大威徳寺跡

大威徳寺跡

大威徳寺跡は、飛騨国益田郡竹原郷御厩野（現在の岐阜県下呂市御厩野）と美濃国恵那郡加子母（現在の中津川市加子母）の国境に位置する、かつて存在した寺院の跡です。岐阜県史跡に指定されており、その歴史と規模の大きさを今に伝えています。

歴史

大威徳寺は、鳳慈尾山に建立された天台宗の寺院で、源頼朝が征夷大将軍となり鎌倉幕府を開いた際、木曾義仲とその一族の供養のために建立が命じられたと伝えられています。文覚上人がこの地を選び、大威徳明王を本尊とし、五重塔には大日如来を安置したとされています。

創建当時の大威徳寺は非常に壮大で、格式も高く、諸国の武士が参詣する際には、堂前への乗り入れが許されなかったため、麓に厩を設けて馬を留めたと伝えられています。この故事が御厩野という地名の由来になったとされています。

寺院の規模は約10haにも及び、仁王堂や本堂、鐘楼、五重塔などの礎石が残っています。最盛期の室町時代には、丈5間（約14.4m）の本堂を中心に、7堂12坊を有する大寺院として栄えました。境内には、伊豆・箱根・白山・熊野の権現を祀る4つの堂があり、寺領の門前には和泉橋が架けられていました。

『飛州史』には、12坊の名として、東坊、多聞坊、南坊、竹林坊、西坊、聖林坊、吉祥坊、北坊、宝光坊、池坊、満月坊、福成寺があったと記録されています。寺跡は拝殿山（標高1402m）から南西に延びる丘陵の先端（標高742m）に位置し、周辺には伝・西坊、伝・多聞坊といった地名が残っています。

西坊の跡地には、慶長年間に禅昌寺5世の功叔宗輔が阿弥陀寺を建立しました。この阿弥陀寺の本尊は、大威徳寺ゆかりのものであると伝えられています。

大威徳寺は、戦国時代の永禄12年(1569年)に、苗木城主の遠山直廉が武田信玄の命を受けて三木次郎右衛門尉を攻めた際、兵火により多くの堂塔を焼失しました。さらに、天正13年(1585年)に発生した天正地震によって、ほぼ壊滅的な被害を受けました。その後も細々と存続したようですが、17世紀後半には廃寺となりました。

12坊の一つであった「多聞坊」の僧、慶俊は、郡上市の長瀧寺へ逃れ、そこで大威徳寺に関する記録を残しました。その記録の写しは、現在高山市の宗猷寺に現存しています。また、中津川市加子母にある大杉地蔵尊は、行基の作とされ、元は大威徳寺の塔頭に奉祀されていたと伝えられています。

末寺

大威徳寺の末寺として、美濃国には加茂郡神土村に常楽寺、大沢村に蟠龍寺、吉田村に大蔵寺が建立されたとされています。これらの寺院は、江戸時代に苗木藩主となった遠山友政によって、臨済宗妙心寺派に改宗され、雲林寺の末寺となりました。また、恵那郡加子母村には極楽寺がありましたが、天正地震後に衰退し消滅したと伝えられています。

現状

現在、大威徳寺跡は雑草や木々に覆われており、本堂跡には五間四方の礎石と石段が残っています。また、畠山重忠が寄進したと伝えられる「秩父杉」の切株跡が残っています。この秩父杉は、明治時代に切り倒され、近隣の民家の天井板として使用されました。

その他、山門跡の礎石、鐘楼や塔の礎石、苔むした五輪塔などが残っています。また、源頼家が植えたと伝えられる「鎌倉銀杏」の古株も残されています。

平成15年(2004年)から平成20年(2009年)にかけて、下呂市教育委員会によって発掘調査が行われ、本堂、軒廊、拝殿、鎮守、仁王門と推定される遺構が確認されました。

アクセス

JR高山本線下呂駅から国道257号線を車で約20分です。

関連項目

中部地方の史跡一覧
大威徳寺の戦い
阿弥陀寺 (下呂市)
[寶心寺]

脚注

『岐阜県益田郡誌』
『飛騨百景』
『岐阜県指定史跡鳳慈尾山大威徳寺跡 : 範囲確認調査概要報告書 平成15年度』
『岐阜県指定史跡鳳慈尾山大威徳寺跡 : 範囲確認調査概要報告書 平成16年度』
『岐阜県指定史跡鳳慈尾山大威徳寺跡 : 範囲確認調査報告書 平成15-18年度』
『山寺サミットin下呂温泉～大威徳寺の謎を追う～報告集』
『文覚上人と大威徳寺 : 鎌倉幕府創建への道 : 「濃・飛」秘史』

外部リンク

岐阜県　鳳慈尾山　大威徳寺
* 全国遺跡報告総覧　奈良文化財研究所

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