善光寺七名所

善光寺七名所とは

善光寺七名所（ぜんこうじななめいしょ）または善光寺四十九名所（ぜんこうじしじゅうくめいしょ）は、善光寺の周辺にある寺院、神社、池、清水、小路、橋、塚の7種類それぞれに7つ、計49か所の名所から構成される名所群です。

江戸時代中期にその原型が見られ、後期には現在の49か所にまとめられました。しかし、どの名所を選ぶかは文献によって異なり、必ずしも一致していません。

善光寺七名所の成立

善光寺七名所は、江戸時代初期から後期にかけて徐々に形成されたと考えられています。

初めて文献に登場するのは1667年（寛文7年）の『善光寺浮石子 方尺集全』で、阿闍梨池と独寝橋がそれぞれ七池と七橋の一つとして記述されています。この書物には他にも50の名所が挙げられていますが、七名所については七池と七橋しか触れられていません。

次に1764年（明和2年）頃に成立したとされる『善光寺伝記』では、七寺・七社・七池・七清水・七小路・七橋・七塚がすべて揃っています。ただし、『善光寺伝記』は写本のみが現存し、原本は存在しないため、記述が後世に付け加えられた可能性も指摘されています。

1840年（天保11年）の『芋井三宝記』には七寺のみが言及されており、1849年（嘉永2年）の『善光寺道名所図会』には七寺と七小路を除く5種類の七名所が紹介されています。

49の名所がすべて揃ったことが明記されているのは、1860年（万延元年）に完成した『科野佐々礼石』です。

また、長野郷土史研究会会員の山田藤三郎は、江戸時代中期に大勧進住職の等順大僧都が49の名所を選びまとめたという説を紹介しています。等順が住職を務めたのは江戸時代後期であるため、年代に矛盾がありますが、七名所が江戸時代中期から後期にかけて作られたという歴史的事実には合致する説です。

複数の書籍で、兜率天にちなんで49か所になったとされています。さらに、2018年には小林一郎と小林玲子が、善光寺に弥勒菩薩像が祀られていることから、過去に弥勒信仰があり、兜率天にちなんで49の霊地が指定されたとする説を唱えています。これは、現在のような名所ではなく、本来は霊地であったという点で従来の説と異なりますが、まだ一般的には認められていません。

善光寺七名所の一覧

文献によって挙げられる49か所に多少の差異がありますが、ここでは善光寺七名所に挙げられるすべての名所を網羅して紹介します。

七寺（七院）

阿弥陀院宗光寺（あみだいんしゅうこうじ）：浄土宗の廃寺。大本願住職の隠居寺でしたが、善光寺地震で焼失。
光明院妙観寺（こうみょういんみょうかんじ）：宗派不明の廃寺。1683年の『善光寺境内図』に記述。
本願寺長野別院（ほんがんじながのべついん）：浄土真宗本願寺派。1191年創建とされ、1626年に現在地へ移転。
往生院（おうじょういん）：浄土宗。1199年に法然上人が草庵を結んだのが始まり。
時丸寺（じがんじ）：曹洞宗。伝説では大和国の三輪時丸が開基、1871年に現在の寺号に。
十念寺（じゅうねんじ）：浄土宗。1195年または1197年創建と伝わる。
正覚院（しょうがくいん）：真言宗智山派。859年に天台宗として開山、1615年に真言宗に改宗。
無常院（むじょういん）：浄土宗。1048年天台宗として開山、1574年に再建。
明行寺（みょうぎょうじ）：浄土真宗大谷派。1573年開基、1902年に中興。

七社（七宮、七林）

湯福神社（ゆぶくじんじゃ）：健御名方命の荒魂命を祀る。創建年不詳。
武井神社（たけいじんじゃ）：健御名方命を主神に祀る。1807年に改称。
妻科神社（つましなじんじゃ）：八坂刀売命を主神に祀る。1764年に改称。
美和神社（みわじんじゃ）：大物主命を主神に祀る。1774年に改称。
加茂神社（かもじんじゃ）：玉依比売命を祀る。1880年に改称。
木留神社（きとめじんじゃ）：健御名方命を主神に祀る。1878年に改称。善光寺の真南に位置。
柳原神社（やなぎはらじんじゃ）：健御名方命などを祀る。1818年に改称。

