部首

部首とは

部首とは、漢字を分類するための重要な要素であり、字書（漢字辞典）において漢字を整理・配列する際に用いられる、漢字を構成する一部分のことです。部首は、単なる分類記号ではなく、漢字の意味や成り立ちを理解するための手がかりとなり、字書を引く際の検索方法としても機能します。

部首の役割

部首は、漢字を偏（へん）や冠（かんむり）といった構成要素ごとにグループ分けし、それぞれの漢字が持つ意味的なつながりを可視化します。たとえば、「鉄」という漢字は、「金」を意味する「釒」（かねへん）を部首とすることで、金属に関わる漢字であることがわかります。部首による分類は、字書における漢字の配列方法としてだけでなく、効率的な漢字検索のための索引としても機能します。

部首の決定には、字書によって異なる場合があります。一般的に形声文字では、意味を表す部分が部首となることが多いですが、字形や検索の便宜性が優先されることもあります。

例：「心」に関連する部首の変形
「志」の下部：ほぼそのままの「心」の形
「快」の左側：「忄」（りっしんべん）
「慕」の下部：「㣺」（したごころ）

これらの変形は、意味は同じ「心」でも、字書によっては別の部首として扱われることがあります。部首とは、文字のグループであると同時に、漢字の一部分を指す言葉でもあるのです。

部首法とは

部首法とは、字書において漢字を分類する際に、部首を用いる方法のことです。この方法により、字書は漢字の検索を容易にする索引としての役割も果たします。字書の索引には、部首索引の他に、音訓索引や総画索引などもありますが、部首索引は漢字の構造的な理解を助けるという点で重要な役割を果たします。

部首法による漢字の配列

現代の漢和辞典では、部首を軸とした漢字の配列が一般的です。その基本的な手順は以下の通りです。

1. すべての部首を画数の少ない順に並べます。
2. 同じ部首内では、部首以外の部分の画数の少ない順に並べます。
3. 画数が同じ場合は、音読みの五十音順に並べます。

これらのルールに従って配列された漢字は、見出し語として部首索引に掲載され、読者が目的の漢字を探す際の助けとなります。

部首を用いた漢字検索

部首を利用した漢字検索は、字書の配列をそのまま利用します。例えば「銅」という字を探す場合、以下の手順を踏みます。

1. 部首の見当をつける：「銅」は「金偏（かねへん）」
2. 部首索引で「金部」のページを開く
3. 部首以外の部分（「同」の部分）の画数を数える：6画
4. 「金部」の中で6画の漢字の箇所を探す
5. 6画の漢字が五十音順に並んでいるので、「銅」を探す

ただし、部首が明らかでない漢字や、字書によって部首の分類が異なる場合もあります。その場合は、いくつかの部首を試す必要があるかもしれません。字書によっては、利用者が探しそうな複数の箇所に掲載することで、検索の利便性を高めているものもあります。

コンピュータでの部首の利用

コンピュータでの漢字入力においても、部首を利用できる場合があります。また、中国語の入力方法には、漢字を部分に分解して入力する倉頡入力法などがありますが、これらは部首と直接的な関連性はありません。

部首の歴史

部首による漢字分類は、時代とともに変化してきました。部首の数は、時代が進むにつれて減少する傾向にあります。

『説文解字』による部首分類

漢字を部首によって初めて分類したのは、後漢時代の『説文解字』です。この書では、篆書体の漢字を540の部首に分け、その成り立ちを六書（象形・指事・会意・形声・転注・仮借）の原理に基づいて解説しました。『説文解字』の部首分類は、漢字の意味を構成部分の意味によって体系化することを目的としていました。

しかし、部首の数が多すぎたため、検索の利便性に欠けるという欠点がありました。その後、『玉篇』や『類篇』などの字書も『説文解字』の部首分類を踏襲しましたが、検索の難しさは解消されませんでした。

中国では、部首分類よりも韻目順に漢字を並べた韻書の方が検索に便利であるとされ、長く利用されてきました。

部首の整理

その後、『龍龕手鑑』や『五音篇海』などの字書では、部首の数を減らし、検索の便を図るようになりました。特に『五音篇海』は、同一部首の漢字を画数順に配列するという画期的な方法を採用しました。しかし、部首自体の配列は、四声や五音三十六字母の順になっており、画数順ではありませんでした。

『字彙』による部首分類

現在の主流となっている画数順の214部首は、明の時代の『字彙』によって初めて確立されました。『字彙』では、部首の配列順と部首に属する漢字の配列順をともに画数順とし、検索を容易にしました。

また、『字彙』では、所属文字の少ない部首を大胆に統合しました。例えば、『説文解字』で「男部」に属していた「男」「甥」「舅」は、「田部」「生部」「臼部」にそれぞれ移動しました。また、字源ではなく字形によって分類することで検索に役立つようにした部首もあります。

『康熙字典』による部首分類

『康熙字典』の部首配列は、『字彙』にほぼ従っています。細かな変更点として、5画部首の先頭を「玄」とするために「玄玉瓜」の順にしたことと、4画で「气部」と「氏部」の配列を入れ替えたことがあります。

部首の決定については、『字彙』が字形重視であるのに対し、『康熙字典』はやや字義を優先する傾向があります。ただし、同画数の部首の配列には、字形の類似性や意味の類似性を考慮したものの、全体を貫く明確な原則はありません。

伝統的な部首分類と漢和辞典の改良

昭和初期までの漢和辞典は、『康熙字典』の部首分類を踏襲していたため、部首を引くのが容易ではありませんでした。例えば、「忄（りっしんべん）」は「心」部、「承」は「手」部を見なければなりませんでした。また、新字体への変更により、旧字体との乖離への対応も必要となりました。

