旧神の印

クトゥルフ神話の謎めいたアイテム：旧神の印

クトゥルフ神話において、しばしば登場する謎めいたアイテム「旧神の印（エルダーサイン）」は、その姿形や効果について、作者や作品によって多様な解釈がなされています。五芒星形の石という基本的なイメージは共通していますが、その詳細な描写や、物語における役割は、実に多彩です。

ダーレスによる旧神の印：封印と弱体化

オーガスト・ダーレスはクトゥルフ神話の主要な作家の一人で、「旧神の印」を自身の作品世界に頻繁に登場させました。初期の作品『湖底の恐怖』や『モスケンの大渦巻き』（1931年）では、邪神を封印する強力な力を持つ五芒星形の石として描かれています。聖人たちが邪神の復活をこの石の力で阻止し、五芒星形に配置することで邪神を封印したという設定です。しかし、後の作品『永劫の探究』（1944-1952年）では、その効果は弱体化し、邪神配下の眷属を退ける程度に留まることが示唆されています。さらに、『暗黒の儀式』（1945年）では、中央に燃える柱（あるいは目）を持つ五芒星という、後の標準的なイメージが確立されました。ダーレスは、独自に創造した『発狂した修道士クリタヌスの告白録』といった架空文献を通して、キリスト教的要素と旧神を結びつけることで、旧神の印の神秘性を高めています。

ラヴクラフトと旧き印：曖昧な存在と異なる解釈

一方、クトゥルフ神話の生みの親であるハワード・フィリップス・ラヴクラフトの作品では、「旧神の印」という呼称は用いられず、関連するアイテムとしては『インスマスを覆う影』（執筆1931年）における「オールドワンズの印」が挙げられます。これは、五本の分岐線を持つ星型として描写されており、ダーレスの「旧神の印」とは異なるイメージです。ラヴクラフト自身は旧神という概念を明確に定義しておらず、作品内でも「Old One」「Ancient One」「Elder God」など、統一された呼称は存在しませんでした。そのため、『インスマスを覆う影』に登場する印は、ダーレスの作品から影響を受けた可能性が高いと推測されていますが、「旧神の印」と呼ぶには不正確です。ラヴクラフトの作品では、例えば『銀の鍵の門を越えて』や『暗黒の儀式』の断片的な記述から、邪悪を封じる効果を持つアイテムとして言及されるものの、その姿形は統一されていません。さらに、1926年の作品『未知なるカダスを夢に求めて』には、手で結ぶ印相として「旧神の印」が登場しますが、これは先のアイテムとは別のものとして扱われています。

TRPGにおける旧神の印：多様な呼称とビジュアル化

クトゥルフ神話TRPGでは、「旧神の印」は重要なアイテムとして登場し、様々なイラストが制作されています。サプリメント『キーパーコンパニオン』では「ムナールの星石」という名称で詳細な設定が提示され、『エンサイクロペディア・クトゥルフ』では「キシュの印」「サルナスの印章」など、多様な呼称が用いられています。TRPGにおけるビジュアル化は、既存の作品における描写を参考にしながらも、独自の解釈を加えたものとなっています。

その他の作家による解釈：多様な表現と効果

リン・カーターは、『陳列室の恐怖』において、ラヴクラフトとダーレス両方の描写を取り入れた独自の「旧神の印」を描写しています。五芒星形の石の中央に、ラヴクラフト風の分岐線が描かれたデザインで、ゾスの邪神像と接触すると双方とも崩壊するという設定です。また、ゲーリー・メイヤーズ、ラムジー・キャンベル、ブライアン・ラムレイといった作家も、それぞれ独自の解釈で「旧神の印」を作品に取り入れており、その効果や象徴性も様々です。ラムジー・キャンベルの作品では、キリスト教とクトゥルフ神話が融合した世界観の中で、「旧神の印」は教会の彫刻や橋脚などに組み込まれて、邪悪な存在を封じる役割を果たしています。ブライアン・ラムレイの作品では、ミスカトニック大学が「旧神の印」を量産しているという、独特の設定が見られます。

旧神の印の象徴性：五芒星と元素

ロバート・ターナーは、「旧神の印」の五芒星の五つの角が、四元素と霊の力を象徴し、人間を象徴すると解釈しています。五元素全てを備えた人類と、単一元素の旧支配者たちの対立という構図を、このアイテムに投影しているのです。また、『イオドの書』では、クトゥルフや他の外なる神の下僕に対抗する強力な武器として、「旧神の印」が位置づけられています。

まとめ：多様な解釈と進化を続けるアイテム

「旧神の印」は、クトゥルフ神話における象徴的なアイテムでありながら、その姿形や効果は、作者や作品ごとに大きく異なっています。この多様な解釈こそが、このアイテムの持つ魅力であり、クトゥルフ神話の奥深さを象徴していると言えるでしょう。今後も、新たな作家によって新たな解釈が加えられ、このアイテムの物語は進化し続けることでしょう。

もう一度検索