彭孟緝

彭孟緝（ほう もうしゅう）

彭孟緝（1908年9月12日 - 1997年12月19日）は、中華民国の軍人です。最終階級は陸軍一級上将で、字は明熙です。黄埔軍官学校砲兵科を卒業後、中華民国国軍の要職を歴任しました。また、駐日中華民国大使も務めました。

生涯

前半生

彭孟緝は、1908年に大清帝国湖北省武昌府で生まれました。漢陽の漢陽文徳書院、次いで広州の国立広東大学文学院を卒業後、黄埔軍官学校に入学し、1926年に卒業しました。その後、蔣介石率いる国民革命軍に参加し、東征や北伐に従軍しました。さらに、日本に留学し、帝国陸軍野戦砲兵学校を卒業しました。
帰国後は、第1砲兵旅団大隊長を務めると同時に、陸軍砲兵学校の主任教官も担当しました。日中戦争では、第二次上海事変や長沙会戦に参戦し、1945年には陸軍中将に昇進しました。

台湾派遣

第二次世界大戦後、台湾が中華民国に接収されると、彭孟緝は1946年に高雄要塞司令官として台湾に派遣されました。1947年に二・二八事件が発生すると、彭孟緝は高雄要塞司令として武力鎮圧を行い、その後の台湾全省警備総司令への昇進につながりました。その後も、台湾省保安副司令、台北衛戍司令、参謀総長など、数々の要職を歴任しました。

1949年に大規模な学生運動が発生すると、彭孟緝は首謀者の拘束を命じられました。同年には台湾省政府委員に任命され、副司令を兼任しました。中華民国政府が台湾に移転した後は、革命実践研究院軍官訓練団の主任に任命され、後には陽明山革命実践研究院の主任も務めました。

1954年に陸軍副参謀総長へ昇進し、同年8月に参謀総長に任命されました。1957年には陸軍総司令と台湾防衛司令部総司令を兼任し、1959年に陸軍一級上将へ昇進、参謀総長に再任されました。1963年には任期延長が命じられ、1965年には総統府参軍長に任命されました。

1967年に駐タイ中華民国大使としてタイへ派遣され、1969年には駐日中華民国大使として日本へ派遣されました。1972年、日本と中華民国が断交したため、彭孟緝が最後の中華民国大使となりました。

帰国後は総統府戦略顧問に就任し、晩年は台北で過ごし、1997年に亡くなりました。

二・二八事件

二・二八事件発生時、彭孟緝は高雄要塞司令を務めていました。当時、台北から始まった動乱は高雄にも波及し、暴徒による襲撃や略奪が横行しました。彭孟緝は、高雄市内の外省籍公務員を要塞に避難させ、逃げ遅れた人々は学校に閉じ込めました。

事態を重く見た台湾省行政長官公署長官の陳儀は、彭孟緝を台湾南部防衛司令に任命し、南部全軍の指揮権を与えました。彭孟緝は、群衆が要塞司令部を攻撃し、病院を包囲したと述べています。さらに、ガソリンを染み込ませた藁紐を用いて山に火を放つという噂が広まったため、要塞司令部は軍隊を派遣して山下町一帯を封鎖しました。

高雄市長の黄仲図らが彭孟緝との面会を求めたものの、当初は拒否されました。その後、彭孟緝は黄市長ら代表者と面会しましたが、「和平條款」は拒否され、代表者たちは拘束されました。彭孟緝は、高雄市政府への攻撃と武力鎮圧を開始し、この事件で多くの民間人が犠牲となりました。特に、拘束された代表者は処刑され、一連の事件で多くの人々が命を落としました。

評価

彭孟緝は、高雄要塞司令時代から二・二八事件での強硬な対応に加え、澎湖七・一三事件や台湾省立師範学院四六事件などでも武力鎮圧を行いました。この結果、数千人以上の死傷者を出したことから「高雄屠夫（高雄の殺戮者）」とあだ名されました。

彭孟緝は、蔣介石との関係が深く、蔣介石が困難な時期には、献身的に尽くしたとされています。また、蔣経国の後ろ盾を得て、陳誠の支援も受けて、より早い出世を果たしました。江南は、彭孟緝を「獐頭鼠目（醜くずるい顔つき）」と評しましたが、彭孟緝は情報機関を掌握し、多くの事件に関与したとも言われています。

論争

彭孟緝の息子である彭蔭剛は、父の評価を覆そうとしましたが、その目的は「外省人の誤解の解消と、中国統一の促進」にあり、二・二八事件での父の行動を正当化することでした。しかし、この試みは二・二八事件の犠牲者遺族からの強い反発を招きました。また、彭孟緝が死後、忠烈祠に祀られることへの批判もありますが、実際には彭孟緝は忠烈祠に祀られていません。

家族

彭孟緝の息子である彭蔭剛は、台湾中国航運董事長を務めており、海峡交流基金会董事も務めています。彭蔭剛の妻は、「中国船王」と称された董浩雲の娘であり、香港特別行政区行政長官の董建華の妹です。もう一人の息子である彭蔭宣は建築士として活躍しました。

まとめ

彭孟緝は、中華民国軍の要職を歴任した人物であり、二・二八事件では強硬な武力鎮圧を行ったことで知られています。その功績と批判、そして複雑な人間関係が彼の生涯を彩っています。

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