春原五百枝

春原五百枝（はるはら の いおえ）

春原五百枝は、平安時代初期に活躍した公卿です。もとは五百枝王と名乗り、皇族の一員でしたが、後に春原朝臣の姓を賜り、臣籍に降下しました。彼は志貴皇子の玄孫にあたり、父は摂津大夫の市原王、母は光仁天皇の皇女である能登内親王です。最終的な官位は参議中務卿正三位兼美濃守でした。

生涯

春原五百枝は、母が光仁天皇の皇女であった関係から、桓武天皇の時代に皇孫として遇され、天応元年（781年）には従四位下に叙せられました。同母姉妹の五百井女王とともに、異例の昇進を果たし、侍従に任官しました。その後、右兵衛督にも任命され、順調に昇進を重ねます。しかし、延暦4年（785年）に藤原種継暗殺事件に連座し、伊予国への流罪という不遇を経験することになります。

流罪生活は長く、20年後の延暦24年（805年）にようやく赦免され、都に戻ることができました。桓武天皇の崩御直前には、天皇の病床に召され、従四位上に復位し、天皇の葬儀では御装束司を務め、誄を述べるなど、重要な役割を果たしました。その後、再び皇族の身分に戻りますが、間もなく臣籍降下を願い出て、春原朝臣の姓を賜りました。平城天皇の時代には、武蔵守を務めました。

嵯峨天皇の時代に入ると、大同5年（810年）に薬子の変が終結した後、讃岐守に任ぜられました。翌弘仁2年（811年）には正四位下・宮内卿に叙任され、弘仁3年（812年）には従三位に昇進し、公卿の仲間入りを果たします。その後も、右兵衛督、右衛門督などの武官を歴任し、弘仁10年（819年）には参議に昇進しました。さらに、弘仁11年（820年）には治部卿を兼任しました。

淳和天皇の時代には、議政官として刑部卿、右京大夫、民部卿、中務卿などを歴任し、天長5年（828年）には正三位に叙せられました。天長6年（830年）に71歳で亡くなりました。

藤原種継暗殺事件での連座・赦免

春原五百枝は、藤原種継暗殺事件に連座して流罪となりましたが、その背景にはいくつかの要因があったと考えられています。まず、父の市原王が、事件の首謀者とされた大伴家持と親交が深かったことが挙げられます。また、母の能登内親王の末弟である早良親王も事件に関与したとされ、五百枝王自身も疑われた可能性があります。さらに、光仁天皇の外孫である五百枝王の存在自体が、桓武天皇や安殿親王（後の平城天皇）の皇位継承に対する潜在的な脅威と見なされた可能性も指摘されています。

事件関係者の赦免時期について、大伴家持らが桓武天皇の崩御後だったのに対し、五百枝王のみ崩御前だったのは、天皇が直接王に対面してこれまでの経緯を謝罪をするためだったとする推測もあります。

『万葉集』成立への関与

『万葉集』は、大伴家持が編纂したとされていますが、家持が陸奥国で亡くなったため、完成が遅れたとする説があります。その際、家持に代わって編纂を完成させた人物がいた可能性が指摘されており、その候補として春原五百枝の名前を挙げる研究者がいます。この説は、あくまで推測の域を出ませんが、今後の研究によって新たな事実が明らかになるかもしれません。

官歴

天応元年（781年）：従四位下（直叙）、侍従
天応2年（782年）：右兵衛督
延暦3年（784年）：従四位上
延暦4年（785年）：流罪（伊予国）
延暦21年（802年）：居住許可
延暦24年（805年）：赦免、帰京
延暦25年（806年）：従四位上復位、御装束司、二世王復帰、臣籍降下（春原朝臣）
大同2年（807年）：武蔵守
大同5年（810年）：讃岐守
弘仁2年（811年）：正四位下、宮内卿
弘仁3年（812年）：従三位
弘仁5年（814年）：右兵衛督
弘仁8年（817年）：右衛門督
弘仁10年（819年）：参議
弘仁11年（820年）：治部卿
天長5年（828年）：正三位
天長6年（829年）：薨去

系譜

父：市原王
母：能登内親王（光仁天皇の娘）
子女：春原百枝、春原之興


春原五百枝は、波乱に満ちた生涯を送った人物ですが、その政治的な影響力や文化的貢献は、今日においても注目されています。

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