御穂神社

御穂神社について

御穂神社（みほじんじゃ）は、静岡県静岡市清水区三保に位置する神社です。古くは式内社、駿河国三宮として知られ、現在は県社となっています。特に、三保松原の「羽衣の松」と深い関わりを持つ神社として有名です。

神社の特徴

「みほ」の表記には、「御穂」「御廬」「三穂」「三保」など複数の漢字が用いられます。この神社は、三保松原の一部として、世界文化遺産「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」の構成資産にも登録されています。

祭神

御穂神社の祭神は以下の二柱です。

大己貴命（おおあなむちのみこと）: 大国主としても知られ、「三穂津彦命（みほつひこのみこと）」とも呼ばれます。
三穂津姫命（みほつひめのみこと）

『延喜式』神名帳では祭神は一柱とされていますが、『駿河雑志』では「御穂津彦」と「御穂津姫」の二柱と記されています。

歴史

創建

神社の創建時期ははっきりとは分かっていません。『駿河雑志』には、日本武尊が勅命により社領を寄進したという説や、出雲国の御穂埼（現在の島根県松江市美保関町）から遷座した神であるという説が記されていますが、いずれも確証はありません。

三保松原にある「羽衣の松」から御穂神社社頭まで続く松並木は、「神の道」と呼ばれ、羽衣の松を依り代として降臨した神が御穂神社に至る道とされています。現在でも筒粥神事では、海岸で神を迎える儀式が行われ、その際に神が宿ったひもろぎが松並木を通って境内に運ばれます。これらのことから、御穂神社の祭祀は、海の彼方の「常世国」から神を迎える常世信仰に基づいていると考えられています。

概史

国史には、御穂神社は「御廬神」として記録されており、貞観7年（865年）に従五位下から従五位上へ、さらに元慶3年（879年）に正五位下へと神階が昇叙されたとあります。

延長5年（927年）に成立した『延喜式』神名帳には、駿河国廬原郡（庵原郡）に「御穂神社」として記載されており、式内社に列せられています。

寛文年間（1661年-1673年）頃に成立したとされる偽書『駿河国風土記』には、「日本武尊が勅により官幣を奉じ、社領を寄進し、駿河国三宮とした」と記述されています。この記述から、御穂神社は駿河国において、富士山本宮浅間大社（一宮）、豊積神社（二宮）に次ぐ三宮の地位にあったと推測されますが、同書における根拠は不明です。

中世の史料としては、文保3年（1319年）の飯室乃神社蔵の鰐口に「三保大明神」と刻まれており、神主の息長氏女から寄進されたとあります。また、応安3年（1370年）には、神木の伐採禁止と違反者捜索が伊達景宗に命じられており、弘治3年（1557年）には山科言継が今川義元の勧めで当社に参詣しています。

近世に入ると、徳川家康から朱印地として三保・折戸・別符の3カ村から106石が与えられ、社殿が整備されました。しかし、寛文8年（1668年）に火災で焼失してしまいます。

明治維新後、明治6年（1873年）に郷社となり、明治31年（1898年）には県社に昇格しました。

神階

六国史時代における神階奉叙の記録

貞観7年（865年）12月21日：従五位下から従五位上（『日本三代実録』） - 表記は「御盧神」。
元慶3年（879年）4月5日：従五位上から正五位下（『日本三代実録』） - 表記は「御盧神」。

六国史以後

従二位（『駿河国神名帳』） - 表記は「三保明神」。

境内

社殿は、徳川家康によって整備されましたが、寛文8年（1668年）に火災で焼失。その後、江戸時代中期に仮宮として建てられたものが現在まで残っています。現在の本殿は入母屋造で、静岡市指定文化財に指定されています。

社頭からは、樹齢300年から400年ほどの松並木が約520メートル続き、この松並木が途切れる場所に「羽衣の松」が立っています。羽衣の松は枯死により代替わりを繰り返していますが、最初の松は並木道の延長線上にあったと考えられています。

摂末社

境内には、以下のような摂末社があります。

子安神社: 祭神は須佐之男命、稲田姫命。
舞殿東の5社:
呉服之神社：祭神は長白羽命
稲荷神社：祭神は宇迦之御魂神、大宮姫神、太田命
胡夫大夫神社：祭神は事代主命
磯前神社：祭神は少彦名神
産霊神社：祭神は高皇産霊命、神皇産霊命
本殿西の3社:
八幡神社：祭神は応神天皇
八雲神社：祭神は須佐之男命
神明社：祭神は天照大神
羽車神社: 羽衣の松に鎮座。

祭事

例祭

毎年11月1日に行われる、年間で最も重要な祭事です。湯立の神事や、舞殿での巫女舞「羽衣の舞」が奉納されます。羽衣の舞は秋の祭でも奉納されます。

筒粥祭

「つつかゆさい」とも呼ばれ、2月14日夜から15日にかけて行われる豊作祈願の祭です。まず拝殿前に大釜を据えて粥を煮る準備をします。夜半には海岸で神迎えの儀式を行い、神が宿ったひもろぎを松並木を通って境内に運びます。その後、大釜で煮た粥に竹筒を入れ、筒の中に入った粥の量でその年の作柄を占います。

文化財

重要文化財（国指定）

太刀無銘（附糸巻太刀拵）: 鎌倉時代の作で、鎬造、刃長95.2センチメートル、反り4.2センチメートル。1921年（大正10年）4月30日指定。

静岡市指定文化財

本殿（附棟札2枚、狛犬1対）: 1996年（平成8年）2月23日指定。
御簾 2張: 1988年（昭和63年）11月21日指定。

その他

羽衣の裂: 羽衣伝説に登場する羽衣の一部と伝えられる裂で、1200年以上前のものと推測されています。
羽衣の笛: 羽衣の舞の際に使われる笛。
三保古絵図
三保社記

現地情報

所在地: 静岡県静岡市清水区三保1073
交通アクセス:
JR東海道本線清水駅、静岡鉄道静岡清水線新清水駅からバスで「三保松原入口」下車、徒歩約5分。

参考文献

神社由緒書
境内説明板
明治神社誌料編纂所編「御穂神社」『府県郷社明治神社誌料』明治神社誌料編纂所、1912年。
野本寛一著「御穂神社」、谷川健一編『日本の神々 -神社と聖地- 10 東海』白水社、1987年。
「御穂神社」『日本歴史地名大系 22 静岡県の地名』平凡社、2000年。
中世諸国一宮制研究会編『中世諸国一宮制の基礎的研究』岩田書院、2000年。