悪地

悪地（あくち、バッドランド）

悪地、または悪地地形（英語: badlands）とは、結合度の低い堆積岩や粘土質の地層が、雨や風の浸食によって極度に削り取られ、峡谷のような深い谷や無数の溝が網目状に刻まれた荒れ地のことを指します。これは、地質構造が侵食作用を受けることで形成される組織地形の一つです。

広義には、地質や地形が悪く、農耕や宅地開発に適さない土地全般を指す場合もありますが、一般的には、本稿で解説するような、雨水による侵食が顕著に進んだ特定の地形を指します。片仮名で「バッドランド」と呼ばれることもあります。

名称の由来

「Badlands」という呼称は、主に北米で用いられています。その起源は、現在の米サウスダコタ州にあるバッドランズ国立公園周辺の地域を、かつて先住民のラコタ族が「マコシカ（Makhóšiča）」と呼んでいたことに由来します。この「マコシカ」は「悪い土地」という意味であり、それが英語に翻訳されて「Badland」という名称が定着しました。また、スペイン語で「悪い土地」を意味する「Malpaís」も、米国などで地名や地形名として使われており、これは後述する火山性の荒地を指すことが多いですが、概念的にはバッドランドと共通する不毛の土地を示します。

地形と景観

悪地は、主に乾燥地帯に多く見られます。植生が極めて乏しいため、時折発生する激しい雨によって地表の土が容易に流失します。泥岩など、水が地下に浸透しにくい性質を持つ土壌が多いことも、急激な表面侵食を招く要因となります。その結果、地表には無数の細かい雨裂（ガリ）や、大小さまざまな規模の急峻な峡谷、そして風変わりな形状の土柱（フードゥー）などが形成されます。平坦な場所はほとんどなく、切り立った崖や急斜面が続くため、人間を含む動物の移動や居住は非常に困難です。植物もほとんど根付かず、岩肌が剥き出しになった、文字通りの不毛の土地が広がっています。

主な分布地と特筆すべき例

世界で最も広大で特徴的な悪地が見られるのは、アメリカ合衆国とカナダです。アメリカには、その荒々しい景観から名付けられたバッドランズ国立公園をはじめ、セオドア・ルーズベルト国立公園、マコシカ州立公園、ミッドランド州立公園、ヘルズハーフエーカー、ビッグマディ悪地など、それぞれが独自の景観を誇る名だたる悪地が存在します。中でも、尖った岩峰やユニークな形の土柱が特徴的で、特にユタ州のブライスキャニオン国立公園にある、ハンマーのような形状をした巨大な土柱群は「トールハンマー」の異名を持ち、見る者を圧倒します。北米の悪地は、その不毛さとは裏腹に、垂直に露出した岩肌が化石の発掘に理想的な環境を提供しており、多くの貴重な化石が発見されています。カナダの州立恐竜公園やロイヤル・ティレル古生物学博物館のように、悪地のそばに設けられている博物館もあります。

北米以外にも、悪地は存在します。ニュージーランド北島南端のプタンギルア尖峰は、山脈に形成された急峻な悪地として知られ、その荒涼とした険しい地形は、ファンタジー映画『ロード・オブ・ザ・リング』で暗黒の地モルドールの情景の撮影にも使用されました。

台湾には泥岩でできた山地が多く、悪地も比較的豊富に見られます。特に高雄市田寮区や台東県卑南郷にある悪地は、草木が全く生えない荒々しい景観が「月世界」と形容され、観光名所として人気を集めています。

日本は、侵食に強い火成岩を基盤とする土地が多いため、大規模な悪地は発達しにくい傾向にありますが、兵庫県西宮市の六甲山麓にある蓬萊峡は、断層破砕帯に雨水が浸入して侵食が進んだことにより形成された、国内では稀有な悪地として知られます。

スペインのラス・メドゥラスは、古代ローマ時代に大規模な砂金採取のために、ローマ水道の技術を用いた水力採掘が数百年にわたって行われた結果、広大な悪地が残されました。これは、自然の浸食だけでなく人間の活動によって生み出された、いわば「人造の悪地」とも言える特殊な例です。

マルパイス（Malpaís）

「Badland」と同様に、植生が乏しい不毛の土地を指す言葉として、スペイン語の「マルパイス（Malpaís）」があります。これは、主に火山噴出物や溶岩流によって覆われた大地に対して、米国南西部に定住したスペイン人が名付けた呼称であり、現在でもそのスペイン語名が地名や地形名として使われています。これも英語に訳せば「Badland」、日本語では「悪地」となりますが、マルパイスは火山性の地形を起源とする点で、堆積岩の侵食によるバッドランドとは区別されるのが一般的です。

代表的なマルパイス地形としては、米ニューメキシコ州のエル・マルパイス国定公園、カリゾゾ・マルパイス、ホルナーダ・デル・ムエルト、カナリア諸島のマルパイス・デ・グイマルなどがあります。

もう一度検索