天元 (着点)

囲碁における天元

囲碁用語で「天元」とは、碁盤の中心にある一点を指します。19路盤では、黒1と示された箇所が天元です。タイトル戦の名称にも使われる「天元」は、この碁盤の中心から来ています。

歴史

碁盤の目は19×19の361個ありますが、これは古代中国の五行説でいう一年の日数360に対応しています。余った1目を中央の「天元」に見立て、万物の根源とする考え方で、数のバランスをとっていたとされます。ただし、当時は天元という言葉はなく、「太極」などと呼ばれていました。天元という名前を付けたのは、江戸時代の棋士であり天文学者でもあった二世安井算哲（渋川春海）だと考えられています。

布石における天元

囲碁の布石では、隅の小目や星から打ち始めるのが一般的です。しかし、碁盤の中央を最初に占める打ち方も古くから存在しました。例えば、最初に天元に打ち、相手の動きを真似て対称の位置に打つ「太閤碁」がその例です。


専門棋士で最初に天元を試したのは、二世安井算哲でした。彼は、当時の最強棋士であった本因坊道策との対局で、天文学の理論を応用し、初手に天元を打ちました。しかし、道策は冷静に対応し、安井の研究不足もあり、9目負けとなりました。その後、南里与兵衛も道策に初手天元で挑みましたが、中押し負けを喫しました。

その後、初手天元は長い間現れませんでしたが、明治時代に黒田俊節が本因坊秀甫に打った記録が残っています。天元が再び注目を浴びるのは、昭和時代に入ってからです。木谷實と呉清源が提唱した新布石の中で、中央を重視する手法として用いられるようになり、久保松勝喜代が熱心に研究しました。久保松は、「中央に大きな地を築くよりも、戦いに活用すべき着点」という見解を示しました。

さらに、呉清源が本因坊秀哉名人との対局で、三々、星、天元と連打する布石を打ち、大きな話題を呼びました。


新布石の流行が落ち着くと、初手天元は再び使われなくなり、マネ碁対策として時折打たれる程度になりました。1950年には、東西対抗戦で山部俊郎が橋本宇太郎に初手天元を打ち、橋本が即座にケイマガカリで応じた対局が有名です。当時は東西の対抗意識が強く、挑発的な感情が背景にあったと言われています。


平成時代に入ると、山下敬吾が天元戦で集中的に初手天元を試して話題になりました。また、依田紀基も時折天元打ちを試し、白番2手目での天元打ちも行っています。令和に入ってからは、2022年に天元戦の挑戦者となった伊田篤史が、第2局で白番天元、第4局で初手天元を試しましたが、いずれも敗れタイトルを奪取できませんでした。

評価

布石における天元は、研究不足のため利用が難しく、プロ間でも勝率が高くありません。天元の効果は全局に薄く広く及ぶため、効率的な活用が難しいと考えられています。また、プロ棋士は有効性が不明な手を避けたいという心理も影響していると考えられます。

加藤正夫は、「天元に打ってもらうとコミにして2目半ほど得した気分」と述べており、一時期多用した山下敬吾も「若い頃にトップ棋士対策として使用した一種の奇襲戦法であり、今後打つことはないだろう」とコメントしています。プロレベルでは、天元は有効な着点とはみなされていないのが現状です。

ただし、9路盤ではプロの研究により初手天元の有効性が指摘されており、様々な定石が生まれています。

その他

巡将碁では、初手に天元を打ちます。
また、山松ゆうきちの漫画作品『天元坊』は、初手天元を打つ僧侶が主人公です。

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