恋をするなら (ビートルズの曲)

恋をするなら

「恋をするなら」（原題: If I Needed Someone）は、世界的に有名なイギリスのロックバンド、ビートルズによって1965年に発表された楽曲です。この曲はギタリストのジョージ・ハリスンによって書かれました。

イギリス本国では、1965年12月3日にリリースされた彼らの6作目のオリジナルアルバム『ラバー・ソウル』に収録され、アルバムのB面6曲目として配されました。一方、アメリカでは当時のキャピトル・レコードの慣習により内容が変更され、『ラバー・ソウル』には収録されず、翌1966年6月に発売された独自の編集盤『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』に収録されています。

楽曲の特徴と背景

この楽曲は、ハリスンが当時交際しており、後に妻となるパティ・ボイドへの愛情を込めて書かれたラブソングです。音楽的には、当時のフォークロックシーンを牽引していたアメリカのバンド、バーズからの影響が顕著に見られます。特に、バーズの楽曲「リムニーのベル」のギターリフや、「シー・ドント・ケア・アバウト・タイム」のドラムパターンが本作に取り入れられています。

ハリスン自身は、この曲のギターパートについて、標準的なDコードのポジションから少し指を動かすだけで生まれるフレーズだと語っています。リッケンバッカー・360/12|リッケンバッカー・360_12弦ギターによって演奏される輝かしいアルペジオが特徴的です。また、フォークロックを基調としつつも、この時期にハリスンが傾倒し始めていたインドの伝統音楽の片鱗が感じられる部分もあります。

本作では、ジョン・レノンとポール・マッカートニーが参加した3声のハーモニーが重要な要素となっています。マッカートニーが高音パート、レノンが低音パートを担当し、ハリスンのリードボーカルを支えています。ベースはマッカートニーがリッケンバッカー・4001Sを使用し、オスティナート（反復されるフレーズ）を多用した印象的なプレイを披露しています。リンゴ・スターはドラムに加え、タンバリンも演奏しており、曲に軽快なリズム感を与えています。文献によっては、プロデューサーのジョージ・マーティンがハーモニウムを演奏した可能性も指摘されています。

バーズからの影響は、単なる音楽的な借用にとどまりません。1965年8月、ビートルズとバーズの間で交流が始まり、ハリスンはバーズのデヴィッド・クロスビーとの会話の中でシタール奏者のラヴィ・シャンカルの名前を知ることになります。これが、ハリスンがインドの伝統音楽や思想に深く関心を持つようになるきっかけの一つとなり、後の彼の音楽キャリアに大きな影響を与えました。

レコーディング

「恋をするなら」のレコーディングは、『ラバー・ソウル』制作セッション中の1965年10月16日にロンドンのEMIレコーディング・スタジオ（現アビイ・ロード・スタジオ）で開始されました。リズムトラックはこの日に1テイクで録音されたとされています。

10月18日にはボーカルのオーバーダビングが行われ、ハリスンのリードボーカルに加えて、レノンとマッカートニーによる特徴的なハーモニーが加えられました。このセッションで、リンゴ・スターのタンバリンも追加されています。

『ラバー・ソウル』のセッションでは、録音技術の面でも様々な試みが行われました。「恋をするなら」でも、ギターのネックの中間部にカポタストを装着して演奏することで、サウンドに明るさと響きを与えています。これは、同アルバムに収録されたジョン・レノン作の「ガール」でも同様の手法が用いられています。

最終的なミックスは、10月25日にモノラル、翌26日にステレオでそれぞれ作成されました。

リリースと評価

『ラバー・ソウル』収録曲としてリリースされた「恋をするなら」は、批評家から肯定的な評価を受けました。オールミュージックのリッチー・アンターバーガーは、この曲と「嘘つき女」を「実に人々を奮い立たせる曲」と評し、『ニュー・ミュージカル・エクスプレス』誌のアレン・エヴァンスは「テンポの速いアップビーター」であり、「繰り返し聞きたくなる楽曲」だと称賛しました。ポール・マッカートニーも、この曲を「ハリスンがバンドのために初めて書いた“画期的”な曲」として高く評価しています。

この曲は、ビートルズのライブ活動においても特別な位置を占めています。1965年12月のイギリスツアー以降、セットリストに加えられ、1966年の日本武道館公演を含む当時のコンサートで演奏されました。これにより、「恋をするなら」は、1963年から1966年までのビートルズのライブ演奏において、ジョージ・ハリスンが書いた唯一の楽曲となりました。また、『ラバー・ソウル』の収録曲の中で、ビートルズ活動期間中の公式ライブで演奏されたのは、この曲と「ひとりぼっちのあいつ」のわずか2曲だけです。

ビートルズ解散後も、ハリスンはキャリアを通じてこの曲を演奏しました。1974年のラヴィ・シャンカルとのアメリカツアーや、1991年のエリック・クラプトンとの日本ツアーでも披露されています。

その後、1995年にはジュークボックス用のシングル盤「ノルウェーの森」のB面として再リリースされました。また、1976年に発売されたジョージ・ハリスンのキャリアを総括するコンピレーションアルバム『ザ・ベスト・オブ・ジョージ・ハリスン』にも収録されています。

主なカバーバージョン

「恋をするなら」は、発表当時から多くのアーティストによってカバーされています。

ホリーズ

ビートルズの『ラバー・ソウル』と同日の1965年12月3日に、ホリーズによるカバーバージョンがシングルとしてリリースされました。ホリーズはプロデューサーのジョージ・マーティンからこの曲のデモ音源を受け取ってカバーを決定しましたが、ビートルズと同じタイミングでのリリースは、メンバー間の意見の対立を生んだとも言われています。このバージョンは全英シングルチャートで最高位20位を記録し、ハリスンが作詞作曲した楽曲としては初めてチャートインした例となりました。しかし、ハリスン自身はこのホリーズのカバーを「最悪」「即席バンドのように呼吸が合っていない」と非常に低く評価しています。

ステンドグラス

1966年にデビューシングルとしてリリースされました。『ビルボード』誌は「印象的なデビュー作」「豪快で風変わりなバラード」と評しています。

ザ・キングスメン

1966年にシングル盤としてリリースされました。作家のスチュアート・シェーとロバート・ロドリゲスは、このバージョンを「ブリティッシュ・フォークに対する典型的なアメリカ人の返答」と表現しています。

ヒュー・マセケラ

1966年にシングルとして発表されています。

タイプ・オー・ネガティヴ

1999年のアルバム『ワールド・カミング・ダウン』に収録。ビートルズの他の曲とのメドレー形式でカバーされました。

エリック・クラプトン

2002年11月に開催されたジョージ・ハリスンの追悼コンサート「コンサート・フォー・ジョージ」で、盟友クラプトンによって演奏されました。

その他、クライアン・シェイムス、ロジャー・マッギン、ネリー・マッカイ、ショー・オブ・ハンズなど、様々なジャンルのアーティストがこの楽曲を取り上げています。特にネリー・マッカイのバージョンは、ラウンジ・ジャズ調のアレンジが施されています。

「恋をするなら」は、ジョージ・ハリスンの作曲家としての才能が円熟期に入りつつあった時期の重要な楽曲であり、ビートルズのサウンドの多様化を示す一例として、現在も多くの音楽ファンに愛されています。

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