大江以言

大江以言（おおえ の もちとき）は、平安時代中期に活躍した貴族であり、優れた文人としても知られています。天暦9年（955年）に生まれ、寛弘7年（1010年）に56歳で亡くなりました。父は大隅守を務めた大江仲宣です。官位は従四位下、式部権大輔にまで至りました。

生涯

若い頃から漢学を藤原篤茂に学び、文章生として頭角を現しました。対策にも及第し、一条天皇の時代には大内記や勘解由次官といった重要な役職を歴任しました。特に藤原伊周とは非常に親しく、周囲からは「帥殿方人」と見なされるほどでした。しかし、長徳2年（996年）に伊周が失脚した長徳の変に連座し、以言も飛騨権守に左遷されるという憂き目に遭います。その後、伊周の赦免とともに都に戻り、長保元年（999年）には文章博士、長保5年（1003年）には大外記と、文筆に関わる官職を歴任しました。

また、長保5年には、長兄の大江清言らとともに、弓削朝臣から大江朝臣に改姓しています。藤原道長が政権を握る時代には、官途は不遇でしたが、その才能は一条天皇にも知られていました。「恨暗漢雲之子細」という詩句が知られるところとなり、蔵人に任じられそうになるも、藤原道長や殿上人の反対で実現しませんでした。

憤懣やるかたない以言は、一条天皇が奸臣に欺かれている様を風刺し、「鷹鳩不変三春眼、鹿馬可迷二世情」という詩句を放言しました。この句は、秦の二世皇帝と趙高の故事を引用したもので、「馬鹿」の語源になったとも言われています。しかし、殿上人からは、以言の旧姓である「弓削」をもじって「湯気（ゆげ）の上らんとす」と揶揄されました。しかし、道長は以言の漢詩を高く評価しており、自らの詩会に大江匡衡とともにしばしば招いています。

その後、治部少輔を経て、式部権大輔に至り、従四位下に叙せられました。寛弘7年（1010年）の正月に藤原伊周が亡くなると、その後を追うように同年7月24日に亡くなりました。

文学的な側面

以言の文体は非常に自由奔放で、新奇な趣向に富んでいました。しかし、その自由さは、時に法則を無視した恣意的なものと見なされることもあり、同時代の文人である大江匡房からは「後学には真似ることができない」と評されています。その一方で、慶滋保胤は、以言の作品に嫉妬に近い感嘆の念を抱いたとされています。また、具平親王の問いに対して、慶滋保胤は、以言の詩文を「白砂の庭前、翠松の陰の下、陵王を奏するが如し」と評し、その清奇さを称賛しました。具平親王自身も以言の詩文を「上手」と高く評価しました。

以言は、同時代の高名な文士である紀斉名の詩を批判したことがあり、自らの文才に自信を持っていたことが伺えます。

一条朝の詩壇の詞華集である『本朝麗藻』には、最多となる20首が収録されています。これは、2位の具平親王（18首）を上回る数です。また、『和漢朗詠集』に11首、『本朝文粋』に27首、『新撰朗詠集』に35首、『和漢兼作集』に6首など、多くの詩文集に作品が収録されています。平安末期に藤原通憲（信西）が所持していた蔵書目録には、『以言集』8帖、『以言序』1帖があったと記されていますが、現在には伝わっていません。

和歌では、『詞花和歌集』に「網代には 沈む水屑も なかりけり 宇治のわたりに 我や住ままし」の一首が収められています。

源俊賢、藤原行成、具平親王らとの親交も、彼らの詩作から窺い知ることができます。『江談抄』には、彼の詩文にまつわる逸話が多く収録されています。

官歴

永観年間：文章生対策
時期不詳：伊予掾
長徳元年（995年）頃：大内記
長徳2年（996年）10月11日：勘解由次官。10月10日：飛騨権守（長徳の変）
長保元年（999年）8月：文章博士
長保3年（1001年）8月：従五位上
長保5年（1003年）正月：大外記。12月28日：弓削朝臣から大江朝臣に改姓
時期不詳：治部少輔
時期不詳：従四位下。式部権大輔
寛弘7年（1010年）7月24日：卒去（従四位下行式部権大輔）

系譜

大江音人の玄孫、千古の曾孫、維明の孫、大隅守仲宣の子です。正言、嘉言（ともに勅撰歌人、嘉言は中古三十六歌仙の一）の弟にあたります。同時代の大学者である大江匡衡とは再従兄弟（同じく大江千古の曾孫）であり、文士として並び称され、合作した詩も残されています。

父：大江仲宣
母：不詳
妻：不詳
男子：大江成賢
* 男子：大江公賢

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