小笠原政康

小笠原政康とは

小笠原政康（おがさわら まさやす）は、室町時代に活躍した武将であり、信濃国の守護大名です。小笠原長基の三男として生まれ、兄である長将、長秀に次ぐ立場でした。宗康、光康の父としても知られています。室町幕府において、関東の足利氏に対する抑え役として重要な役割を果たしました。

生涯

小笠原氏は、曾祖父である貞宗が足利尊氏に仕えた功績により、信濃守護の地位を世襲していました。しかし、政康の次兄である長秀が国人衆の反感を買い、大塔合戦で敗北したため、応永8年（1401年）に信濃守護職を失います。信濃は一時的に斯波義将の支配下に置かれた後、幕府の直轄領となりました。

政康は嘉慶2年（1388年）に13歳で元服し、応永12年（1405年）に兄から家督と小笠原氏の所領を譲り受けました。その後、関東で発生した上杉禅秀の乱の鎮圧や、鎌倉公方足利持氏と対立した勢力の救援など、幕府の命を受けて各地を転戦しました。特に、関東足利氏に対する抑え役としての活躍は目覚ましく、4代将軍足利義持からの信頼も厚く、応永32年（1425年）には信濃守護職に任命されました。この任命は、元々信濃の国人たちが幕府の直轄支配を望んでいたものの、彼らの自立志向が強く幕府の命令に従わなかったため、守護による軍事指揮権の再構築が必要とされたことが背景にあります。

正長元年（1428年）には、正長の土一揆の鎮圧のため上洛し、一揆勢の鎮圧に尽力しました。また、足利持氏が越後守護代の長尾邦景を寝返らせようとした際には、政康が急遽帰国し、越後出陣に備えるなど、その軍事的な手腕を発揮しました。永享4年（1432年）には、6代将軍足利義教の弓馬師範に推挙され、その武芸の腕前も高く評価されました。永享8年（1436年）には、持氏と通じた村上頼清や芦田氏を討伐し、義教から感状を授与されています。村上氏は、永享9年（1437年）に幕府に降伏し、小笠原氏による信濃支配は一応の達成を見ました。

政康は、信濃の支配権確立にも取り組み、広沢寺や筑摩神社を開基するなど、文化的な側面にも貢献しました。また、甲斐の武田信元の帰還を支援し、守護代として跡部氏を派遣するなど、甲斐の情勢にも関与していました。永享10年（1438年）の永享の乱では、上野国に出陣し、持氏方の軍勢を破っています。永享12年（1440年）の結城合戦にも信濃武士を率いて参戦しており、その名が記録に残っています。

嘉吉2年（1442年）、政康は小県郡海野で67歳で死去しました。跡を継いだのは長男の宗康でしたが、正式な譲状が作成されていなかったため、後継を巡る争いの火種となりました。嘉吉の乱で義教が暗殺された後、畠山持国が台頭し、政康の甥である持長が持国の支持を背景に相続を主張、小笠原氏は内紛状態に陥り、信濃の支配に動揺をもたらしました。これにより、漆田原の戦いが勃発するなど、小笠原氏は混乱期を迎えることになります。

政康の死後、小笠原氏の家督争いは激化しましたが、彼の信濃における統治基盤の確立と、室町幕府における貢献は、歴史に深く刻まれています。

参考文献

秋山正典「応永～永享期の関東における信濃小笠原氏の動向とその役割」（『群馬歴史民俗』26号、2005年）
花岡康隆 編著『シリーズ・中世関東武士の研究 第一八巻 信濃小笠原氏』戒光祥出版、2016年。
今井尭「小笠原系図」『日本史総覧』 3（中世 2）、新人物往来社、1984年。
『東筑摩郡・松本市・塩尻市誌 歴史編上巻』1973年。
長野県編『長野県史 通史編 第3巻 中世2』長野県、1987年。
古川貞雄・福島正樹・井原今朝男・青木歳幸・小平千文『県史20 長野県の歴史』山川出版社、1997年。
湯本軍一「守護小笠原氏の分国支配」（『信濃』24巻6号、1972年）

関連項目

信濃三沢寺

もう一度検索