日野邦光

日野邦光(ひの くにみつ)は、南北朝時代に活躍した公卿で、藤原北家日野氏の出身です。父は権中納言日野資朝であり、邦光は幼名を阿新丸(くまわかまる)と名乗っていました。

父の冤罪と仇討ち



邦光の父・資朝は、後醍醐天皇の倒幕計画に加担したとして、北条氏に捕らえられ佐渡国に流罪となりました。この事件は「正中の変」と呼ばれています。父の流罪後、邦光の一家は京都の仁和寺付近に隠れ住んでいましたが、邦光は父に会うため、母の反対を押し切って佐渡へと渡ります。しかし、そこで知ったのは、父がすでに佐渡の守護代・本間入道によって謀殺されていたという事実でした。邦光は父の仇を討つことを決意し、夜の嵐に乗じて本間の屋敷を襲撃しました。本間入道は逃しましたが、甥である本間三郎を討ち果たすことに成功しました。その後、山伏に助けられ追手を逃れ、商人船で佐渡を脱出しました。この敵討ちの逸話は、『太平記』にも「阿新殿事」として記され、古来より広く知られています。

南朝での活躍



建武政権が成立すると、邦光は後醍醐天皇に仕え、石清水臨時祭舞人にも名を連ねています。その後、石見国(現在の島根県西部)の国司として、新田義氏と共に同地へ赴任しました。1340年には、豊田城で上野頼兼率いる北朝軍を一時的に撃退しますが、その後、北朝軍の反撃を受け、稲積城に籠城するも落城しました。その後は左兵衛督に転じ、後村上天皇綸旨を奉じる役目を担います。1350年には、宇治惟時の帰参を促すために九州へ勅使として下向しました。1352年には肥後国に滞在し、惟時の帰参条件として、征西将軍・懐良親王の推挙と菊池武光の請文を約束しました。

1354年までに権中納言に任じられ、1361年には四条隆俊細川清氏らと共に京都に乱入し、足利義詮近江国へ一時的に追いやるなど、南朝のために各地で活躍しました。しかし、その後の動向は史料に乏しく、1363年に薨去したと伝えられています。

後世への影響



日野邦光は、その忠義心と父の仇を討った孝行心から、明治時代の修身教育において、忠孝を兼ね備えた人物として大きく取り上げられ、その名を広く知られるようになりました。1915年には、その功績を讃え、正三位が追贈されています。

史跡



日野邦光ゆかりの地として、以下の史跡が残されています。

妙宣寺 (佐渡市)本間氏の雑太城跡に移築された寺で、境内には資朝の墓や、邦光が身を隠したとされる「阿新丸の隠れ松」が伝わっています。
大膳神社:邦光の仇討ちを助けたことで処刑された大膳坊を祀る神社です。

関連作品



邦光の敵討ちの逸話は、謡曲「檀風」の題材にもなっています。ただし、作中では「梅若」という名で登場します。

また、枕崎市には、邦光が薩摩国に滞在したという伝承があり、坊津一乗院を再興した成円は邦光の落胤であるという説も存在します。

日野邦光は、その波乱に満ちた生涯と、忠義と孝行を貫いた生き方から、後世に大きな影響を与えた人物と言えるでしょう。

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