左思

左思について

左思（さ し、生没年不詳、一説に252年 - 307年頃）は、中国の西晋時代に活躍した著名な文学者です。彼の字は太沖であり、青州の斉国臨淄県に生まれました。寒門の出身で、門閥に頼らない生活を送ったため、官職はあまり恵まれたものではありませんでしたが、卓越した文才を持ち、多くの影響を与えました。特に彼の代表作である「三都賦」は、後に「洛陽紙貴」ということわざの由来にもなり、文学界での地位を確立する要因となりました。

左思は、父に左熹、妻に翟氏、息子に左髦と左聡奇、娘に左芳と左媛がいます。また、妹の左棻も詩文の才能を持ち、後に西晋の武帝司馬炎の妃となりました。幼少期は儒学を家学として学びましたが、若い頃から鍾繇や胡昭の書法や音楽に関心を抱いていたものの、なかなか身に付けられませんでした。この頃、左思の父は「この子の理解力は私の若い頃には及ばない」と友人に話すことで、左思は勉強に対する意欲を持つようになりました。その後、陰陽術にも秀でた知識を持つようになり、文筆の才能を開花させていきました。

文学活動の始まり

左思は「斉都賦」を一年かけて制作したのち、魏呉蜀の三国の首都を題材にした「三都賦」の執筆に取りかかります。泰始8年（272年）に妹の左棻が西晋の武帝司馬炎の後宮に入ったことを契機に、彼は洛陽に居を移しました。ここで左思は、著作郎の張載に益州に関する取材を依頼し、詩を思いつくと、家の門や庭、トイレに紙を吊るして随時メモを取り続けました。こうした努力を通じて、彼は自身の知識不足を痛感し、秘書郎への転属も求めるなど、構想を深めていきました。

この作品の完成には実に10年の歳月がかかりましたが、初めて世に出た際には辛辣な批判の声が寄せられました。しかし、当時の文壇の巨星・張華に見せたところ、彼は「三都賦」を班固の「両都賦」や張衡の「二京賦」に匹敵する名作だと称賛しました。そして無名の左思が名士の助けを借りることをすすめました。左思は名士の皇甫謐に序文を書いてもらい、これにより「三都賦」の名声は一気に高まり、かつての批判者たちも手のひらを返して誉め称えるようになったのです。こうして「三都賦」は人気を博し、洛陽で紙の価格が急騰したエピソードは、後に「洛陽の紙価を高からしむ」の故事として語り継がれました。

同時代の文学者との交流

同時代の文人である陸機も「三都賦」の制作を目指していました。陸機は上京してから左思の名声を耳にし、弟の陸雲にあてた手紙で「田舎者の『三都賦』が完成したら、それを酒瓶の覆いにするのがよかろう」と、まるで左思を軽んじていたのです。しかし、完成後の左思の作品を見て、その出来栄えに驚き、自身の創作を断念したといいます。

左思は後に司空の張華から祭酒に任命され、その後、権臣の賈謐の招きに応じて『漢書』の講義を行い、文学集団「二十四友」の一員として活動しました。しかし、300年には八王の乱により賈謐が誅殺され、彼は官職を辞し、隠居生活に入って典籍に専念しました。また、斉王司馬冏から記室に招かれましたが、病を理由にその職には就かなかったのです。

303年、河間王司馬顒の将軍張方が洛陽で暴行を働くと、左思は家族を連れて冀州へ避難します。数年後、彼は病によりこの世を去りました。文学における彼の貢献は後世に大きな影響を与え、「三都賦」などが評価されています。

残された作品

左思の著作は、『隋書』経籍志によれば文集2巻が存在していたとされていますが、現在は散逸してしまったため詳細は不明です。伝わる作品には「三都賦」のほか、貴族社会への批判を込めた「詠史詩」や「招隠詩」、娘の様子を描写した「嬌女詩」などがあります。鍾嶸の『詩品』では彼の作品は最上位の上品に列挙され、劉楨の詩風を受け継ぎ、諷諭の精神を体現したとして高く評価されています。

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