湯福神社、武井神社、妻科神社は善光寺三鎮守と呼ばれます。

七池

阿闍梨池（あじゃりいけ）：善光寺院坊本覚寺境内にある。竜となって現れたという伝説が残る。
花池（はないけ）：善光寺院坊世尊院境内にある。閼伽の水として如来前に供えられたとされる。
無方池（なきかたいけ）：西方寺の門の南側にある。無刀ヶ池、長刀池とも呼ばれる。
有方池（ありかたいけ）：白山神社の境内にあったとされるが、現在場所が特定されていない。
来間池（くるまいけ）：桜枝町にある。現在は防火用水に使われている。
鶴ノ目池（つるのめいけ）：西後町の十念寺境内にそれと伝えるものがあるが、推測。
狐ヶ池（きつねがいけ）：狐池の諏訪神社にある。
鏡池（かがみいけ）：往生寺の裏山にあったとされるが、柳清水と同一視されることもある。
箱池（はこいけ）：西長野町の西光寺にあるとされるが、夏目清水と同一と思われる。

七清水

箱清水（はこしみず）：箱清水にあり、地名の由来。
鳴子清水（なるこしみず）：諏訪町にあったが、現在は銭湯に取り込まれ現存しない。
一盃清水（いっぱいしみず）：花岡平にあったが現在は枯れている。弘法大師や上杉謙信に由来。
瓜割清水（うりわりしみず）：新諏訪町にある。瓜が割れるほど冷たい水。
傾城清水（けいせいしみず）：上松にある。遊女が疲れを癒したとされる。
柳清水（やなぎしみず）：往生寺裏手にある。鏡池と同一視されることもある。
夏目清水（なつめしみず）：西長野の西光寺にある。光明水とも呼ばれる。
夏清水（なつしみず）：問御所町にあったが、現在所在不明。
垢清水（あかしみず）：東之門町にあったとされるが、詳細不明。

七小路

羅漢小路（らかんこうじ）：大本願西の通り。
桜小路（さくらこうじ）：羅漢小路の延長線上にある、昔の戸隠道。
法然小路（ほうねんこうじ）：大本願の東にある南北の通り。
上堀小路（かんぼりこうじ）：長野中央通りの東側から延びる東西の小路。
下堀小路（しもぼりこうじ）：上堀小路の南側。現在は消滅。
花屋小路（はなやこうじ）：長野中央通りの西側から延びる東西の小路。
馬小路（うまこうじ）：花屋小路の西の延長線上にある小路。
虎小路（とらこうじ）：武井神社の西側にある南北の小路。

七橋

駒返り橋（こまかえりばし）：善光寺参道にある石橋。
地獄橋（じごくばし）：西後町南にあった。現在は暗梁。
淀ヶ橋（よどがばし）：新町にあった。現在は暗梁。
花合橋（けあいばし）：大門町にある。現在は暗梁。
鶴賀橋（つるがばし）：新田町南にあった。現在は暗梁。
独寝橋（ひとりねばし）：妻科にあった。現在は暗梁。
積善橋（せきぜんばし）：長野駅東口付近にあった。現在は暗梁。
筋違橋（すじちがいばし）：虎小路の中程にある。
応田橋（おうだばし）：三輪八丁目にある。
阿みだ橋（あみだばし）：JR長野駅構内にあった。

帰り橋、独寝橋、馬詰橋は善光寺三忌橋と呼ばれています。

七塚

佐藤兄弟塚（さとうきょうだいづか）：善光寺山門西側にある供養塔。
柏崎塚（かしわざきづか）：新町にあったとされるが、現在は地蔵庵に石塔が残るのみ。
虎ヶ塚（とらがづか）：虎小路の中程にある。虎御前の墓とも。
刈萱塚（かるかやづか）：往生寺境内にある。刈萱同心の墓。
姫塚（ひめづか）：信州大学工学部の北西にある。熊谷直実の娘の墓と伝わる。
時丸塚（ときまるづか）：圓通寺内にある。時丸寺の開基、時丸の塚。
行人塚（ぎょうにんづか）：木留神社境内にあるものと、小山印刷所裏手のものがある。
盲人塚（めくらづか）：合同庁舎敷地内にあったが、現在は現存せず。
* 源太塚（げんたづか）：長野駅構内にあったが、現在は祠が移されている。

まとめ

善光寺七名所は、江戸時代に形成された歴史ある名所群です。それぞれの名所には、様々な歴史や伝説が残されており、善光寺を訪れる際には、これらの名所を巡るのも良いでしょう。

各名所の詳細については、関連する記事を参照してください。

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