劉淵

劉淵（りゅう えん）：前趙の初代皇帝、その生涯と人物

劉淵（りゅう えん、生年不詳 - 310年）は、五[[胡十六国時代]]の幕開けを告げた前趙（後の趙）の創始者です。彼は南匈奴の左賢王・劉豹の嫡子として生まれ、その出自は単于を輩出した屠各種攣鞮部にまで遡ります。唐代に編纂された『晋書』では、唐の高祖・李淵の諱を避けて劉元海（りゅう げんかい）と記されています。

雌伏の時：学問と武芸に秀でた青年時代

幼い頃から聡明であった劉淵は、漢人の崔遊に師事し、経史を広く学びました。武芸にも励み、並外れた能力を身につけました。当時、匈奴の諸部族は魏に服属し、并州に居住していましたが、劉淵の父・劉豹は左部帥として左部匈奴を統率していました。劉淵は、父の造反を防ぐ人質という意味合いも込めて、任子制度により洛陽の朝廷に召喚されます。司馬昭に厚遇され、魏が滅亡して西晋が興った後も洛陽に留まりました。王渾の推薦で司馬炎（武帝）と謁見し、高く評価されました。

279年、父の死後、劉淵は朝廷の命で左部帥を代行するため并州に戻ります。289年には北部都尉に任じられ、刑法を厳正に遵守し、施しを好み、誠意をもって人と交流しました。その徳を慕い、五部匈奴の豪傑や幽州・冀州の儒学者が彼のもとに集まりました。

290年、司馬炎の崩御後、外戚の楊駿が政権を握ると、劉淵は建威将軍・五部大都督に任じられ、漢光郷侯に封じられます。左賢王にも任じられ五部匈奴全体を統括する立場にまで昇り詰めましたが、300年に部族民の逃亡事件に連座して免官となります。その後、成都王・司馬穎に招聘され復職し、兵を率いて鄴に移り、行寧朔将軍・監五部軍事に任じられました。

乱に乗じる：自立への道

司馬衷（恵帝）の時代、八王の乱と呼ばれる皇族同士の内乱が勃発し、各地で反乱や略奪が横行します。304年、司馬穎が司馬乂を破り権力を掌握すると、劉淵は屯騎校尉に任じられます。司馬穎討伐を掲げた司馬越らが挙兵すると、劉淵は輔国将軍・督北城守事に任じられ鄴の守備に就きました。司馬穎が司馬越軍を破り司馬衷を鄴へ迎え入れると、劉淵は冠軍将軍に任じられ、盧奴伯に封じられました。

従祖父・劉宣らは晋への反乱を企て、劉淵を大単于に推戴します。劉淵は葬儀を理由に帰郷を願い出ますが、司馬穎は許しません。劉淵は劉宣らに五部匈奴と諸々の胡族を集結させ、司馬穎に呼応するための召集と称して、晋への反逆を準備します。司馬騰と王浚が司馬穎討伐のために挙兵すると、劉淵はこれを自立の好機と捉え、司馬穎に進言して北単于・参丞相軍事に任じられ、并州へ帰ることを許されます。左国城に到着した劉淵は劉宣らと合流し、上大単于の称号を授かり、20日余りで5万の兵を集結させました。

漢の建国：皇帝即位と国家の確立

304年10月、劉淵は左国城に拠点を移し、正式に晋からの自立を宣言。匈奴と漢は甥の関係であるとし、前漢・後漢、そして蜀漢の後継者を自称します。国号を漢と定め、漢王朝の復興を大義名分に掲げ、漢王に即位し、年号を元熙と定めました。劉禅を孝懐皇帝と追尊し、漢の高祖・劉邦以下、三祖五宗の神主を祭り、百官を置いて国家体制を整えました。

司馬騰との攻防、そして石勒・王弥の加入

漢の建国後、并州刺史・司馬騰は鮮卑と同盟を結び劉淵を攻撃しますが、劉淵は聶玄を破り、太原などを陥落させました。306年、離石が大飢饉に見舞われたため、劉淵は拠点を黎亭に移します。司馬騰は抗戦を諦め、山東へ南下。劉琨が後任の并州刺史となり、晋陽を拠点に漢軍に対抗しました。

