慕容永

慕容永（ぼよう えい）：西燕最後の皇帝、波乱の生涯

慕容永（ぼよう えい）は、五胡十六国時代の西燕の第6代にして最後の皇帝です。前燕の皇族である慕容廆（ぼよう き）の血を引きますが、その出自は必ずしも明らかではありません。

困窮からの皇帝即位

前燕が前秦によって滅ぼされると、慕容永は他の鮮卑（せんぴ）慕容部と共に長安に移り住みます。しかし、生活は困窮を極め、妻子と共に市場で靴を売って生計を立てていたと伝えられています。

384年、慕容永は慕容泓（ぼよう こう）や慕容沖（ぼよう ちゅう）らと共に前秦に対して反乱を起こし、西燕の建国に参画します。386年の政変で慕容瑤（ぼよう よう）を殺害し、慕容忠（ぼよう ちゅう）を皇帝に擁立すると、自らは太尉（たいい）、尚書令（しょうしょれい）となり、河東公（かとうこう）に封じられました。慕容永は法に寛容で、鮮卑の人々を安心させたと言われています。

聞喜（ぶんき）に至った際、慕容垂（ぼよう すい）が後燕で即位したことを知ると、進むことをためらい、燕熙城（えんきじょう）を築いて居を構えます。しかし、数ヶ月後、慕容忠が将軍の刁雲（ちょううん）によって殺害されると、慕容永は大都督（だいととく）、大将軍（だいしょうぐん）、大単于（だいぜんう）、雍秦梁涼四州牧（ようしんりょうりょうししゅうぼく）、河東王（かとうおう）として後燕に一時的に帰順し、西燕は一時滅亡します。

その後、前秦の苻丕（ふひ）らと、鮮卑の故地へ帰還する代わりに攻撃をしないよう交渉しますが、苻丕らは東進する慕容永らを攻撃します（襄陵の戦い）。しかし、慕容永はこれを打ち破り、前秦の宰相である王永（おうえい）（王猛（おうもう）の子）を討ち取ります。苻丕らが敗走する中、慕容永はその配下や皇后を捕らえました。苻丕は後に配下の馮該（ふうがい）によって殺害されます。

皇帝として

慕容永は苻丕の領地に都を定め、長子（ちょうし）を都と定め、皇帝として自立し、元号を中興（ちゅうこう）と改め、西燕を復活させました。苻丕の皇后を皇妃にしようとしましたが、刺殺されそうになり、逆に殺害しました。慕容垂の子である慕容柔（ぼよう じゅう）、慕容盛（ぼよう せい）、慕容会（ぼよう かい）が後燕の中山（ちゅうざん）へ逃亡しましたが、慕容永は慕容垂や慕容儁（ぼよう しゅん）の子孫を皆殺しにするよう命じました。

387年、後秦の姚萇（よう ちょう）と戦い、390年には東晋の洛陽（らくよう）に迫りますが、朱序（しゅじょ）に敗れて撤退します。翌年再び攻めますが、またも敗走します。392年、翟魏（てきぎ）の翟釗（てき しょう）が慕容永に援助を申し入れましたが、これを拒否しました。慕容垂が翟魏を滅ぼすと、翟釗は亡命し、王に封じられましたが、翌年慕容永を暗殺しようとしたため殺害されます。

西燕の滅亡

393年、慕容垂は慕容徳（ぼよう とく）の進言に従い、前燕の後継としての後燕の正統性を示すために、慕容永の西燕を滅ぼすことを決意します。翌394年、数ヶ月間対峙した後、三方から攻撃を開始し、本軍を長子へ進めました。慕容永は自ら軍を率いて迎え撃ちますが敗北し、長子に戻って守りを固めます。東晋や北魏（ほくぎ）に援軍を要請しますが、間もなく長子は慕容垂の手に落ち、慕容永は捕らえられて処刑されます。これにより、西燕は後燕に併合され、滅亡しました。

慕容永は、困窮から皇帝にまで上り詰めたものの、最終的には後燕によって滅ぼされた波乱万丈な生涯を送った人物です。彼の興亡は、五胡十六国時代の激しい動乱を象徴していると言えるでしょう。

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