夜明けの序曲

夜明けの序曲

宝塚歌劇団花組によって上演された、日本の近代演劇史における重要人物、川上音二郎と彼の妻であり女優として活躍した貞奴夫妻の生涯を描いた一本立てミュージカル作品です。明治から大正にかけての激動の時代を背景に、演劇に情熱を燃やした二人の波瀾万丈な人生が描かれます。

公演の経緯

本作は二度、宝塚の舞台で上演されています。

初演（1982年）

1982年、宝塚大劇場と東京宝塚劇場にて初演されました。この公演は、当時の花組トップスターである松あきらの退団公演として上演され、松が主人公の川上音二郎を、相手役の若葉ひろみが貞奴を演じました。なお、この期間中、順みつきは外部出演のため本公演は休演しています。

特に東京宝塚劇場での上演は、1982年度の芸術祭において出品作品として選定され、その質の高さから見事、芸術祭大賞を受賞するという栄誉に輝きました。また、後に五代目坂東八十助と結婚し退団する寿ひずるにとって、宝塚歌劇団での生徒としての最後の出演舞台となった作品としても知られています。主題歌の作詞は公文健が担当しました。

再演（1999年）

1999年には、宝塚大劇場とTAKARAZUKA1000days劇場（東京）にて再演が行われました。この再演は、新しく花組トップスターに就任した愛華みれのお披露目公演として上演されました。専科からは、ベテランである松本悠里、岸香織、城火呂絵が出演し、舞台に重厚感を与えました。この再演の出演をもって、元雪組副組長なども務めた岸香織が定年退団しています。

公演記録と形式

両公演ともに「宝塚グランド・ロマン」（または「宝塚グランドロマン」）という形式名が冠され、二部構成、全40場で上演されました。1999年の再演では、第一部が「雪のマンハッタン」、第二部が「花のモンマントル」とそれぞれ題が付けられています。

若手育成の場である新人公演も行われ、将来を嘱望されるスターたちが主要な役を演じました。

1982年 新人公演（宝塚・東京共通）
宝塚第一部／東京第一部：川上音二郎 - 朝香じゅん、川上貞 - 峰丘奈知
宝塚第二部／東京第二部：川上音二郎 - 瀬川佳英、川上貞 - ひびき美都
1999年 新人公演（宝塚・東京共通）
川上音二郎 - 水夏希
川上貞 - ふづき美世
高浪定二郎 - 彩吹真央
ユキ - 舞風りら
櫛引弓人 - 蘭寿とむ
津坂幸一郎 - 愛音羽麗
三上繁 - 悠真倫
お勝 - 夢路ほのか

主なスタッフ

作品創作に携わった主なスタッフは以下の通りです。（両劇場共通表記がない場合は、それぞれを担当）

1982年
作・演出：植田紳爾、酒井澄夫
音楽：寺田瀧雄、入江薫、高橋城
邦楽指導：本條秀太郎
音楽指揮：野村陽児、溝口堯
振付：花柳寿楽、喜多弘、岡正躬、県洋二、黒瀧月紀夫
装置：石浜日出雄、関谷敏昭
衣装：静間潮太郎、中川菊枝
照明：今井直次
音響：松永浩志
小道具：上田特市
効果：中田正廣
演技監督：美吉左久子
演出補：三木章雄
演出助手：谷正純、石田昌也
制作：田中拓助
1999年
作・監修：植田紳爾
演出：酒井澄夫、三木章雄
作曲・編曲：寺田瀧雄、入江薫、吉田優子
邦楽指導：本條秀太郎
音楽指揮：岡田良機、清川知己
振付：花柳寿楽、羽山紀代美、名倉加代子、御織ゆみ乃、若央りさ
装置：石濱日出雄、関谷敏昭
衣装：静間潮太郎、有村淳
照明：今井直次
音響：加門清邦
小道具：伊集院撤也
小道具補：石橋清利
効果：扇野信夫
演技指導：美吉左久子
演出助手：木村信司（宝塚）、大野拓史（宝塚）、小柳奈穂子（東京）
装置補：広森守
舞台進行：西原徳充、恵見和弘
舞台監督：藤村信一（東京）、中村兆成（東京）、香取克英（東京）、宮脇学（東京）
舞台美術製作：株式会社 宝塚舞台
演奏：宝塚管弦楽団
制作：阿古健
演出担当（新人公演）：木村信司

主な楽曲

作品を構成する重要な要素である楽曲の中から、代表的なものを挙げます。

夜明けの序曲 (主題歌)
心も空に (主題歌)
貴方に生命を
花・宴・歌 (1999年再演) - 作詞：公文健、作曲：寺田瀧雄
噂
望郷の譜 - 作詞：植田紳爾、作曲：入江薫
歌舞伎A若衆の踊り(毛槍)
歌舞伎B獅子
地唄舞(雪) - 作曲：入江薫

『夜明けの序曲』は、日本の近代化と演劇の発展に尽力した川上音二郎・貞奴夫妻の生き様を、宝塚らしい華やかなレビュー形式と重厚なドラマで描ききった作品であり、特に初演の芸術祭大賞受賞は、その芸術性の高さを証明しています。

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