岩村遠山氏

岩村遠山氏とは

岩村遠山氏（いわむらとおやまし）は、利仁流加藤氏の一門で、遠山氏の宗家にあたります。その始まりは、遠山景朝の子である遠山景員（六郎）を祖とします。美濃国恵那郡の岩村城を本拠地とし、鎌倉時代初期から戦国時代末期までその歴史を刻みました。一時は断絶したものの、永正年間に明知遠山氏の遠山頼景が岩村城に入り、再びその血脈を繋ぎました。

歴史

鎌倉時代から南北朝時代

鎌倉時代初期、遠山氏は有力御家人として、美濃源氏である土岐氏と並び立つ勢力でした。しかし、南北朝時代に入ると、土岐頼遠が美濃国の守護職を得て台頭し、遠山氏はその勢力下に入ることになります。遠山氏もまた、武家勢力の一翼を担い各地を転戦。また、隣国飛騨の国司である姉小路家と争うこともありました。

『太平記』や『遠山家譜』によると、岩村城主の遠山加藤光直の弟で苗木城主であった遠山五郎景直が、土岐頼遠との領土争いで敗れ、宮方の新田義貞軍に加わったとされています。この頃から、遠山氏は土岐氏との関係において苦難の道を歩むこととなります。

室町時代

足利尊氏に従い各地を転戦した明知遠山氏の景房（景重の玄孫）は、その武功により郡上郡市島郷の地頭職を与えられました。さらに、その子の頼景は、元中7年（1390年）に岩村遠山氏の持景の養子となり、遠山氏の惣領として遠山荘の地頭職を安堵されました。これにより、一時断絶していた岩村遠山氏の家系が再び繋がることになりました。

戦国時代

戦国時代に入ると、岩村遠山氏は激動の時代に巻き込まれます。応仁の乱（1467年）では、美濃守護の土岐成頼が西軍に与したため、守護代格の斎藤妙椿が留守を守っていました。文明5年（1473年）には、斎藤妙椿が伊勢遠征に出た隙をついて、東軍の小笠原家長と木曽家豊が東濃に侵攻し、遠山氏は大井城や苅安城を占領されるなど苦戦を強いられます。

岩村遠山氏の遠山景広は、大和守と称して岩村城を改修し、領地を守り抜きました。また、長享・延徳の乱（1487年、1491年）では、足利義尚方として土岐政房と共に各地を転戦しました。しかし、長享2年（1488年）の記録によると、遠山氏の中では、苗木遠山氏や明知遠山氏の後塵を拝していたとされています。

その理由は、岩村城からほど近い飯羽間村を飯羽間遠山氏に、阿木村を安木遠山氏に分家したため領地が分散してしまったことが要因です。永正5年（1508年）には、明知遠山氏から岩村遠山氏を嗣いだ遠山頼景が岩村城内八幡宮に棟札を奉納しています。

永正5年（1508年）には、遠山景前が松平長親に加勢したという記録がありますが、これは遠山頼景のことであろうと推測されています。天文3年（1534年）には、小笠原貞忠が甲斐へ逃亡したことで、遠山景前は旧領を取り戻し、岩村遠山氏の菩提寺である大圓寺を再興しました。天文7年（1538年）には、武並神社に梵鐘を寄進しています。

天文21年（1552年）には、景前の次男である遠山直廉が苗木遠山氏の養子となり、阿寺城を築いて入城。後に苗木城主となり、恵那郡北部と加茂郡東部を統治しました。

武田氏と織田氏の狭間で

天文23年（1554年）、武田信玄が南信濃を制圧すると、岩村遠山氏と苗木遠山氏は武田氏に臣従しました。しかし、弘治2年（1556年）に当主の遠山景前が死去すると、後を継いだ遠山景任は、織田信長からおつやの方を妻として迎え入れましたが、引き続き武田氏にも組していたと見られています。

