塩冶氏

塩冶氏：出雲の地を駆け抜けた一族

塩冶氏（えんやし）は、宇多[[源氏]]佐々木氏の流れを汲む一族で、近江源氏の分流である出雲[[源氏]]の嫡流にあたります。その始祖は塩冶三郎左衛門頼泰であり、家紋には「花輪違」を用いていました。しばしば「塩治氏」や「塩谷氏」と誤記されますが、これは本貫地である出雲国神門郡塩冶郷に由来する「塩冶」が正しい表記です。

塩冶氏の勃興

近江源氏の嫡流である佐々木秀義の五男、義清が承久3年（1221年）の承久の乱で武家方に味方し、その功績により出雲・隠岐二国の守護に任じられ出雲へ下向しました。義清の孫にあたる塩冶頼泰が、出雲国神門郡塩冶郷を本拠として塩冶氏を名乗るようになったとされています。その居城は大廻（おおさこ）城でした。その後、鎌倉時代を通じて出雲守護職を世襲し、勢力を拡大しました。

室町時代の動乱と塩冶氏の衰退

鎌倉末期の元弘3年（1333年）、塩冶高貞の時代には後醍醐天皇の討幕運動に参加しましたが、後に足利尊氏に寝返り、室町幕府が開かれると高貞は出雲・隠岐両国の守護職に任じられ、一族は隆盛を極めました。しかし、興国2年/暦応4年（1341年）に高貞は京都を離れ、足利直義から謀反の疑いをかけられ、桃井直常や山名時氏らによって討伐され、塩冶氏の嫡流は没落しました。

その後の塩冶氏

高貞の弟である塩冶時綱は生き残り、その子孫は出雲国奉公衆として命脈を保ちました。時綱の家系からは、足利将軍家の近習衆となった者も出ています。また、同じ佐々木源氏の一族である京極氏や山名氏などの被官となり、生き残った一族も存在しました。京極政経によって尼子経久が追放された後、守護代に任じられた塩冶掃部介も、この時綱の系統と見られています。

尼子氏の台頭と塩冶氏の変質

出雲国奉公衆としての塩冶氏は、塩冶貞慶の代に一族の内紛が生じ、尼子経久の介入を招きました。経久は三男の尼子興久を養子として塩冶氏に送り込み、事実上、塩冶氏を乗っ取ったのです。興久は後に謀反を起こして敗死し、息子の清久の代には尼子姓に戻りました。さらに興久の孫である政貞は加藤姓を名乗るようになり、塩冶氏の嫡流は完全に途絶えました。所領の大部分は、経久の次男である国久が継承しました。

その他の塩冶氏族

但馬国にも塩冶氏の分流が存在しました。これは、高貞の甥である塩冶通清の四男・周防守の子孫とされ、山名氏に仕えて各地で活躍しました。この系統からは、戦国時代に芦屋城主となった塩冶高清が出ています。

また、『羽衣石南条記』によれば、伯耆国の南条氏は高貞の次男である貞宗を始祖とするという説があります。しかし、これ以前から伯耆には南条姓を名乗る有力な一族が存在していたことが明らかになっており、南条氏自身も賀茂姓を意識していたとされています。このため、塩冶氏と南条氏の血縁関係については確証がありません。

塩冶氏関連の人物

塩冶頼泰
覚日尼 (出雲国造泰孝室)
塩冶高貞
塩冶掃部介
塩冶高清
塩冶興久（尼子興久）
塩冶高秀（南条貞宗）

まとめ

塩冶氏は、出雲地方において一時代を築いた名族でしたが、内紛や他氏の介入によってその勢力を失いました。しかし、その血脈は分流として各地に残り、歴史の中にその名を刻んでいます。塩冶氏の興亡は、中世日本の武家社会における盛衰と権力闘争を象徴する出来事の一つと言えるでしょう。

参考文献

『見聞諸家紋』
『太平記（全40巻）』小島法師 著
『陰徳太平記（全81巻）』香川正矩、香川景継 共著
『師守記』中原師守 著
『伯耆民談記（全20巻）』松岡布政 著
『羽衣石南条記（全2巻）』蘆葉舎似猿人 著
長谷川博史 「＜論説＞戦国大名尼子氏権力の形成：出雲国奉公衆塩冶氏の掌握と討滅」 史学研究会『史林 第76巻第3号』
亀田俊和『高師直 室町新秩序の創造者』吉川弘文館
鈴木登美恵 「太平記「塩冶判官讒死之事」をめぐって」 中世文学会 『中世文学』第26巻
* 米原正義「塩冶氏」『国史大辞典』吉川弘文館

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