完顔襄

完顔襄

金の皇族であり、軍事・政治の両面で活躍した完顔襄（かんがん じょう）は、天眷3年（1140年）に生まれた。女真名は唵。金の建国者である太祖阿骨打の曾祖父にあたる昭祖石魯の五世孫であり、祖父は東南路都統の習古廼、父は参知政事の阿魯帯であった。

生涯

完顔襄は18歳で父の爵位を継承した。その軍事的才能は比較的若い頃から発揮されている。大定元年（1161年）には左副元帥完顔謀衍に従い、移剌窩斡の反乱鎮圧に功を挙げ、亳州防禦使に昇進した。続く大定3年（1163年）には潁州・寿州都統に転じ、南宋の北伐軍を迎撃する任務にあたった。この時、わずか2千の兵を率いて潁州を奪回するという戦果を挙げ、名を馳せた。

南宋との間に和議が成立して以降は、拱衛直都指揮使、殿前左衛将軍、殿前都点検といった禁軍の要職を歴任した。また、東北路招討都監、恤品路節度使、曷懶路兵馬都総管といった地方官も務め、様々な経験を積んだ。大定13年（1173年）には南宋への使者として派遣されたが、国書の受け付け儀礼を巡る問題で両国の間に摩擦が生じたため、任を果たさずに帰国する事態となった。帰国後には陝西路統軍使、次いで河南統軍使に任じられている。

政界の中枢においても、完顔襄は順調に昇進を重ねた。大定23年（1183年）には平章政事となり、蕭国公に封ぜられた。大定28年（1188年）にはさらに昇進し、尚書右丞相に就任、戴国公に改封された。明昌元年（1190年）には平陽府知府、その後鳳翔府知府を務めるなど、地方の要衝も担当した。明昌4年（1193年）には軍事の最高機関である枢密使に就任し、その軍事的識見が高く評価されていたことがうかがえる。明昌6年（1195年）には二度目の尚書右丞相となり、任国公に改封された。同年11月には行尚書省事の職務を拝命し、臨潢府へ派遣されている。

完顔襄の生涯で最も著名な功績は、明昌7年（1196年）に行われたモンゴル高原のタタル部（阻卜）討伐である。皇帝章宗の命を受けた彼は、同年2月に大軍を率いて出陣。夏にはケルレン河でタタル軍を壊滅させ、ウルジャ河（斡里札河）まで追撃してその残党を掃討するという歴史的な勝利（ウルジャ河の戦い）を収めた。この遠征には、後のモンゴル帝国を築くテムジン（後のチンギス・カン）とケレイト部族長のトオリルが金軍に協力して参戦しており、完顔襄は彼らの戦功を高く評価し、官爵を与えている。これは、金がモンゴル高原の部族勢力と関係を築きながら支配を維持しようとした一例であり、またテムジンとトオリルが金朝との関係を深める契機ともなった出来事である。

タタル討伐からの凱旋後、完顔襄は章宗皇帝から直接御酒を受け、玉器と佩刀を下賜されるなど、破格の厚遇を受けた。さらに左丞相、監修国史を拝命し、常山郡王に封ぜられた。同年冬には、信州で発生した契丹人の反乱を鎮圧する任も果たした。承安2年（1197年）からは左副元帥、枢密使、平章政事として大定府に駐屯。タタルの動きに警戒を続ける一方、金北方防衛の要衝である界壕の築城工事を監督するなど、多忙な職務をこなした。承安4年（1199年）には、三公の一つである司空の位が加えられ、その地位はさらに高まった。

泰和2年閏12月10日、西暦1203年1月24日に63歳でその生涯を閉じた。没後、武功と政治手腕を称えられ、武昭という諡号が贈られた。

参考文献

『金史』巻94 列伝第32

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