当時の遠山氏の領地は、東は武田氏、南は今川氏（後に徳川氏）、西は織田氏に囲まれており、岩村遠山氏とその一族は、織田氏からも傘下に入るように圧力をかけられていました。そのため、遠山氏は武田派と織田・徳川派に分かれて対立することとなります。

永禄元年（1558年）には、岩村遠山氏の軍勢が奥三河に侵入し、奥平氏と戦います。元亀元年（1570年）には、武田勢が徳川氏を攻めるために恵那郡に侵入し、明知遠山氏らが徳川氏の援軍と共に迎え撃ちましたが敗北しました（上村合戦）。この戦いには岩村遠山氏は参戦していません。

滅亡

元亀3年（1572年）8月、岩村遠山氏の当主で岩村城主の遠山景任が病死。後継者がいなかったため、織田信長は五男の御坊丸（織田勝長）を養子に据えましたが、御坊丸は幼少であったため、実際の城主は信長の叔母であるおつやの方が務めました。

天正元年（1573年）、武田方の秋山虎繁に岩村城を包囲されたおつやの方は、虎繁の妻となることを条件に降伏し、御坊丸を武田方に引き渡しました。しかし、その半月後には、武田信玄家臣の秋山虎繁が遠山氏の菩提寺である大圓寺を焼討しました。

天正3年（1575年）の長篠の戦いで武田勝頼が敗れると、東美濃での形勢は逆転し、信長の命を受けた織田信忠らが反攻に転じ、岩村城を包囲しました。同年11月、岩村城は降伏し、おつやの方と秋山虎繁は岐阜へ連行されて処刑されました。これにより、岩村遠山氏は滅亡し、遠山七頭（七遠山）は苗木遠山氏、明知遠山氏、串原遠山氏の三系統を残すのみとなりました。

年表

文治元年（1185年）：源頼朝が加藤景廉に遠山荘を与え、遠山氏の始まりとなる
承久3年（1221年）：遠山景朝が承久の乱で北条泰時に従い、朝廷方の一条信能を斬首
建武2年（1335年）：遠山三郎が明覚山大圓寺を建立
建武4年（1337年）：金ヶ崎城の戦いに「美濃霧城遠山三郎」の名が見られる
明徳元年（1390年）：遠山景房の子である遠山頼景が地頭職となる
永正年間：明知遠山氏の遠山頼景が岩村城に入り、岩村遠山氏が復活
永正5年（1508年）：遠山頼景が岩村城内八幡宮に棟札を奉納
天文3年（1534年）：遠山景前が旧領を回復し、大圓寺を再興
天文7年（1538年）：遠山景前が武並神社に梵鐘を寄進
天文21年（1552年）：遠山直廉が苗木遠山氏の養子となる
天文23年（1554年）：岩村遠山氏が武田氏に臣従
弘治2年（1556年）：遠山景前が死去し、遠山景任が後を継ぐ
元亀元年（1570年）：上村合戦が勃発。岩村遠山氏は不参戦。
元亀3年（1572年）：遠山景任が病死し、織田信長が岩村城を占拠
天正元年（1573年）：おつやの方が秋山虎繁に降伏し、岩村遠山氏が再び武田氏に臣従
天正3年（1575年）：岩村城が陥落し、岩村遠山氏が滅亡

菩提寺

明覚山大圓寺

系譜

景資から持景までの系譜は諸説あり、正確な家系の連続は不明です。特に、菩提寺であった大圓寺が焼討された際に記録が失われたため、詳細な系譜は不明なままとなっています。

脚注

参考文献

加藤護一 編「国立国会図書館デジタルコレクション 第六篇　戦国時代（近古後期の二）」『恵那郡史』恵那郡教育会、1926年。
横山住雄『武田信玄と快川和尚』戎光祥出版〈中世武士選書〉、2011年。
岩村町史　八、遠山氏の繁衍　p90～p92

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