字形主義と字義主義

『康煕字典』の部首選択は、字義主義（形声文字の意符を部首に選ぶ）と字形主義の折衷的な方法でした。そこで、長沢規矩也は、字の見た目から引けるように工夫した『新撰漢和辞典』を刊行しました。これは字形主義の代表的な例です。この方式は、後の『三省堂漢和辞典』にも引き継がれました。

一方、角川『新字源』は、できる限り字義主義を採用しようとしました。

海外の辞書では、Nelsonの漢英辞典が字形主義を採用しています。この辞典では、部首決定のルールを定めており、伝統的な部首とは異なる部首に配属される漢字も存在します。

同一部首の変形の扱い

伝統的な部首分類では、「心」の部には、「心」の形を保ったものだけでなく、「忄」や「㣺」といった変形も含まれます。しかし、これらの変形を知らないと部首での検索が困難になります。

今日の漢和辞典では、「忄」を部首としたり、部首索引で「忄」から「心」部に誘導するなどの工夫がされています。

新字体の扱い

日本では、新字体によって字形が大きく変わった漢字があります。これらの漢字の中には、従来の部首を全く含まないものもあり、検索が難しくなっています。このため、漢和辞典によって、新字体の部首や画数をどのように扱うかの基準が異なっています。

旧字体の部首と画数の位置に新字体をそのまま配置する例（万＝艸部9画）と、新字体に適した部首と画数の位置に変更する例（万＝一部2画）があります。新字体の部首には統一的な基準がないため、各漢和辞典で部首が異なることがあります。

新部首の扱い

新字体が登場したことや、部首が引きにくい漢字を引きやすくするために、康熙字典の214部首に含まれない新部首を設けた漢和辞典もあります。

例えば、「ツ部」や「了部」などが挙げられます。これらの新部首には、統一的な基準がないため、各漢和辞典で異なります。

画数の扱い

漢字の画数を数えるときは、一筆で書ける点画を1画と数えます。部首においても同様です。ただし、部首の中には、通常の明朝体活字と異なる画数が定められているものもあります。例えば、「瓜部」は、康熙字典では5画とされます。

また、中国と日本では、部首や部分の画数が異なる場合があります。例えば、「こざとへん（阝）」は、日本では3画ですが、中国では2画です。

中華人民共和国の部首

中華人民共和国では、部首と画数に加えて、筆画の形（筆形）を利用することが多いです。同一画数の文字は、最初の筆画の形によって分類されます。

中国の字書や漢字辞典では、字義を重視するタイプと字形を重視するタイプの両方が存在します。人部と亻部を別の部首に分離したり、統合したりするなど、康熙字典とは異なる扱いをしているものが多いです。

漢字部首表

部首の扱いを統一するため、中国では2009年に「漢字部首表」が実施されました。この表では、201部首（附形部首は100種類）を採用し、各漢字の部首への所属を一定の規則に従って決定します。

例えば、漢字の左・上・外に部首があればそれを採用し、右・下・内にあればそれを採用します。規則に当てはまらない場合は、最初の筆画を部首とします。

漢字と部首

ある漢字がどの部首に分類されるかは、字書によって異なります。

形声文字

形声文字では、意味を表す部分が部首となることが多いです。例えば、「銅」は「金偏」が部首になります。形声文字は、意味を表す「意符」と音を表す「音符」から成り立っており、部首は「意符」であることが多いです。

例：
「投」：意符は「手」、部首は「手部」
「殴」：意符は「殳」、部首は「殳部」
「閥」：意符は「門」、部首は「門部」
* 「聞」：意符は「耳」、部首は「耳部」

形声文字以外

会意文字では、構成要素がいずれも意符となるため、部首分類は字書によって異なります。象形文字や指事文字の場合は、それ自体が部首となる場合もあれば、字形によって分類される場合もあります。

偏旁のように分離した部分がない文字では、分類が難しくなります。例えば、「事」は「亅部」に、「垂」は「土部」に分類されます。

部首の型と位置

部首は、文字のグループに共通する意味を表すため、その位置は必ずしも一定ではありません。例えば、「鳥」は、偏、旁、冠、脚など、様々な位置に現れます。

部首の多くは、偏（左側）、旁（右側）、冠（上部）、脚（下部）などの位置にあります。また、垂、繞、構といった位置に部首が現れることもあります。

康熙字典をもとにした部首の一覧

以下に、康熙字典をベースとした部首の一覧をまとめます。字体の変更による康煕字典とのずれは、「(jp)」は日本の新字体、「(cn)」は中華人民共和国の簡体字を示します。

[ここに部首の一覧がテキストで羅列されます。]

近現代に考案された部首数の少ない部首体系

現在、日本では康熙字典の部首体系が標準となっていますが、20世紀には部首数を減らした部首体系が提案されたこともあります。

統一基準漢字明朝書体帳の153部首体系

朝日新聞社では、活字を統一するために153部首の体系を作成しました。この体系では、康熙字典の214部首から大幅に整理し、新設部首も含まれています。この部首体系では、最大画数は11画です。

Spahn & Hadamitzkyの79部首体系

英語圏の漢英辞典「The Kanji Dictionary」では、79部首の体系を採用しています。この体系では、画数の多い複雑な字形の部首を削除し、字形からルールに従って部首を決定できます。この辞書では、部首を持たない漢字は疑似部首「0a部」に分類されます。

まとめ

部首は、漢字を理解し、字書で検索するための重要なツールです。部首の歴史を理解することで、漢字の奥深さをより感じることができるでしょう。現代の漢和辞典では、部首検索が容易になるように様々な工夫が施されていますが、部首の基本概念を理解することは、漢字学習において重要な要素と言えるでしょう。

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