307年、晋に反乱を起こしていた王弥と劉霊が漢に帰順。劉淵は王弥を鎮東大将軍とし、劉霊を平北将軍としました。同年、石勒が劉淵に帰順し、輔漢将軍に任じられます。石勒は張伏利度を騙し討ちにしてその兵を奪い、劉淵に献上しました。

皇帝即位と国家の整備

308年7月、劉淵は河東に進出して太守・路述を討ち取り、平陽へ攻め入って都としました。10月、皇帝に即位し、年号を永鳳と改元しました。長男の劉和を大将軍に、三男の劉聡を車騎大将軍に任じ、百官を置いて国家体制を確立しました。309年、平陽に遷都し、玉璽を吉兆として喜び、大赦を下して河瑞と改元しました。

洛陽侵攻と各地の転戦

劉淵は朱誕の進言を受け、洛陽侵攻を企てます。劉景と朱誕を黎陽へ侵攻させ、劉聡・王弥・石勒に壷関へ侵攻させました。劉聡らは司馬越が派遣した軍を破り、屯留・長子を攻略しました。309年8月、劉聡と王弥に洛陽攻略を命じますが、劉聡は垣延の夜襲を受けて大敗を喫します。10月、劉淵は再び洛陽攻略の軍を起こし、劉聡らを派遣しますが、西晋軍の抵抗に遭い、撤退を余儀なくされました。

劉淵は劉聡や石勒らを各地に派遣し、勢力拡大を図ります。石勒は鉅鹿・常山へ侵攻し、多くの民を帰属させました。劉琨が劉虎討伐に向かうと、劉聡は晋陽を襲撃しましたが、攻略できませんでした。王弥は襄城の諸県を攻め、多くの民が王弥に応じました。石勒は白馬を急襲して陥落させ、多くの人々を虐殺しました。310年7月、劉淵は劉聡らを河内に派遣し、懐城を守る河内郡太守・裴整を包囲させました。河内の住民は裴整を捕らえて降伏し、劉淵は裴整を尚書左丞に抜擢しました。

最期

310年7月、劉淵は病床に伏し、劉聡らに後事を託して死去しました。在位6年。光文皇帝と諡され、永光陵に葬られ、廟号を高祖とされました。

人物像

劉淵は大志を抱き、寛容にして英傑であったと伝えられています。容貌はたくましく立派で、漢人の文化に深く精通し、『春秋左氏伝』『孫子』『呉子』を暗誦できるほどでした。武芸にも秀で、射術を得意とし、腕力も人並み外れていました。身長は8尺4寸（約2メートル）にも達し、3尺余りの鬚を持ち、その真ん中に3尺6寸の赤く細い毛が3本生えているという特徴的な風貌をしていました。

逸話

劉淵は7歳の時に母を亡くすと、地団太を踏んで号泣し、その悲しみぶりは周囲を感動させました。崔遊に師事していた頃、随何や陸賈、絳侯や潁陰侯の例を挙げ、文学と武芸の両方を学ぶことの重要性を説きました。人相見からは、その容貌が常人ではないと驚かれ、崇拝されました。王渾とは洛陽時代に深い交流を結び、西晋の武帝・司馬炎に度々褒め称えられました。

劉淵は、司馬穎に見捨てられた際に自立を決意し、晋朝への反旗を翻しました。介休を攻略した喬晞が賈渾とその妻を殺害した際には激怒し、喬晞を処罰しました。延津を陥落させた劉景が住民を虐殺した際には、劉景を降格させました。宗正の呼延攸が無能であったため、決して要職に就けませんでした。

劉淵の出生には瑞祥が伴い、龍門で祈った際に現れた魚が人に変貌し、日の精を授けられたという言い伝えがあります。また、汾水の中から玉璽が発見され、劉淵の即位を祝福したとされています。

洛陽時代には、その才覚を警戒され、幾度か立場が危うくなることがありました。司馬炎は劉淵の才能を高く評価していましたが、孔恂や楊珧は劉淵の異心を警戒し、兵権を与えるべきではないと諫言しました。王弥が故郷に帰る際には、洛陽で誅殺されるであろうと自らの心情を吐露しました。

宗室

后妃：呼延皇后、単皇后、張夫人
子女：劉和（玄泰）、劉恭（玄門）、劉聡（玄明）、劉裕、劉隆、劉乂

創作において

劉淵は、『三国志平話』や『続三国演義』などの小説で、漢王朝の末裔として描かれ、晋を打ち倒して漢朝を復興させる英雄として描かれています。

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