。

快速「安芸路ライナー」「通勤ライナー」

広駅 - 広島駅間では、快速「安芸路ライナー」と「通勤ライナー」が運行されています。これらの列車は、普通列車と比較して15 - 20分程度所要時間が短縮されています。車両は227系が使用されています。「安芸路ライナー」は1999年から運行されていますが、当初は広島支社発行の時刻表のみに列車名が記載されていました。2004年には、朝夕に運行される停車駅の少ない列車が「通勤ライナー」として分離されました。

普通列車

三原駅 - 広駅間では、ほぼ終日にわたり1時間に1本の運転頻度で、朝や夕夜間には安浦駅発着の列車も運行されています。すべての列車がワンマン運転で、車両は227系が使用されています。広駅 - 広島駅間では、日中に1時間に1-2本の運転頻度で運行されています。

臨時列車

瀬戸内マリンビュー

2005年には、広島県の観光キャンペーンに合わせて、快速「瀬戸内おさんぽ号」が運転されました。その後、キハ47形気動車を改造した車両を使用した観光列車「瀬戸内マリンビュー」が運行を開始しました。この列車は、2012年にNHK大河ドラマ「平清盛」の放送に合わせて「清盛マリンビュー」として運転された期間もありましたが、その後「瀬戸内マリンビュー」に戻りました。

2019年7月には、新たな観光列車の運行開始が発表され、「瀬戸内マリンビュー」は2019年10月から12月のプレキャンペーン期間を最後に運転を終了しました。



etSETOra

「瀬戸内マリンビュー」の車両を改造した観光列車「etSETOra（エトセトラ）」は、2020年10月3日から運行を開始しました。当初は、広島発尾道行きの往路のみ呉線を経由していましたが、2021年10月2日からは復路も呉線経由に変更されました。

「etSETOra」では、瀬戸内の特産品を使ったスイーツやドリンク、アルコールなどが提供されています。

使用車両

現在、定期列車はすべて下関総合車両所広島支所に所属する電車で運転されています。主な使用車両は227系です。2両から6両編成で運行されており、快速「安芸路ライナー」は3両または4両編成で運転されています。日中の快速「安芸路ライナー」と三原駅 - 広駅間の一部普通列車を除き、ワンマン運転が行われています。

歴史

呉線の歴史は、呉鎮守府の設置と深く関わっています。1890年に呉鎮守府が設置されたものの、陸上交通の便が悪かったため、地元では鉄道の開設運動が始まりました。1903年には海田市駅 - 呉駅間が開業し、その後、三原駅方面への延伸が進められました。

1935年には全線が開通し、呉は軍港としての重要性を増し、東京直通の急行列車も運転されるようになりました。呉線は、かつては山陽本線のバイパスとしての役割も担っていましたが、現在は地域住民の通勤・通学路線として重要な役割を果たしています。

輸送改善

呉線では、過去に複線化の計画がありましたが、戦況悪化などにより中断されました。その後、沿線住民などからの要望を受けて、複線化に向けた調査が行われましたが、多額の費用が必要なため、早期の着工は難しい状況です。現在では、行き違い設備の増設などによって、輸送能力の改善が図られています。

まとめ

呉線は、瀬戸内海の美しい風景を楽しみながら、歴史的な背景を感じることができる路線です。通勤・通学の足としてだけでなく、観光路線としての魅力も持っています。ぜひ、呉線に乗って、瀬戸内の魅力を満喫してください。

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