文室綿麻呂

文室綿麻呂（ふんやのわたまろ）は、平安時代初期に活躍した公卿です。備前守である三諸大原（みむろのおおはら）を父に持ち、文室真人（ふんやのまひと）から三諸朝臣（みむろのあそみ）へと改姓しました。最終的な官位は従三位・中納言、勲位は勲四等です。

経歴

792年、父・大原と共に三諸朝臣に改姓した綿麻呂は、795年に従五位下・右大舎人助に任じられ、官僚としてのキャリアをスタートさせました。桓武天皇の時代には、近衛将監や近衛少将といった武官を歴任する一方で、近江大掾、出羽権守、播磨守といった地方官も兼務しました。801年には、坂上田村麻呂らと共に蝦夷征討のため東北地方へ派遣され、その功績により正五位上に昇進しました。

平城天皇が即位すると、綿麻呂は従四位下に叙せられ、侍従兼中務大輔として天皇の身近に仕えました。その後、右兵衛督、右京大夫、大舎人頭を歴任し、809年には三山朝臣、次いで文室朝臣の姓を賜りました。嵯峨天皇の即位後には左兵衛督に転じ、大膳大夫、兵部大輔、播磨守も務めました。

810年、薬子の変が発生すると、平城上皇と共に平城宮にいた綿麻呂は、平安京に召還され拘禁されてしまいます。しかし、大納言となっていた田村麻呂が上皇を迎え撃つために東国へ向かう際、綿麻呂の武術と辺境での戦闘経験を高く評価し、同行を願い出ました。この上奏が認められ、綿麻呂は正四位上・参議に叙任され、田村麻呂と共に戦場へ向かいました。この時、綿麻呂は喜び勇んで馬に乗り出撃したと伝えられています。

薬子の変後、大蔵卿兼陸奥出羽按察使に任じられ、東北地方に駐在して蝦夷征討の責任者となりました。特に811年には、2万6千人の兵を動員して蝦夷の討伐を計画し、その動向は『日本後紀』にも詳細に記録されています。同年、綿麻呂は征夷将軍に任ぜられ、蝦夷を制圧した功績により、従三位に叙せられ、勲五等の叙勲を受けました。

詳細な活動内容としては、

2月5日：陸奥・出羽の兵2万6千人を動員し、爾薩体、弊伊の蝦夷2村を征討する計画を上奏。
3月9日：兵1万人の減員を上奏するも、朝廷に却下される。
4月17日：征夷将軍に任命される。
5月10日：俘囚の騒乱を防ぐため綏撫策を上奏し、許可される。
5月19日：準備不足を指摘され、翌年6月に出撃を命じられる。
7月4日：俘囚の兵1000人を率いて弊伊村を襲撃する計画を上奏。
7月14日：陸奥・出羽両国の俘囚兵を動員し、詳細な征討計画を上奏するよう指示を受ける。
9月22日：兵員不足を理由に陸奥国の兵1000人の追加を上奏。
10月4日：兵士の追加が許可される。
10月5日：蝦夷の殺害・捕獲、降伏を上奏。
10月13日：降伏した蝦夷の扱いについて、朝廷からの指示を受ける。
閏12月11日：蝦夷を全滅させたことで兵士配備縮小、徴兵廃止、4年間の課税免除を上奏し、許可される。

その後、衛門督、右近衛大将を経て、818年に中納言に昇進しました。823年に59歳で亡くなりました。

官歴

以下に、綿麻呂の主な官歴を記します。

792年：文室真人から三諸朝臣に改姓
795年：従五位下、右大舎人助
796年：近衛将監
799年：近江大掾
801年：出羽権守、正五位上
803年：近衛少将
806年：播磨守、侍従、従四位下、兼中務大輔
807年：右兵衛督、兼右京大夫
808年：大舎人頭
809年：三山朝臣に改姓、左兵衛督、兼大膳大夫、文室朝臣に改姓、兵部大輔
810年：播磨守、正四位上・参議、大蔵卿兼陸奥出羽按察使
811年：征夷将軍、従三位、勲五等
812年：左衛門督
813年：征夷将軍
814年：右衛門督、勲四等
816年：兼備前守、兼右京大夫、右近衛大将
817年：兼兵部卿
818年：中納言
823年：左衛門督兼大膳大夫、薨去（中納言兼右近衛大将従三位）

系譜

父：三諸大原
母：不詳
生母不明の子女
男子：乙雄王? - 子孫は有沢氏
九男：文室巻雄（810-887）

綿麻呂は、武官としての能力を発揮し、蝦夷征討や薬子の変といった歴史的な出来事に関わり、平安初期の朝廷で重要な役割を果たしました。特に、蝦夷征討での活躍は、東北地方の安定に大きく貢献し、その功績は後世にまで語り継がれています。

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