国字標準字体

国字標準字体とは

国字標準字体は、中華民国教育部が1982年に頒布した「常用国字標準字体表」と「次常用国字標準字体表」によって規定された、繁体字中国語の標準字体です。1998年の改定を経て現在に至ります。台湾では、公文書や国民中学・国民小学の教科書など、公式な文書や教育の場で用いられる規範となっています。

歴史

教育部は漢字の標準化を目指し、1973年に漢字整理作業を開始しました。1982年には「常用国字標準字体表」（4808字）と「次常用国字標準字体表」（6341字）を公布。その後、1998年まで数度の部分的な修正が行われました。1995年には「常用国字標準字体筆順手冊」が刊行され、漢字の標準的な筆順が定められました。

教育現場だけでなく、印刷業界や情報処理業界への普及も図るため、「常用」と「次常用」に含まれる漢字について、楷書、明朝体、ゴシック体、隷書の4書体の標準字体に則ったデザインを示す「国字標準字体母稿」が制作されました。1991年には、教育部はダイナラブ（現ダイナコムウェア）に4書体の制作を委託しました。

使用状況

現在、新聞では「国語日報」が国字標準字体を用いて印刷しています。「中国時報」では、見出しを除く本文書体でのみ国字標準字体が使用されています。かつては「聯合報」も国字標準字体を採用していましたが、2003年の紙面リニューアルに伴い、標準字体に合致しない書体を使用するようになりました。

コンピュータフォント

コンピュータフォントのメーカーに対して標準字体への準拠が義務付けられていないため、市販されているフォントの多くは標準字体に準拠していません。標準字体に準拠した市販フォントは、書体名などにその旨が明記されていることが多いです。

2005年頃から、OSのデフォルトフォントや添付フォントに標準字体に準拠する動きが見られるようになり、大手企業が配布するオープンソースフォントの中にも国字標準字体に沿ったものが現れました。学術論文や公文書では、国字標準字体に準拠した楷書体（標楷體）で印刷することが一般的となり、標準化が進んでいます。

Microsoft Windowsに標準インストールされる繁体字中国語フォントでは、細明朝体にあたる「新細明體・細明體」(PMingLiU, MingLiU)バージョン5.03以降と、楷書体「標楷體」(DFKai-SB)、Windows Vistaから採用されたゴシック体にあたる「微軟正黑體」(Microsoft JhengHei)が国字標準字体に準拠しています。

AppleのOSでは、Classic Mac OS時代のChinese Language Kit 2.0やMac OS 9各言語版、Mac OS X v10.2以降のmacOSでは「標楷體」(BiauKai)が利用可能です。OS X El Capitan以降のmacOSとiOS 9以降にはゴシック体にあたる「蘋方-繁」(PingFang TC)が標準フォントとして搭載され、国字標準字体に準拠したデザインとなっています。Microsoft Office for Macには、「新細明體・細明體」(PMingLiU, MingLiU)と「微軟正黑體」(Microsoft JhengHei)が含まれます。

AdobeがGoogleなどと共同開発したオープンソースフォントの繁体字は、国字標準字体に対応しています。ゴシック体にあたる「思源黑體」(Source Han Sans TC)と明朝体にあたる「思源宋體」(Source Han Serif TC)の2ファミリーがあります。

中華民国教育部は、ウェブサイトを通じて明朝体にあたる「教育部標準宋體字形檔」と楷書体フォント「教育部標準楷書字形檔」をクリエイティブ・コモンズのライセンスで配布しています。

台湾のフォントメーカーであるダイナコムウェアは「華康標楷體」「華康標宋體」「金剛黑體」を販売しており、アーフィック（文鼎科技、Arphic Technology）は「文鼎標準楷體」「文鼎標準宋體」を販売しています。また、日本のSCREENグラフィックソリューションズは「ヒラギノ角ゴ 繁體中文」ファミリーを、モリサワは「UD新ゴ 繁体字 標準字体」ファミリーを発売しています。

特徴

国字標準字体は、繁体字の書写体を基礎とし、字源を重視して制定されました。そのため、筆画に関する厳格な規定が存在し、「又」の二画目は必ず上に接触することなどが定められています。また、「夂」「夊」「攵」や「月」と「⺼（肉月）」など、一般に混同される部首についても厳格な区別が求められます。

原則

国字標準字体の制定にあたっては、以下の原則が設けられました。

複数の字体が存在し、意味や音に区別がない場合は、一字を正体と定める。
最も一般的に使用される字体を採用する（例：「才」を正字とし、「纔」は採用しない）。
字の本義を優先する（例：「腳」を正字とし、「脚」は採用しない）。
複数の字体が本義に合致する場合は、筆画の少ない字体を採用する（例：「舉」を正字とし、「擧」は採用しない）。
上記原則以外を採用する場合は、その理由を明記する（例：「麪」は「麵」より筆画が少ないが、「丏」が「丐」と混同しやすいので「麵」を採用）。
複数の字体が存在し、古くは同じ意味で今は意味が異なる字は両方採用する（例：「間」と「閒」）。
複数の字体が存在し、古くは意味が異なり今は同じ意味の字も両方採用する（例：「證」と「証」）。
偏旁の異体字は造字の原則を採用する（例：「吞」を正字とし、「呑」は採用しない）。
偏旁で古くは別字、現在は同じ字体のものは区別する（例：「月」と「⺼（肉月）」）。
その他、混同の可能性があるものは事前に区別を明記する。

反対意見

国字標準字体は、厳格な筆画規則と字源考証に基づいているものの、一般的に行われる書き方と合致しない場合があります。例えば、「內」は古来「入部」に分類されてきましたが、書道史では「内」と書かれており、王羲之の文字を含めて異体字とする考え方には、習慣を優先すべきという意見も存在します。

また、過度に厳格な筆画規則は、書道で美観を優先するために行われる筆順の変更を「間違った書き方」としてしまうという批判もあります。

影響

国字標準字体には強制力がないため、完全に正確な国字標準字体に基づいた漢字を書ける台湾市民は多くありません。しかし、長年にわたる使用によって、文字の基本構造は画一化が進んでいます。以前よく見られた「麪」や「着」などの異体字は、正字とされた「麵」や「著」に置き換えられ、ほぼ見られなくなりました。

関連項目

繁体字
常用国字標準字体表 （別名「甲表」）
次常用国字標準字体表 （別名「乙表」）
罕用字体表 （別名「丙表」）
異体字表 （別名「丁表」）
常用字字形表 （香港の小中学校教科書の標準字体表）

外部リンク

國字標準字體研訂原則
國字標準字體宋體母稿＜教育部字序＞
國字標準字體楷書母稿＜教育部字序＞
國字標準字體方體母稿＜教育部字序＞
* 常用国字標準字体筆順学習網

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