広九直通列車

広九直通列車：香港と広州を結んだ歴史と軌跡

広九直通列車、または港穂直通車は、香港の九龍紅磡駅と中国広州市の広州東駅を結んでいた優等列車です。香港内ではMTR東鉄線を経由し、中国本土では広深線を通って運行されていました。かつては広州駅から広茂線を経由して肇慶駅まで直通する便も存在しましたが、2024年7月31日にその歴史に幕を閉じました。

運行の歴史

初期の運行

1907年、イギリス植民地時代の香港と広州を結ぶ九広鉄路の建設が始まりました。1910年に香港区間（東鉄線）、1911年には中国区間（広深線）が開通し、直通運転が開始されました。当初は港穂直通車と呼ばれ、広州市内の大沙頭駅から九龍駅まで、178.55kmの距離を結んでいました。

運行開始当初は1日2往復で、所要時間は優等列車で約2時間55分、普通列車で7時間でした。座席はファーストクラスとセカンドクラスに分かれており、豪華な食堂車や展望車を備えた特別列車も運行されていました。

しかし、日中戦争が勃発すると九広鉄路は破壊され、運行は縮小。第二次世界大戦中は完全に停止しました。

運行再開と変遷

1945年、終戦とともに運行は再開されましたが、1949年に中華人民共和国が成立すると再び停止しました。その後、長年の交渉を経て1979年に運行が再開され、広州駅で記念式典が行われました。当時は1日1往復で、東風3型ディーゼル機関車が牽引する13両編成の列車が運行していました。1979年当時の片道切符の値段は53.5香港ドルまたは16人民元でした。

その後、需要の増加に伴い増便が重ねられ、1986年には1日4往復となりました。春節時期には更に増発され、1列車あたりの輸送人数も増加しました。1984年には、乗務員の香港での宿泊施設として専用アパートが建設されるなど、サービス体制も強化されました。1979年から1980年末までに、25の国と地域の首脳や外交関係者が広九直通列車を利用しました。

1993年には仏山直通列車が運行を開始し、後に肇慶まで延伸。1994年の広深線准高速化工事完了により、所要時間が短縮されました。1996年には広州側の終点が広州東駅に変更され、1997年の香港返還時には1日6往復、年間7148万人を輸送しました。1998年には新時速車体傾斜式車両が導入され、所要時間は最短で90分となりました。Ktt列車も導入され、サービスが向上しました。

サービスと課題

2001年には週末限定の「假日直通車」が運行を開始し、2003年にはCEPAの実施に伴い増便されました。2008年には香港MTRがダイヤ改正を行い、最高速度が引き下げられました。2012年には、老朽化した25Z系客車が新型の25T系客車に置き換えられましたが、路線の構造上の問題から最高速度は140km/hのままでした。2013年には年間430万人の旅客を輸送しました。2018年の広深港高速鉄道の開通により利用客が減少し、肇慶発着系統の廃止、一部減便が行われました。

2020年には新型コロナウイルスの影響で運行が一時停止。2024年7月31日、広深港高速鉄道の利用にシフトすることになり、100年以上続いた広九直通列車は正式に廃止されました。

使用された車両

牽引機と客車

広九直通列車では、様々な牽引機と客車が使用されてきました。初期にはディーゼル機関車が使用され、その後、電化に伴い電気機関車が導入されました。客車は、中国国鉄の25T系客車や香港MTRのKtt列車などが使用されました。Ktt列車は、スイス製の電気機関車と近畿車輛製の2階建て客車で構成され、特等車にはアテンダントによるサービスがありました。

導入が検討された車両

広九直通列車の電車化も検討されていましたが、香港側の路線条件（大学駅構内の急カーブ）などから実現しませんでした。中国高速鉄道のCRH1型電車やCRH5型電車の導入が検討されましたが、車両のサイズや運行実績の問題から見送られました。

その他の情報

切符の購入と運賃

切符は、出発30日前から20分前まで窓口で購入できました。電話やインターネットでも購入可能でしたが、手数料が必要でした。運賃は時期やクラスによって異なり、小児運賃の設定もありました。

汚物処理問題

初期の広九直通列車では、汚物が線路に直接排出されていました。これは香港東鉄線の利用客増加とともに問題となり、香港区間でのトイレ使用が一時禁止されました。その後、汚物タンク付きの車両が導入され、この問題は解消されました。

結び

広九直通列車は、香港と広州を結ぶ重要な交通手段として、長年にわたり多くの人々に利用されてきました。その歴史は、両地域の発展とともにあり、多くの人々の記憶に残る存在です。廃止はされましたが、その役割は広深港高速鉄道に引き継がれ、両都市間の人々の移動は今も続いています。

参考文献
阿部真之、岡田健太郎 (2011). 『中国鉄道大全 中国鉄道10万km徹底ガイド』, 旅行人.
中国铁路总公司运输局 (2013). 『2013.07 全国铁路旅客列车时刻表』, 中国铁道出版社.

関連項目
香港MTR
九広鉄路
京九直通列車
滬九直通列車
* 広深港高速鉄道

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