大山寺 (伊勢原市)

大山寺（おおやまでら）

神奈川県伊勢原市にある大山寺は、雨降山（あぶりさん）を山号とする真言宗大覚寺派の寺院で、大山不動の通称で親しまれています。本尊は不動明王で、開基は良弁と伝えられています。高幡山金剛寺、成田山新勝寺とともに「関東の三大不動」に数えられ、江戸時代には江戸近郊の観光地として賑わい、落語の題材にもなるほどでした。

歴史

山岳信仰の開始

大山は、丹沢山地の東端に位置する標高1,252mの山で、古くから山岳信仰の対象でした。大山信仰の始まりは不明ですが、縄文時代後期の土器や古墳時代の須恵器などが発掘されており、信仰の歴史は非常に古いと考えられています。

大山の名称の由来ははっきりしていませんが、明治以降は山頂に大山祇神を祀ったためと説明されることがあります。かつて大山祇神は「石尊権現」と呼ばれていました。

10世紀前期の『延喜式』神名帳には、相模国十三座の一つとして「阿夫利神社」の記載があり、このことから8世紀前半には阿夫利神社が創建されたと考えられています。古墳時代以降、大山そのものへの広域な信仰が広がり、古代の仏教的な山岳修行者が山内に修行場所を開拓するにつれて、山頂の磐座が「石尊権現」として祀られるようになったと考えられます。

大山寺の開山

大山寺は古代に不動明王を本尊として建立され、大山山頂の磐座への「石尊権現」信仰と、大山全体を不動明王の霊場とする信仰が一体化していったとされています。

『大山寺縁起』によれば、大山寺は天平勝宝7年（755年）、東大寺初代別当の良弁が自刻の木造不動明王像を本尊として聖武天皇の勅願寺として開創したとされています。また、天平宝字5年（762年）には行基の命により、光増が不動明王像を製作して本堂に奉納したと伝えられています。寺伝では空海（弘法大師）を3世住持としており、元慶2年（878年）の地震による火災で焼失しましたが、同8年（884年）に安然によって再興されたとされています。

平安時代末期には、大山は糟屋氏が支配する糟屋荘に編入されましたが、後に藤原得子（美福門院）の領地となり、さらにその子である暲子内親王（八条院）の領地となりました。

鎌倉時代から戦国時代

鎌倉時代には、糟屋氏が源頼朝の御家人となったため、大山寺は鎌倉幕府の庇護を受けました。源頼朝は北条政子の安産祈願のため、当寺を含む相模国の寺社に神馬を奉納しています。その後、一時衰退しましたが、文永年間（1264-1275年）に願行房憲静によって中興されました。

憲静は、蒙古降伏の秘法を修得するため大山に登り、百日間の苦行を行いました。その際、不動明王の姿を感得し、その姿をもとに二体の鉄造の不動明王像を造立しました。そのうち一体は覚園寺に、もう一体が大山寺に安置されています。

室町時代には、大山寺は室町幕府や鎌倉府の庇護を受けていましたが、やがて地域領主層や勧進唱導活動などによって経営を支えるようになりました。文明18年（1486年）には、聖護院門跡道興准后が雪の大山に宿泊したことが記録されています。

戦国時代には、大山は小田原の北条氏の支配下に入り、宗教勢力を利用しようとしました。

江戸時代

近世初頭、徳川家康は大山寺の改革を行い、寺領を寄進する一方で、真言宗以外の宗教者を下山させ、真言宗の僧侶のみを住持させました。さらに、大山寺を古義[[真言宗]]に統一し、初代学頭を任命しました。3代将軍徳川家光も伽藍の修復代を寄進し、春日局が代参として参詣しています。

江戸時代中期以降、「大山詣で」が盛んになり、関東各地に大山講が組織されました。大山道が整備され、参詣者向けの宿坊が門前町として栄えました。

明治以後

明治初期の廃仏毀釈・神仏分離で大山は神社化され、不動堂は破却されました。その後、明治9年（1876年）に不動堂が再建され、明治18年（1885年）に明王院として再興しました。大正4年（1915年）に観音寺と合併し、大山寺の旧寺号が復活しました。

文化財

鉄造不動明王二童子像

鎌倉時代に制作された鉄造の仏像で、国の重要文化財に指定されています。鉄造の仏像は、銅に比べて鋳造が難しく、優れた作品は少ないですが、この像は鎌倉時代の鉄仏の中でも秀作の一つに数えられています。毎月8・18・28日に開帳されます。

巡礼

- 関東三大不動
- 関東三十六不動霊場：第1番
- 関東八十八箇所：第60番

所在地

神奈川県伊勢原市大山724

交通アクセス

公共交通

小田急小田原線「伊勢原駅」北口から神奈川中央交通西バスで「大山ケーブル」行きに乗車し、終点下車後、大山ケーブルカーを利用。

車

東名厚木インターから国道246号経由で伊勢原大山方面へ。市営駐車場から大山ケーブル駅まで徒歩約15分。

参考文献

- 川島敏郎「古記録からみた大山信仰の諸相」『神奈川県立公文書館紀要』6
- 「丹沢・大山歴史街道ものがたり」（産業能率大学サイト）
- 城川隆生「相模の一山寺院と『新編[[相模国風土記稿]]』地誌調書上－大山寺と光勝寺－」『山岳修験』第65号
- 「糟屋庄不動堂」『大日本地誌大系』第38巻新編[[相模国風土記稿]]3巻之51村里部大住郡巻之10

外部リンク

- 雨降山大山寺 - 公式サイト

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