幣原坦

幣原坦：東洋史学者、教育行政官としての生涯

幣原坦（しではら たいら、1870年10月12日 - 1953年6月29日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の東洋史学者、教育行政官です。幼名は徳治郎といい、「坦」の字は「たん」とも読まれます。彼は、朝鮮史を専門とする歴史家であると同時に、戦前の日本における統治行政と教育を推進した官僚、教育者としても知られています。

生い立ちと教育

幣原坦は、大阪府北河内郡門真村（現在の大阪府門真市）の旧家、幣原家の長男として誕生しました。父の新治郎は市川家から幣原家の婿養子に入っています。次弟には、後に外交官・政治家として活躍する幣原喜重郎がいます。

1882年、泊園書院（現在の関西大学）で漢学を学んだ後、1893年に東京帝国大学文科大学国史学科を卒業しました。その後、鹿児島高等中学造士館教授、山梨県尋常中学校長、東京高等師範学校教授、韓国学部学政参与官、文部省視学官、東京帝国大学教授などの要職を歴任し、1913年には広島高等師範学校長に就任しました。また、文部省図書局長も務めています。

教育制度研究と台北帝国大学創設

1910年には欧米諸国を訪問し、教育制度を研究しました。この経験を通じて西洋教育への理解を深め、後の台北帝国大学の設立に大きな影響を与えました。1923年には「台湾の学術の価値」という学術論文を発表し、1924年には再び欧米で文化史の研究を行いました。

親友であった伊澤多喜男の誘いを受け、台湾に渡り、台北帝国大学の創設に尽力。1928年には同大学の初代総長に就任しました。彼の目標の一つは、台北帝国大学を総合大学として確立することであり、少なくとも3つの学部を持つことを目指しました。

戦時期と晩年

太平洋戦争勃発後の1942年には、興南錬成院（大東亜錬成院）の初代院長に就任しました。敗戦後の1946年には枢密顧問官に就任しましたが、1953年6月29日に大阪で病没。享年82歳でした。墓所は門真市御堂町の願得寺にあり、法名は従容院釈信誓です。

親族

妻のタエは、化学者である熊沢善庵の長女です。熊沢は、奈良県郡山町の御典医の家系で、蘭学を修め、明治4年に北白川宮能久親王に随行してドイツに留学した後、東京薬学校教授や大阪セメント技師長などを務めました。次女の澄江は、農芸化学者の古在由直の長男である由正と結婚。この夫妻の長男が天文学者の古在由秀であり、幣原坦の孫にあたります。

次弟の喜重郎の妻・雅子は、三菱財閥の創始者である岩崎弥太郎の四女であり、幣原家は古在家、三菱の創業者一族・岩崎家と姻戚関係にあります。また、喜重郎・雅子夫妻の長男で、幣原坦の甥にあたる道太郎は、獨協大学教授を務めた国文学者です。

弁護士であり、第二東京弁護士会元副会長の幣原廣は、幣原坦の長男・顕の子であり、孫にあたります。彼は弁護士会の委員会活動に非常に積極的で、「多重会務者」とも呼ばれています。

栄典

幣原坦は、その功績により多くの位階と勲章を授与されています。

位階
1893年（明治26年）10月10日 - 正八位
1896年（明治29年）1月20日 - 従七位
1901年（明治34年）3月11日 - 正七位
1908年（明治41年）3月30日 - 従六位
1910年（明治43年）5月21日 - 正六位
1912年（明治45年）7月10日 - 従五位
1914年（大正3年）9月10日 - 正五位
1919年（大正8年）10月20日 - 従四位
1926年（大正15年）7月2日 - 正四位
1933年（昭和8年）4月15日 - 従三位
1944年（昭和19年）4月28日 - 正三位

勲章等
1913年（大正2年）6月18日 - 勲六等瑞宝章
1913年（大正2年）8月1日 - 韓国併合記念章
1915年（大正4年）1月30日 - 勲五等瑞宝章
1915年（大正4年）11月10日 - 大礼記念章（大正）
1916年（大正5年）4月28日 - 勲四等瑞宝章
1920年（大正9年）4月23日 - 勲三等瑞宝章
1931年（昭和6年）1月21日 - 勲二等瑞宝章
1939年（昭和14年）5月1日 - 勲一等瑞宝章

外国勲章佩用允許
1907年（明治40年）6月13日 - 大韓帝国：勲三等太極章

著作

幣原坦は、教育や朝鮮史に関する多くの著作を著しました。

『女子教育』 (1898年)
『南島沿革史論』 (1898年)
『教育漫筆』 (1902年)
『日露間之韓国』 (1905年)
『韓国政争志』 (1907年)
『学校論』 (1909年)
『世界小観』 (1912年)
『殖民地教育』 (1912年)
『日韓関係よりの対州研究』 (1913年)
『満洲観』 (1916年)
『少青年の犯罪防遏政策に就いて』 (1917年)
『朝鮮教育論』 (1919年)
『朝鮮史話』 (1924年)
『世界の変遷を見る』 (1926年)
『南方文化の建設へ』 (1938年)
『興亜の修養』 (1941年)
『国史上南洋発展の一面』 (1941年)
『大東亜の成育』 (1941年)
『極東文化の交流』 (1949年)
『文化の建設 : 幣原坦六十年回想記』 (1953年)

幣原坦は、教育者、官僚、研究者として、日本の近代化に大きく貢献した人物でした。

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